6月17日、ZME Scienceが「OpenAI Model Cracked an 80-Year-Old Math Problem and Mathematicians Are Stunned」と題した記事を公開した。OpenAIの内部AIモデルが、80年間証明も反証もできなかった数学の未解決予想に反例を与え、数学界に衝撃を与えている。フィールズ賞受賞者が「AIの生成した証明でこのレベルの洗練度に達したものはない」と評するほどの成果だ。
フィールズ賞(数学のノーベル賞に相当)受賞者のティモシー・ガワーズ(Timothy Gowers)は今回の論文について「人間の研究者がこの論文を数学の名門誌『Annals of Mathematics』に投稿してきたなら、私はためらうことなく掲載を推薦するだろう」と述べた。AIが生み出した数学的証明に対してこれほど明確な評価が下されたのは、これが初めてとみられる。
伝説的数学者エルデシュの予想が崩れた
1946年、ハンガリーの数学者パウル・エルデシュ(Paul Erdős)は「平面単位距離問題」として知られる問題を提起した。20世紀を代表する組み合わせ論の巨人であり、生涯に1500本以上の論文を残したエルデシュが残したこの問題の設定は、一見シンプルに見える。無限に広い平面上に n 個の点を自由に配置するとき、ちょうど1単位の距離だけ離れた点のペアは最大でいくつ作れるか、というものだ。
エルデシュ自身は、正方格子(square grid)のような規則的な配置から大きく改善することはできないだろうと予想していた。問題の証明には組み合わせ論・解析学・代数的整数論を横断する深い洞察が必要とされ、過去80年間、世界中の数学者が挑んでも完全な証明には至らなかった。「おそらく正しい」という共通認識だけが積み重なっていた難問である。
OpenAIはその予想が誤りであることを証明した。
OpenAIの内部AIモデルは、代数的整数論(algebraic number theory)の手法を用いて、正方格子よりも単位距離ペアを大幅に多く含む点の配置が無数に存在することを示した。これがエルデシュ問題90番への反例である。OpenAIは論文とともに、モデルに与えたプロンプトおよびモデルの「思考の連鎖(chain of thought)」もPDF形式で公開しており、AIが人間の数学研究者と同様のプロセスで問題に取り組んだことが確認できる。なお、今回使用されたモデルの具体的な名称はOpenAIからは明らかにされていない。
フィールズ賞受賞者も「即掲載推薦」
OpenAIが論文と同時に公開した数学者たちのコメント集には、著名な数学者による評価が並んでいる。ガワーズの評価はすでに紹介したが、カナダの数学者ダニエル・リット(Daniel Litt)も「AIが自律的に生み出した結果として、私が純粋に興味深いと感じた初の成果だ」と述べた。
今回の結果が特に注目される点は、数学専用のモデルではなく汎用AIモデルによって生み出されたことだ。特定の数学タスク向けに特化・チューニングされたシステムではなく、広範な用途に対応するモデルが、専門家も解けなかった問題を突破したことの意味は大きい。
波及:DeepMindも同週にエルデシュ問題を9題解決
このブレークスルーが公開されたのと同じ週、さらに二つの動きがあった。いずれも独立した取り組みであり、OpenAIの結果に触発されたわけではないが、時期が重なったことでAIによる数学研究の潮流を印象づける結果となった。
米国の数学者ウィル・ソーウィン(Will Sawin)が同じ論理の流れを追い、さらに改良された結果を発表した。ただしソーウィンの結果が格子状配置を上回るのは10の200万乗個以上の点がある場合からとされており、これは事実上「無限に近いスケール」の話であり、現実的な数学的応用を意味するものではない。また、Google DeepMindのチームは独自モデルを用いてエルデシュが残した9つの未解決問題を解決したと発表した。
AIが得意な数学と、まだ不明な領域
モナシュ大学(Monash University)のメリッサ・リー(Melissa Lee)上席講師は、数学研究に必要な三つの要素として「専門知識(長年の学習で培われる)」「創造的な探索(多くの失敗を厭わず試行し続ける)」「概念的な飛躍(問題の見方を根本から変えるひらめき)」を挙げている。
ガワーズが指摘するように、現在の大規模言語モデルは「数学の百科事典的な知識」を持ち、人間の時間的制約なしに膨大な仮説の枝を追える点で専門知識と創造的な探索に長けている。今回の成功もその延長線上にある。必要なアイデアの多くは既存の文献に存在しており、専門家がわずかなヒントを与えられれば同様の証明に到達できた可能性は高い。
一方、「ひらめき」——問題を全く新しい視点で捉え直す瞬間——がAIに再現できるかどうかは、現時点でも不明だという。80年来の予想を打ち破った今回の成果は、AIが数学研究の主役になりつつあることを示す一方で、その限界の輪郭もあわせて浮かび上がらせている。
詳細はOpenAI Model Cracked an 80-Year-Old Math Problem and Mathematicians Are Stunnedを参照していただきたい。




