6月20日、PYMNTS.comが「Instacart Reports Agentic AI Assistant Drives Bigger Grocery Orders」と題した記事を公開した。注目すべきは、InstacartのAIアシスタント経由の注文額が通常の注文より大きいという実測データが明らかになった点だ。「便利なUX機能」にとどまらず、AIエージェントが実際の売上指標を動かすことを示す具体的な事例として業界内で関心を集めている。
会話でカートを組み立てるAIアシスタント
Instacartは、ユーザーとの会話、提案プロンプトの選択、または買い物リストの写真アップロードをもとに自動でカートを構成するAIアシスタントのロールアウトを開始した。
具体的には、「4人分の平日の夕食を簡単に」「いつもの商品でセール品を探して」「卒業パーティーの前菜」といったメッセージを入力するだけで、アシスタントが商品を選定してカートに追加する仕組みだ。
技術的に注目すべき点は、北米約10万店舗のリアルタイム在庫データにアクセスしている点である。在庫にない商品はカートに追加されない。また、ユーザーの注文履歴から好みのブランドを学習し、レコメンドやセール品の提示も行う。
現在、米国の数百万人のユーザーに向けてアプリとWebサイト経由でロールアウト中であり、数ヶ月以内に米国・カナダで全展開が完了する予定だ。
Instacartは2012年創業のグロサリーデリバリープラットフォームで、北米市場においてAmazon Fresh、Walmart+、DoorDash(DashMart)などと競合している。同社の強みは小売チェーンとの提携網にあり、単独の小売業者では実現できない横断的な在庫検索と価格比較が可能な点が差別化要因となっている。今回のAIアシスタントはその既存インフラの上に構築されており、データ優位性をそのまま活用できる構造になっている。
AIエージェントが購買単価を引き上げた
今回の記事で最も具体的な数字が示されているのが、購買行動への影響だ。
Instacartは今年初頭から数ヶ月間にわたってAIアシスタントをテストしており、AIアシスタント経由の注文額は通常の注文より大きいという結果が出ている。ユーザーが単に「速く買い物を終わらせる」だけでなく、レシピの発見やミールプランニングといったより複雑なタスクにアシスタントを活用しているためだと同社は分析している。
アジェンティックAI(Agentic AI)とは、単に情報を返すだけでなく、目標に向けて自律的に複数のステップを実行するAIシステムのことを指す。Instacartの場合、「献立を考え、必要な食材をカートに入れ、在庫確認と価格最適化まで行う」という一連の処理を自律的にこなす。
元記事では、Instacart CEOが今年第1四半期の決算説明会でこう述べたと紹介されている。
「16億件以上のライフタイム注文を通じて、私たちはグロサリーの購買行動について独自の深い理解を持っている。これを活用して、アジェンティックグロサリーAIのゴールドスタンダードを構築する」
同社は14年分の購買データと約10万店舗の在庫データという、外部のAIプレイヤーが簡単に再現できないデータ優位性を持っており、この点がシステムの根幹を支えている。
AIエージェントによるコマースは実験フェーズを脱しつつある
PYMNTS Intelligenceのレポート「Global Digital Shopping Index: The AI-Powered Shopper Has Arrived」によると、買い物客の64%が今後2年以内にAIエージェントを使って買い物をすることを想定しており、そのうち30%は頻繁またはほぼ常時使うと回答している。なお、この数字はPYMNTS Intelligence独自の調査に基づくものであり、調査対象や方法の詳細は同レポートを直接参照されたい。
同レポートはこれを「新技術に対して非常に高い期待値」と評しており、アジェンティックコマースが実験段階から大衆普及フェーズに移行しつつあるとしている。
Instacartの事例は、AIエージェントが「便利なUX機能」にとどまらず、実際の売上指標に影響を与えることを示した事例として位置づけられる。グロサリーデリバリー市場では各社がAI活用を加速させており、今回の購買単価上昇という実績データは、競合他社の戦略にも影響を与えうる注目の指標といえる。
詳細はInstacart Reports Agentic AI Assistant Drives Bigger Grocery Ordersを参照していただきたい。




