6月26日、Ars Technicaが「Anthropic says Alibaba must be punished for largest Claude cloning attack」と題した記事を公開した。AnthropicがAlibabaによる史上最大規模のClaudeディスティレーション攻撃(2880万回)を告発し、米議会に対してAlibabaへの制裁を含む厳しい立法措置を求めている。
2880万回の「クローニング攻撃」
AnthropicはAlibabaがClaudeの能力を大規模に盗み出そうとしたと告発した。その手口は「ディスティレーション攻撃(distillation attack)」と呼ばれるもので、既存の高性能AIモデルに大量のクエリを投げかけ、その応答を学習データとして自社モデルを訓練する手法だ。いわばモデルの知識を"蒸留"して丸ごとコピーしようとする行為である。
この手法はAnthropicの利用規約において明示的に禁止されており、「モデルの出力を用いて競合するモデルを訓練すること」が利用規約違反に当たると規定されている。つまりAnthropicは、契約上の根拠に基づいて今回の行為を告発できる立場にある。
Anthropicの書簡によれば、Alibabaはこの手法を「臆面もなく(brazenly)」実行したという。問題の深刻さは規模にある。2880万回というクエリ数は、Anthropicが「最大規模のClaudeクローニング攻撃」と表現するほどのものだ。
トランプ政権の警告を無視した形
さらに状況を複雑にするのが、タイミングだ。Anthropicの書簡は次のように指摘する。
「Alibabaはニューヨーク証券取引所に上場し、米国内で事業を展開し、米国の投資家と規制当局に対して責任を負っている。それにもかかわらず、この活動はトランプ大統領の覚書が(AIクローニングを)『容認できない』と警告した数週間後に展開された」
トランプ政権は、外国勢力による米国フロンティアモデルの複製を阻止する姿勢を示していた。Anthropicの主張通りであれば、Alibabaはその警告を事実上無視したことになる。
AlibabaはトランプとすでにDOD訴訟で対立中
一方、Alibaba側もトランプ政権と対立姿勢を強めている。Alibabaは火曜日に提起した訴訟の中で、米国防総省が同社を誤って中国軍と関連づけてブラックリストに掲載したとして、その指定撤回を求めている(Reuters報道)。
「Alibabaは独立した取締役会によって運営されており、軍との関係を持つ者は一人もいない。製品とサービスは小売・物流・エンタープライズITのために構築されたものであり、兵器・防衛・情報活動のためではない」(Alibaba)
しかしAnthropicはAlibabaが中国政府と連携していないという見方に懐疑的だ。同社の書簡は、強力な介入がなければ今回のようなディスティレーション攻撃が「中国がMythos Previewレベルの能力に早期に到達するのを助ける」と警告している。
なお「Mythos Preview」はAnthropicのロードマップ上に登場するモデルのコード名とみられるが、公式には詳細が開示されていない。Anthropicがこの名称を書簡中で用いていることは、同社が現行のClaudeを超えた次世代モデルの開発を進めており、その能力が流出することへの危機感を示しているものと読める。
Anthropicが議会に求める3つの立法措置
Anthropicは米国が中国に対して優位を保つため、議会に対して以下の3点を求めた。なお、ここでいう「制裁」は議会に対してAlibabaへ科すよう求めるものであり、AnthropicがAlibabaに直接制裁を要求しているわけではない点に注意されたい。
- 反トラスト法の改正 ― AI企業が中国の攻撃手法に関する情報を互いに共有できるよう、情報共有に関する独占禁止規制を緩和する。
- 半導体の輸出規制強化 ― 先端チップへの中国のアクセスを制限し、そもそも米国モデルの出力を大規模に学習できないようにする。ディスティレーション攻撃を物理的に無意味にする狙いだ。
- 中国ラボへの制裁立法 ― ディスティレーション攻撃などの「悪質な行為」に対するペナルティとして、中国企業が米国モデルや先端チップにアクセスすること、中国国外のデータセンターを利用することを制限する。
AI知財が安全保障の争点へ
AI知財をめぐる米中間の法的・政治的対立は、モデルの訓練手法そのものが安全保障上の争点になりつつあることを示している。利用規約違反という契約上の問題が、輸出規制・反トラスト・制裁立法という複数の政策領域と交差する構図は異例だ。Anthropicの動きは、個別企業の被害申告にとどまらず、業界全体の規制枠組み形成を狙った政治的アクションとも読める。
ディスティレーション攻撃への対策として業界が情報共有を求める声は以前からあったが、反トラスト規制がその障壁になっているという指摘は注目に値する。今回の書簡がその議論を立法レベルに引き上げる契機になるかどうかが、今後の焦点となるだろう。
詳細はAnthropic says Alibaba must be punished for largest Claude cloning attackを参照していただきたい。




