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AnthropicがAI創薬に本格参入 — FDA承認ゼロ・10年スパンの壁を前に、それでもウェットラボを建設する異例の賭け

7月3日、Robert Hartが「Anthropic wants to develop its own drugs」と題した記事を公開した。AIが設計した薬でFDA承認を受けた例はいまだゼロ、市場化までは最短でも10年スパン——そうした厳しい現実を前にしながら、Anthropicは自社ウェットラボの建設を進め、自ら医薬品を開発すると表明した。主要フロンティアAI企業によるこの動きは、業界内でも「異例」と受け止められている。

7月3日、Robert Hartが「Anthropic wants to develop its own drugs」と題した記事を公開した。AIが設計した薬でFDA承認を受けた例はいまだゼロ、市場化までは最短でも10年スパン——そうした厳しい現実を前にしながら、Anthropicは自社ウェットラボの建設を進め、自ら医薬品を開発すると表明した。主要フロンティアAI企業によるこの動きは、業界内でも「異例」と受け止められている。


「実験なしには薬は作れない」——専門家が示す懐疑論

専門家たちはAnthropicの参入を、冷静かつ懐疑的な目で見ている。

オックスフォード大学のFrank von Delft教授(構造化学生物学)は、AIモデルへの期待は理解しつつも、「実験を不要にするところにはまだ全然届いていない」と述べた。候補化合物は、有効性・毒性・製剤化の実現可能性について現実の世界でテストされなければならず、とくに人を対象とした臨床試験では多くの有望候補が脱落する。Anthropicが創薬を目指すなら、「実験に多大なコストをかける必要がある」と指摘した。

ロンドン大学UCLの創薬教授Matthew Todd氏も、AIが設計した薬が規制当局の承認を経て市場に出るまでには「まだ長い道のり」があると述べた。現時点で、AIが設計した薬でFDA承認を経て市場に出たものはゼロだ。一部のAI由来の候補は臨床試験に入っているが、AIがどの段階でどこまで貢献したのか、また既存の手法と比較して優れているのかは判断が難しい。Anthropicが何らかの成果を出すとしても、臨床試験にかかる期間を考えれば、最低でも10年近いスパンになる見込みだ。

こうした懐疑論を軸に、Anthropicの発表内容を見ていく。


Anthropicが創薬事業に参入、「Claude Science」を発表

Anthropicは今週、「The Briefing: AI for Science」と題したイベントで、科学者向けAIワークベンチ「Claude Science」を発表した。断片化していた研究ツールやデータセットを一つの環境に統合し、図表やビジュアルの自動生成にも対応するプラットフォームだ。既存の「Claude」との関係や、有料・無料の提供形態、APIの有無といった詳細については、元記事の時点では明らかにされていない。

発表の場では、すでに複数のバイオテック・製薬企業がClaudeを利用していることも明かされた。

さらに踏み込んだのが、自社での創薬という方針表明だ。ライフサイエンス部門責任者のEric Kauderer-Abrams氏は、「顧みられない病気(neglected diseases)」——マラリアやシャーガス病など、市場規模が小さいために製薬企業から十分な投資を受けてこなかった疾患群——の治療薬発見に注力すると述べた。OpenAI、Amazon、Googleもライフサイエンス向けツールを展開しているが、主要なフロンティアAI企業が自ら薬の開発に注力すると表明したのは異例だ。しかも、同じ市場で競合しうる他の製薬企業にもソフトウェアを売るという、特殊なポジションに立つことになる。

競合として名前が挙がるのは、AI創薬企業のInsilico Medicine、Google DeepMindのスピンアウトであるIsomorphic Labs、そして自前のAIを構築・買収しつつある大手製薬各社だ。


「AI創薬」は広すぎる言葉

専門家の見方は、Anthropicの具体的な手の内に対しても慎重だ。

ケンブリッジ大学教授でAIバイオテックスタートアップCardiaTecの共同創業者であるNamshik Han氏は、「AI創薬は非常に広い概念」だと指摘する。化合物の探索から、最適化、データ分析、臨床試験、製造まで、創薬の「あらゆる段階」にAIは関与しており、今や主要製薬企業のすべてが何らかの形でAIを使っている、と述べた。

Todd氏も同様に、「AIはすでに創薬研究全体に浸透しており、キャッチオールなフレーズになっている」と語る。

Anthropicが具体的に何をするのかは、まだほとんど明かされていない。イベントでKauderer-Abrams氏は、有望な候補化合物が見つかった場合の対応策を語らなかった。The Vergeが詳細を求めたコメント要請にも、Anthropicは応答しなかった。ターゲットとする疾患、外部パートナーとの連携(動物実験・臨床試験・製造など)についても不明のままだ。


採用と湿式実験室(ウェットラボ)への投資

それでも、Anthropicが本気であることを示す動きはある。過去1年で同社は生物学者の採用を積極化し、自社のウェットラボ(実際に生物・化学実験を行う実験室)を構築中だ。記事執筆時点でも複数のライフサイエンス職の求人が出ている。

Han氏によれば、Anthropicは学術関係者にも積極的にアプローチしており、大手製薬企業や有名研究機関から数名の採用に成功したとみられる(実名は伏せた)。

FDA承認ゼロ・10年スパンという現実と、ウェットラボ建設という具体的な投資——この両面を同時に抱えながら、ソフトウェア企業としてのAnthropicが「スローなサイエンス」にどこまで食い込めるか。AIの登場後も、実験と時間という壁は変わっていない。


詳細はAnthropic wants to develop its own drugsを参照していただきたい。