powered by TechFeed
表示モード
ビジネス・マーケット

GoogleがNvidiaの「循環融資」戦略を踏襲 — 自社TPUをNvidiaチップの代替として普及させるための金融工学とは

6月19日、The Next Webが「Google is using Nvidia's playbook to break its AI-chip grip」と題した記事を公開した。この記事では、GoogleがNvidiaの需要喚起手法を参考にしながら独自展開する「循環融資」戦略でTPUの普及を加速させ、AIチップ市場の覇権に挑んでいる実態が詳しく紹介されている。

6月19日、The Next Webが「Google is using Nvidia's playbook to break its AI-chip grip」と題した記事を公開した。この記事では、GoogleがNvidiaの需要喚起手法を参考にしながら独自展開する「循環融資」戦略でTPUの普及を加速させ、AIチップ市場の覇権に挑んでいる実態が詳しく紹介されている。


Nvidiaが使った手をGoogleが使い始めた

Nvidiaが90%超のAIチップ市場シェアを築いた手法の一つが「循環融資(circular financing)」だ。チップメーカーが資金を投じ、その金が回り回って自社チップの購入に戻ってくる構造を指す。GoogleはいまこれをTPU普及のために積極的に展開しつつある。

WSJ(ウォール・ストリート・ジャーナル)の調査報道が明らかにした最も具体的な事例が、ナイアガラの滝から車で少しの距離にあるニューヨーク州西部のAIデータセンタークラスター「Lake Mariner」だ。GoogleはここでTeraWulfと、Google出資のクラウドプロバイダーであるFluidStackに対し、32億ドル(約4,800億円)の財務保証を提供した。両社はGoogleのTPUによる演算リソースをAnthropicに貸し出す。この保証があるからこそ、データセンター側は低コストの債務調達が可能になる——これはNvidiaが何度も繰り返してきた需要喚起の手法を踏まえた構造だ。

保証の連鎖:River Bend、Colorado City

同じ構造がほかにも連なっている。

  • River Bend(ルイジアナ州バトンルージュ近郊):70億ドルのデータセンタープロジェクトに保証
  • Colorado City(テキサス州):コンピューティングリースに14億ドルの保証

これらの保証は、GoogleがTPUを搭載したインフラの整備コストを直接負担するのではなく、外部事業者の資金調達リスクを引き受けることで間接的に需要を創出する設計になっている。さらにその上に、ApolloとBlackstoneが組成した約350億ドルのプライベートクレジット案件が乗っかっている。この資金でGoogle TPUを購入し、Anthropicにリースするという構造だ。Googleが直接融資するわけではないが、保証と出資で全体の信用を支える役割を担っている。

TPUを「売る」フェーズへ

Googleはこれまで自社サービス向けにTPUを内部利用してきたが、5月にTPUを外部顧客に直接販売する方針を発表した。あわせて、モデルの学習ではなく推論(inferenceサービング)に特化した新チップも公開している。推論はChatGPTのようなサービスが急拡大するにつれて最も費用のかかるワークロードになりつつある領域だ。

Blackstoneとの50億ドルのクラウド会社設立契約も締結しており、CoreWeaveやNebiusといったNvidiaチップを基盤とするプロバイダーへの直接対抗を打ち出している。今月には850億ドルの株式調達(主にAIインフラ向け)の計画も発表した。なお同調達計画はWSJが報じたものであり、Google自身の公式発表とは別途確認が必要な情報として元記事は位置づけている。

早期採用者であるCitadel Securitiesは「一部ワークロードでTPUはGPUと比べてコストが30%低く、速度は最大4倍」と報告している。

Nvidiaは余裕を見せるが

NvidiaのJensen HuangはTPUの脅威を公の場でたびたび矮小化している。「NvidiaのマーケットリーチはいかなるTPUやASICにも到底及ばない」と4月に発言し、AnthropicがGoogleのTPUの唯一の主要外部顧客に過ぎないと指摘した。発言は余裕たっぷりだ——「全部Nvidiaから買ってくれれば最高だが、一部でも買ってくれれば十分うれしい」。

ただ実態は盤石ではない。一部の中小クラウド事業者はNvidiaのチップ割り当てを失うことを恐れて競合チップへの乗り換えをためらっており、業界ではこれを皮肉を込めて 「Jensen jail(ジェンセンの牢獄)」 と呼んでいる。CUDAエコシステムとプラグアンドプレイのハードウェアが作り上げた参入障壁は依然として厚い。

構図の意味

GoogleのAIインフラ部門を統括するAmin Vahdat(2024年12月に昇進)は「需要が非常に大きいためゼロサムではない」と発言しているが、Googleの行動は明らかに競争を意識したものだ。

挑戦者はGoogleだけではない。AMD、Broadcom、Cerebras、そしてAmazonも500億ドル規模のTrainium事業と大規模Anthropicクラスターで同じ戦略を走らせている。ただし、Googleの規模の財務力を持つ挑戦者はほかにいない。Nvidiaの90%超のシェアが初めて本格的な試練に直面しているとすれば、それは技術の優位ではなく、金融工学の巧みな踏襲によってもたらされようとしている。


詳細はGoogle is using Nvidia's playbook to break its AI-chip gripを参照していただきたい。