6月24日、SiliconAngleが「Shares of AI chipmaker Cerebras sink following first earnings report since going public」と題した記事を公開した。AIチップメーカーCerebras Systemsが上場後初の決算を発表し、売上高はアナリスト予想を上回ったものの粗利率の見通しが市場を失望させ、株価が時間外取引で約10%下落した。IPO初日に株価が約2倍近くまで急騰した"期待の新星"が、最初の決算で現実の壁に直面した格好だ。
IPO後に急伸したCerebrasの株価、決算で現実を突きつけられる
Cerebras Systemsは2026年5月、1株185ドルでIPOを実施。初日の始値は350ドルまで急騰し、終値も311.07ドルと公開価格の約2倍近い水準に達した。調達額は60億ドル超と、近年の大型テックIPOのひとつとなった。
しかしその後は下落基調が続いており、6月23日の時間外取引でさらに約10%下落。現在の株価は約202ドルと、IPO価格をわずかに上回る水準まで押し戻された。急騰から失望売りへ——この短期間の値動きは、AIチップ市場における投資家の期待と現実のギャップを象徴している。
決算の中身:売上高は◎、粗利率の見通しが×
2026年第1四半期の主な結果は以下のとおりだ。
- 売上高:1億9,300万ドル(前年同期比92%増、アナリスト予想1億8,100万ドルを超過)
- 純損失:1,400万ドル(前年同期の2,390万ドルから縮小)
- 1株当たり損失(調整後):22セント(アナリスト予想の16セントを下回る)
売上高と純損失の方向感は良好だったが、市場が嫌気したのは粗利率(グロスマージン)の見通しだ。第1四半期は46.5%だった粗利率が、第2四半期には36〜38%に低下する見込みとされた。
第2四半期の売上高見通しは1億9,400万ドル(前年同期比88%増、アナリスト予想1億7,800万ドルを上回る)と強気だが、粗利率の圧縮はAIチップ市場での競争の厳しさを映している。
通期売上高は8億5,550万〜8億6,500万ドルを見込んでおり、中間値ベースで前年比約69%成長となる。なお、Nvidiaの直近通期売上高成長率が約78%(2025年度)であることと比較すると、Cerebrasが「Nvidia超え」と称される文脈はあくまで四半期単位の売上高成長率の比較であり、チップ性能や市場規模の比較ではない点に注意が必要だ。
OpenAIとの大型契約が「コントラ・レベニュー」問題をはらむ
Cerebrasは今年1月、OpenAIと200億ドル規模のコンピューティング供給契約を締結したと発表した。OpenAIはCerebrasのクラウドサービスを利用してコーディング特化モデル「Codex-Spark」をホストしており、今後はGPT-5.5など上位モデルの移行も計画している。
一方でこの契約には構造的な複雑さがある。CerebrasはOpenAIに対して3,340万株分のワラント(新株予約権)を付与しており、このワラントの価値は「コントラ・レベニュー(売上控除)」として計上される。コントラ・レベニューとは、顧客へ付与したインセンティブ(今回はワラント)の公正価値を売上高から差し引く会計処理であり、現金収入には影響しないが計上上の売上高を圧縮する。つまり、非現金のマイナス計上が売上高を見かけ上押し下げる仕組みだ。
第1四半期のコントラ・レベニューは軽微だったが、Needhamのアナリスト・Quinn BoltonがBarron'sに語ったところによれば、残る2,900万株分のワラントのうち一部は今月中にもマイルストーン達成によってベスト(権利確定)される可能性があるという。OpenAI契約のスケールアップに伴い、このコントラ・レベニューの影響が今後の決算に重くのしかかってくる見通しだ。
「ディナープレート」サイズのチップでNvidiaに挑む
Cerebrasの技術的な差別化ポイントは、**ウェーハスケール・エンジン(WSE)と呼ばれる大判チップだ。通常の半導体製造では1枚のウェーハを切り出して複数のダイ(チップ)を作るが、WSEはウェーハをそのまま1枚のチップとして使用する。これにより、通常のGPUと比較して約900倍のオンチップSRAM容量**を実現しており、大規模なモデルを推論する際にメモリ帯域幅のボトルネックを大幅に軽減できるとされる。
Nvidiaの主力AIチップ「H100」や「B200」はデータセンター用GPUとして業界標準を担っているが、チップ間でデータをやりとりする際の通信遅延がスループットのボトルネックになりやすい。CerebrasはWSEの巨大なオンチップメモリによってこの課題を回避し、AI推論のレイテンシでNvidiaのGPUを上回ると主張している。CEOのAndrew Feldmanは「速いAIは遅いAIより価値がある。なぜなら生産性が高いからだ」と述べた。
顧客開拓面でも進展がある。直近ではAWSのパブリッククラウドデータセンターへのチップ展開が発表されており、同社のWSE-3チップはAWSのクラウドプラットフォームでも利用可能になる予定だ。
粗利率の圧縮とOpenAI向けのワラント会計処理という二重の重荷を抱えながら、Cerebrasが今後の決算でいかにこれらの問題を吸収していくかが株価の鍵を握る。
詳細はShares of AI chipmaker Cerebras sink following first earnings report since going publicを参照していただきたい。




