6月23日、Wiredが「OpenAI Launches Full-Scale Effort to Patch Open-Source Bugs as It Takes on Anthropic's Mythos」と題した記事を公開した。OpenAIがオープンソースソフトウェアの脆弱性修正を支援する大規模プログラム「Patch the Planet」を立ち上げたことと、セキュリティ特化モデルをめぐるAnthropicとの競争について詳しく紹介されている。
AIが脆弱性を「生み出す側」から「修正する側」へ
AIによる脆弱性探索ツールの普及が、オープンソースメンテナーを追い詰めている。ボランティアが少ないリソースで維持してきたプロジェクトに、AIが自動生成した大量のバグレポートが押し寄せ、真に重大な問題の優先付けが困難になっているのが現状だ。こうした低品質・大量生成のバグレポートは「slop CVE」と呼ばれる。CVEとはCommon Vulnerabilities and Exposuresの略で、公開されたセキュリティ脆弱性・露出を一意に識別するための標準的な識別子体系を指す。本来は深刻度の高い問題を整理するための仕組みだが、AIによる自動報告の乱発でその信頼性が揺らいでいる。
OpenAIのサイバー担当テックリード、Fouad Matinはこの状況をこう表現している。
「メンテナーたちはオープンソースへの愛でその仕事をしているのに、今や大量のslop CVEのレビューに追われている」
OpenAIはこの問題に正面から向き合う形で、セキュリティ研究会社のTrail of Bits、および脆弱性管理企業のHackerOneと共同で「Patch the Planet」プログラムを始動させた。
Patch the Planetの中身
このプログラムはオープンソースメンテナーに対して、無償でセキュリティコンサルティングを提供するものだ。単に脆弱性を検出・修正するだけでなく、コードベースの強化やAIセキュリティツールの開発フローへの組み込みまでを支援する。
立ち上げ時には、Trail of BitsがOpenAIの資金提供のもとで5日間の集中スプリントを実施。同社の全エンジニアの約5分の1にあたる25名が同時並行で複数のメンテナーと協働した。その結果、初週だけで数百件のバグを発見し、数十件のパッチを作成したという。
Trail of Bits CEOのDan Guidoは次のように語る。
「Patch the Planetはワンサイズ・フィット・オールではない。すべてのプロジェクトのメンテナーと個別に話し、テストインフラの整備なのか、カスタムファザーの作成なのか、技術的な負債の整理なのか——何が最優先かを一緒に見極める」
現在すでに30以上のオープンソースプロジェクトが参加しており、さらに参加予定のプロジェクトもパイプラインにあるという。
参加プロジェクトには最終的に、6ヶ月間のChatGPT Pro無償利用と6ヶ月間のCodex Security(OpenAIが提供するコードの脆弱性スキャンツール)、そして持続可能なインフラ・ワークフロー改善の成果物が提供される。Guidoによれば、費やした時間の約半分はバグ探索ではなく、「コードベースに特化したエージェントのカスタマイズと、メンテナーへの使い方のレクチャー」に充てられたという。
OpenAIはまた、Codex Securityスキャナーのオープンソースおよびプライベートコードへの利用を合計20兆トークン規模で補助してきたことも明らかにした。
GPT-5.5-Cyberと競合AnthropicとのAIサイバー競争
今回の発表はPatch the Planetだけにとどまらない。OpenAIは同日、限定アクセスプログラム「Trusted Access for Cyber」の一環として、セキュリティ特化モデルの新チェックポイントとなるGPT-5.5-Cyberの改良版も発表した。
このモデルはセキュリティ評価ベンチマーク「CyberGym」において85.6%のスコアを記録したとOpenAIは主張している。比較対象として挙げられているのがAnthropicのMythos 5(83.8%)だ。Mythos 5はAnthropicが開発したサイバーセキュリティ能力評価向けのモデルを指す。なお、このベンチマーク数値はOpenAIによる自己申告であり、独立した第三者機関による検証結果ではない点には留意が必要だ。GPT-5.5-Cyber自体も公開リリースではなく、限定的なTrusted Accessプログラム内での提供にとどまる。
Anthropicをめぐっては、同社が今月上旬に汎用モデル「Fable 5」(Anthropicが開発した大規模言語モデル)を公開した経緯がある。Fable 5は生物兵器やサイバー能力に関わる先進機能をブロックした状態でリリースされたが、元記事によればその後、規制当局の判断によりMythos 5を含む一部モデルの提供に制限が加えられたとされる。OpenAIとAnthropicがともにIPOを控える中、両社の競争は続いている。
この状況を受け、ファイブアイズ(Five Eyes)——米英加豪NZの情報同盟——は珍しい形での共同声明を発表し、次のような警告を発した。
「フロンティアAIモデルは現在の業界予測を超え、攻撃・防衛両面のサイバー能力を根本的に変容させると見込まれる。そのタイムラインは数年ではなく、数ヶ月だ」
AIが脆弱性を「量産する」ツールとして普及しつつある今、Patch the Planetはその対抗措置として、AIを「修正する側」に回すという発想の転換を体現している。オープンソースのセキュリティ問題は長年、リソース不足で後回しにされてきたが、このプログラムがその構造的な課題にどこまで実効性をもって対処できるかが問われることになる。
詳細はOpenAI Launches Full-Scale Effort to Patch Open-Source Bugs as It Takes on Anthropic's Mythosを参照していただきたい。




