6月23日、VMblogが「Europe Unveils a Record 35 New NVIDIA AI Supercomputers」と題した記事を公開した。欧州全域で過去最大規模となる35台のNVIDIA AIスーパーコンピューターが1年間で整備・発表され、300万人以上の研究者が次世代インフラを利用できるようになる。米中に対するAI主権(AI sovereignty)確立を明確に意識した、欧州史上最大規模の公的AI投資の加速だ。なお「一斉整備」とは、すでに稼働中のものと発表・整備中のものの両方を含む。
欧州、1年間で35台のAIスーパーコンピューターを整備・発表
NVIDIAは、欧州全域で35台のNVIDIA AI HPCスーパーコンピューターが開発中であると発表した。これは欧州における過去最大規模の1年間でのスーパーコンピューター拡張であり、対象は国立スーパーコンピューティングセンター、AIファクトリー、学術研究機関など広範に及ぶ。
ハードウェアの中核はNVIDIA BlackwellおよびNVIDIA Hopperプラットフォームで、昨年からの導入・発表分を合わせると800 AIエクサフロップス(1エクサフロップス=毎秒100京回の浮動小数点演算)が展開済みまたは発表済みとなっている。
NVIDIAのCEO ジェンスン・ファンは、「AIは科学の新たな道具であり、欧州はそれを何百万人もの研究者の手に届けるためのインフラを構築している」と述べた。
注目の個別システム:規模と用途の実態
IT4LIA(イタリア):8,000基超のGPU、AIトレーニング82・AI推論164エクサフロップス
最大規模のAIファクトリーはイタリアのCINECAが担うIT4LIAで、8,000基超のGPU(NVIDIA GB200 NVL4)を搭載する。性能はワークロードによって異なり、AIトレーニングで82エクサフロップス、AI推論で164エクサフロップスを実現する(推論はトレーニングより低精度演算を多用するため数値が大きくなる)。農業技術、サイバーセキュリティ、気象、気候変動、製造業向けのオープンAIモデル開発を対象としており、欧州の技術的自立の強化を目的としている。
バルセロナ・スーパーコンピューティングセンター(BSC):AIトレーニング約20・AI推論33エクサフロップス規模へ拡張
EuroHPCにおけるAI特化型の最初のインストール事例となるのがBSCのAIファクトリーだ。NVIDIA GB300 NVL72およびGB200 NVL4システムを追加し、AIトレーニング約20エクサフロップス、AI推論33エクサフロップスを実現する。スペイン・ポルトガル・トルコのコンソーシアムが運営し、気候モデリング、医療・バイオ研究、持続可能農業、エネルギーシステムなどに活用される。
その他の主要システム(概要)
表中のAI性能数値はAI推論ベースのエクサフロップス値。
| システム | 場所 | GPU数 | AI推論性能 |
|---|---|---|---|
| BavariaAI Blue Swan | ドイツ(FAU Erlangen他) | 1,000基 | 22エクサフロップス |
| HLRS HammerHAI | ドイツ・シュトゥットガルト | 850基超 | 15エクサフロップス |
| NAISS Mimer AI Factory | スウェーデン・リンシェーピング大学 | 400基 | 7エクサフロップス |
ドイツ初のAIファクトリーとなるHammerHAIでは、工学シミュレーションや大規模言語モデル(LLM)推論への活用を想定しており、産業ユーザーも対象に含まれる点が特徴的だ。
水素燃料タービンの開発に77%の高速化
インフラ整備の成果として、Siemens EnergyはNVIDIA技術(NVIDIA Omniverseライブラリ、CUDA-X等)を活用し、水素100%対応ガスタービンの設計・シミュレーション・製造を統合するワークフローを構築した。シミュレーション時間を最大77%短縮しており、高熱・流体力学・燃焼という複雑な物理現象を扱うガスタービンバーナーの設計反復を大幅に加速している。
量子コンピューティングとのハイブリッド統合も進む
スーパーコンピューターの整備と並行し、量子・GPUハイブリッド計算の取り組みも動いている。
- ユーリッヒ・スーパーコンピューティングセンター(ドイツ)では、NVIDIA GH200搭載の「JUPITER」上で50量子ビットの完全シミュレーションという世界記録を達成した
- CINECAでは、中性原子型QPUを開発するPasqalと連携し、NVIDIA CUDA-Q(量子・古典ハイブリッド計算向けオープンプラットフォーム)をSlurm経由で統合
- Fraunhofer FOKUSは、量子プログラミング言語「Eclipse Qrisp」とCUDA-Qの統合を進めている
地政学的な背景:EuroHPCが牽引するAI主権戦略
欧州では米国・中国に対するAIインフラの遅れが長年指摘されてきた。EuroHPC共同事業体は欧州委員会・加盟国・民間が共同出資する公的枠組みで、累積予算は10億ユーロ超に達しており、今回の35台整備・発表はその集中投資の象徴的な成果だ。米国ではDOEやNSFが数十億ドル規模のスパコン投資を継続し、中国も国家主導で独自AIチップ・スパコンの展開を加速している。欧州はこうした競合に対し、「欧州基準への適合」と「技術的自立」を各システムが明示的に謳うことで、単なる性能競争ではなくAI主権を軸とした投資判断を打ち出している点が、今回の動きの本質といえる。
詳細はEurope Unveils a Record 35 New NVIDIA AI Supercomputersを参照していただきたい。




