powered by TechFeed
表示モード
Anthropic

トランプ政権がAnthropicのAIモデルを突然オフラインにさせた一件が露わにしたもの — ルールなき規制という矛盾

6月19日、Maxwell Zeffが「The White House Is Making Up Its Rules for AI in Real Time」と題した記事を公開した。ルールが存在しないのに違反になる——トランプ政権がAI規制のルールを明文化しないまま場当たり的に運用している実態が、Anthropicへの突然の輸出規制指令によって白日のもとにさらされた。

6月19日、Maxwell Zeffが「The White House Is Making Up Its Rules for AI in Real Time」と題した記事を公開した。ルールが存在しないのに違反になる——トランプ政権がAI規制のルールを明文化しないまま場当たり的に運用している実態が、Anthropicへの突然の輸出規制指令によって白日のもとにさらされた。


Anthropicへの輸出規制指令が露わにしたもの

約1週間前、トランプ政権はAnthropicに対して輸出規制の指令を送付し、同社の最先端モデル「Claude Mythos」および「Fable 5」をオフラインにさせた。

※編集部の考察:Claude Mythosは記事公開時点(2025年6月)でAnthropicが展開する最先端モデルとして登場している。AnthropicはこれまでにもClaude 3系(Haiku・Sonnet・Opus)を段階的にリリースしてきており、MythosおよびFable 5はその後継にあたる新世代モデルと見られる。両者の正確な位置づけについては現時点で公式情報が限られており、元記事の記述に基づいて紹介している。

その後もAnthropicとホワイトハウスの協議は続いているが、両者の主張は真っ向から対立したままだ。Anthropicに近い関係者によると、同社はトランプ政権が定めた具体的な手続きやルールに違反したとは考えていない。一方のホワイトハウスは、Anthropicが無謀な行動をとったと主張し、フロンティア技術を安全に展開する能力に疑問を呈している。

トランプ政権はAI業界へのガードレール設置の試みを繰り返し阻止してきた。バイデン政権が構築した国家AIフレームワークを大統領令で覆し、州法への対抗タスクフォースを設置するなど、「規制はイノベーションを妨げ、中国との競争で不利になる」という論理を一貫して押し通してきた。しかし今回の件で、その姿勢に根本的な矛盾が生じた。

元ホワイトハウス技術系高官は(人間関係への影響を懸念し匿名で)次のように語った。

「問題は、ホワイトハウスが極端な反規制姿勢をとってきた結果、長年予測されてきたAIの実際の能力に直面したことだ。体系的に対処するための準備と政策が必要だったのに、場当たり的なアプローチになっており、AI業界を本当の苦境に立たせている」

米国政府はAnthropicが何を間違えたのかを一度も明確に説明していない。公式な説明として存在するのは、ホワイトハウスのテクノロジーアドバイザー、David Sacksがポストしたおおまかな状況説明のみだ。


具体的に何が問題とされたのか——そして「輸出規制」とは何か

報道によると、ホワイトハウスが懸念を持った理由は主に2点ある。

  1. SK Telecomへのアクセス共有:Anthropicが韓国の大手通信企業SK Telecomと共有したMythosについて、米当局は同社が中国との関係を持つと主張した。ただしAnthropicは、Mythosの展開については事前に米政府と連携していたと説明している。また、SK Telecomとは数年来の付き合いがあり、これまで安全保障上の問題は生じていなかった。ホワイトハウスが懸念を示した際には即座にアクセスを取り消したという。

  2. Fable 5のジェイルブレイク問題:AmazonはAnthropicの主要出資者であり、両社はAWS上でのClaudeサービス展開を通じて深く連携している。報道によれば、Amazon CEOのAndy JassyがClaudeの安全版モデル「Fable 5」の一部ガードレールを回避できると財務長官Scott Bessentに伝えたとされる。Jassyがこの文脈でどのような立場・経緯で当事者として登場したかについて、元記事は詳細を明かしていないが、Amazonの出資者かつAWS経由の展開パートナーという関係が背景にあると見られる。なお大規模言語モデル(LLM)は確率的であり、特定のプロンプトに対して何を生成するかを完全には保証できない。すべてのLLMはある程度ジェイルブレイク可能であり、これはAnthropicに限った問題ではない。

※編集部の考察:今回の「輸出規制」がどの法的根拠に基づくものかは元記事では明示されていない。米国の輸出管理の主な法的枠組みとしては、商務省が所管するEAR(Export Administration Regulations)や国務省が所管するITAR(International Traffic in Arms Regulations)が存在するが、AIモデルへの適用については現時点で体系的な規定が整備されていない。今回の指令が既存法の解釈に基づくものか、新たな大統領令によるものかが不明確であることこそが、「ルールなき規制」という問題の核心と言える。Anthropicが指令に従わざるを得ない構造的背景——政府との契約関係や将来的なライセンス取得リスクなど——についても、元記事は踏み込んだ説明をしていない。


事実上の「ライセンス制」が誕生した

今回の影響は深刻だ。ホワイトハウスの要求により、Anthropicは外国籍の従業員を含む全員をMythosとFable 5から締め出すことになった。Apple、Meta、Fortune 500企業の多くも利用できなくなっている。

他のAIラボ——OpenAI、Google、Meta——は固唾を飲んでAnthropicの動向を見守っている状況だ。複数のAI幹部が現時点で出している答えは同じで、「ホワイトハウスに最新モデルへの早期アクセスを提供し、モデルリリースの情報を極めて積極的に共有するしかない」というものだ。

カナダのAIラボCohere CEOのAidan Gomezはこう述べた。

「事前通知、事前アクセス——これらが米国だけでなく世界各国から寄せられている主な要請だと思う。非常に重要な技術に対して当局が真剣に向き合っている証だ」

トランプ大統領は先月、AIラボが政府にモデルを提出して早期テストを受けられる「任意の」制度を設ける大統領令に署名した。その際、AI業界が強く懸念していた「強制的なライセンス制にはしない」という例外条項も明記されていた。

しかし今回のAnthropicへの対応を見れば、ホワイトハウスは事実上、非公式なライセンス制度を作り上げたと言える。前述の元高官はこう断言する。

「トランプ政権はこれを任意の制度と言うべきではなかった。彼らが今やっていることは明らかにライセンス制度だ」

明文化されたルールなき規制。それが現在のアメリカのAIガバナンスの実態だ。


詳細はThe White House Is Making Up Its Rules for AI in Real Timeを参照していただきたい。