6月22日、Silicon Snarkが「Deep Dive: NVIDIA's AI Chip Empire Has Real Rivals Now. AMD, Broadcom, and Google Brought Picks and Shovels.」と題した記事を公開した。Broadcomが前年比143%増・108億ドルのAI半導体売上を記録し、次四半期ガイダンスが160億ドル(前年比200%超)に達した今、NVIDIAの「帝国」はドラマチックな正面衝突ではなく「ワークロード単位の侵食」によって削られ始めている——この記事はその構図を詳細に描き出している。
NVIDIAの「帝国」は何でできているのか
NVIDIAが構築しているのはチップではなくプラットフォームだ。CUDAと呼ばれる開発者エコシステム(ライブラリ・ツール・ドキュメント・フレームワーク)が何百万もの開発者の習慣として積み重なっており、これを別のアーキテクチャに乗り換えることは「ノートPCのブランドを変える」ようなものではなく、「稼働中のデータセンターの配管を丸ごと交換する」に近い。
さらにNVIDIAはネットワーク・ラック・ソフトウェア・調達の確実性まで含めたシステム全体を売っている。2027年度第1四半期(2025年5月20日発表。NVIDIAは1月締め会計年度のため、2025年初頭〜4月期が「2027年度Q1」にあたる)の業績は、その規模を端的に示す。データセンター売上は752億ドル(前年比92%増)、全社売上は816億ドル(同85%増)で過去最高。次四半期のガイダンスは約910億ドルだ。データセンターネットワーキング単体でも148億ドルを稼ぐ巨大事業になっており、「GPUだけの会社」という認識はすでに古い。
この圧倒的な規模が生み出す調達ループも強固だ。フロンティアラボはすでに実績のあるものを求め、クラウドはユーザーが要求するものを調達し、スタートアップは投資家が知っているものを選ぶ。ベンチマーク文化が同じデフォルトを聖別し続ける。ハードウェアの優位が「社会的事実」になる構造だ。
Broadcom:最も危険な「非GPU」の挑戦者
AMDが正面からの挑戦者なら、Broadcomは「配線室に潜んでスプレッドシートを広げている」存在だ。
Broadcomの武器はカスタムシリコン(XPU)だ。XPUとは特定顧客・特定ワークロード向けに最適化された専用ASICを指し、汎用性を捨てる代わりに電力・コスト・レイテンシ効率で圧倒的な優位を実現する。2026年6月3日発表の第2四半期決算では、AI半導体売上が108億ドル(前年比143%増)に達し、Q3ガイダンスは160億ドル(前年比200%超)とした。これはスタートアップの数字ではなく、「モートに通用口が存在する」ことを示す数字だ。
Broadcomのロジックはシンプルだ。Google・Meta・Amazon・Microsoftのような超大規模ユーザーは、実験フェーズでは汎用アクセラレータが有効でも、安定した大規模ワークロードでは専用設計のシリコンの方が電力・コスト・レイテンシ・メモリ効率で有利になる。
具体的な動きとして、2025年4月にBroadcomはMetaとの拡張パートナーシップを発表した。MetaのMTIA(Meta Training and Inference Accelerator)に対して、業界初の2nmプロセスを使ったAI計算アクセラレータを含む複数シリコン世代にわたって技術を提供し、少なくとも2029年まで継続する計画だ。これが「カスタムチップ戦略」の典型例だ——ハイパースケーラーが特定ワークロードを切り出し、シリコンパートナーと多年契約を結ぶことでNVIDIAの「デフォルト」としての地位を内側から削る。
BroadcomはNVIDIAをすべての戦場で倒す必要はない。最大規模・最も予測可能・最もコスト感応度の高いワークロードを取り込むだけでよい。NVIDIAのマージン構造と戦っているのであって、ブランドと戦っているわけではない。
AMD:「明白な対抗馬」という立場の光と影
AMDは最も分かりやすい競合だ。データセンター向けアクセラレータをクラウド・ラボ・企業・スーパーコンピューティング向けに広く展開する、NVIDIAと同じ土俵の選手である。
ハードウェア面の野心は本物だ。CES 2026でAMDはHeliosラックスケールプラットフォームを発表。Instinct MI455Xアクセラレータ・EPYC「Venice」CPU・Pensando「Vulcano」NICとROCm(AMDのオープンソースGPUコンピューティングスタック)を組み合わせ、1ラックあたり最大3 AI exaflopsを実現するとした。MI400ポートフォリオの詳細発表と2027年向けMI500のプレビューも行い、単体チップではなくラックスケールで売る姿勢を示している。
AMDの優位点は複数ある。CPU分野の実績・GPUの設計経験・チップレット技術・既存のクラウドとの関係・「合理的な代替」として長年生き延びてきた歴史、そして何よりNVIDIAへのレバレッジを求める顧客の切実なニーズだ。
課題はソフトウェアの重力だ。ROCmは改善が続いているが、CUDAは依然として開発者の「デフォルトの思考モデル」として定着している。AMDが取れる顧客は、最適化できるほど洗練されているか、コスト意識が強くて移行コストを受け入れられるか、のどちらかだ。それは小さくない市場だが、全市場ではない。
AMDの近期の現実的な役割は「NVIDIAキラー」ではなく「信頼できるセカンドソース」だ。これは侮辱的に聞こえるが、一番手のサプライヤーが供給制約・高マージン・政治的複雑さを抱えている状況では、セカンドソースには莫大な価値がある。企業・クラウド・政府機関にとって「代替手段がある」と言えることには、それ自体に意味がある。
Google TPU:ワークロードを自分で持つ者の強み
GoogleのTPU(Tensor Processing Unit)は最も成熟した「ハイパースケーラー内製シリコン」の事例だ。TPUはGoogleが2016年から開発を続けるAIアクセラレータで、汎用GPU向けに設計されたCUDAエコシステムとは独立した独自スタックの上で動作する。2025年4月に発表された第7世代TPU「Ironwood」は、同社初の推論特化設計で、最大9,216チップの液冷ポッドに拡張できる。その後、Google Cloud上での一般提供(GA)も開始された。
GoogleがTPUで証明したのは、「自分がワークロードのオーナーであり、クラウドプロバイダーであり、モデル開発者でもある場合、カスタムシリコンは意味をなす」という命題だ。外部顧客に売るのではなく、自社の内部ループを最適化するシリコンとして機能している。
本当の構図:「ボス戦」ではなく「侵食」
記事が示す結論は明快だ。NVIDIAは一度のドラマチックな戦いで倒れることはない。起きているのはワークロード単位の侵食だ。
- AMDが汎用GPU市場の一部を取る
- Broadcom・Marvellがハイパースケーラーのカスタムアクセラレーター需要を取り込む
- Google TPU・AWS Trainium・Microsoft Maia・Meta MTIAが各社内部での依存度を下げる
- Huaweiは制裁によってNVIDIAが事実上退場させられた中国市場でデフォルトの代替になる
一方でNVIDIAは、学習・フロンティア実験・汎用アクセラレーション、そして「すでに統合済みの製品を買いたい」層に対しては依然として最も広く・最も安全で・最も成熟した選択肢であり続ける。
記事はこれを「無敵ではない。それよりタチが悪い:成熟した大人(adulthood)だ」と表現している。挑戦者にとって最も厄介なのは、NVIDIAが絶対的に強いことではなく、NVIDIAが「デフォルトを変える手間」を上回り続けていることだ。
詳細はDeep Dive: NVIDIA's AI Chip Empire Has Real Rivals Now. AMD, Broadcom, and Google Brought Picks and Shovels.を参照していただきたい。




