8月18日、Microsoft Foundry開発ブログが「From single call to agents: five new Claude capabilities now available in Microsoft Foundry」と題した記事を公開した。Azure上にホストされたMicrosoft FoundryのClaudeモデルに、ウェブ検索・MCP連携・ツール検索など5つのエージェント向け機能が追加されたことを発表する内容だ。注目すべきは機能の追加そのものより、これらがすべて「Hosted on Azure」デプロイメントで動作するようになった点で、データ残留要件を持つエンタープライズがエージェントを本番運用するうえでの根本的なトレードオフを解消する変化となっている。
「Hosted on Azure」でエージェント機能が使えるようになった意味
Microsoft Foundryには、推論処理をどこで実行するかで2つのホスティング方式がある。「Hosted on Anthropic」はAnthropicのインフラ上で動作し、「Hosted on Azure」はAzureインフラ上のAnthropicサービスで動作する。これまでウェブ検索やMCP連携といったエージェント機能は「Hosted on Anthropic」でしか使えなかった。
これはエンタープライズ用途では深刻なトレードオフだった。プロンプトと応答をAzure外に出せないデータ管理要件を持つ企業は、エージェント機能を諦めるか、検索・MCP・ツールルーティングをクライアント側で自前実装するかを選ぶしかなかった。
そのトレードオフが今回解消された。 5つの機能すべてが「Hosted on Azure」デプロイメントでも利用可能になった。US Data Zone Standardデプロイメントであれば、推論処理が米国内に留まったまま、ウェブ検索バックの調査エージェントを動かし、内部MCPサーバーに接続し、文法制約付きのJSONを返せる。規制業種にとっての実際的な影響は大きい。
| Hosted on Azure | Hosted on Anthropic | |
|---|---|---|
| 推論の実行場所 | AzureインフラのAnthropicサービス | AnthropicのインフラのAnthropicサービス |
| 対象モデル | 最新のOpus、Sonnet、Haiku | Foundry上のClaudeカタログ全体 |
| 今回の5機能 | ✓ | ✓ |
※「対象モデル」行の記載は元記事の表現を基にしているが、詳細はAzure AI FoundryのClaudeカタログページで最新情報を確認されたい。
5つの機能の概要
記事では、今回追加された機能について「チームが毎回作り直している4種類の共通スキャフォールディング」をプラットフォームに移した、と説明している。自社プロダクトに関係のない「差別化されない実装作業」をなくすのが狙いだ。
1. Structured Outputs:JSONパースのやり直しループが消える
LLMをデータパイプラインに組み込んだチームが必ず書くコードがある——モデルが末尾カンマ付きのJSONを返したときのリトライループだ。40万件を夜間バッチ処理する場合、0.3%の失敗率は1,200行のデッドレターキューになる。
Structured Outputsはデコード自体をJSON Schemaから生成した文法で制約する。出力が壊れたJSONになること自体がなくなる。機能は2つ。
- JSON outputs(
output_config.format):Claudeの応答テキストの形状を制御 - Strict tool use(ツールに
strict: true):ツール呼び出し時の入力値をスキーマ準拠に保証
AnthropicのStructured Outputsに関する公式ドキュメントはTool use overviewも参照されたい。
記事ではPydanticを使った保険クレーム受付の実装例が示されている。フリーテキストのメールや音声メモのトランスクリプトから構造化データを抽出し、Azure SQLに直接流し込む構成だ。
class ClaimIntake(BaseModel):
policy_number: str
claimant_name: str
loss_date: str
loss_type: Literal["property_damage", "bodily_injury", ...]
estimated_severity_usd: float
escalate_to_adjuster: bool
response = client.messages.parse(
model="claude-opus-5",
max_tokens=2048,
messages=[{"role": "user", "content": submission_text}],
output_format=ClaimIntake,
)
claim = response.parsed_output # すでにバリデーション済みのClaimIntakeインスタンス
2. Web Search:クローラーなしでウェブ検索と引用が使える
ツール定義に検索ツールを1つ追加するだけで、Claudeが必要と判断したタイミングで検索を実行し、max_usesで指定した回数以内に収め、引用付きで回答を返す。クローラーもインデックスもリランカーも不要だ。
記事で示された用途は、グローバル銀行の規制変更モニタリング。従来は複数のアナリストがRSSとメールで追跡し、公表から社内レポートまで平均6日かかっていた処理を夜間バッチジョブに置き換えている。
重要な実装ポイントはallowed_domainsだ。規制モニタリングでは、二次情報が原文を誤って言い換えるリスクを避けるため、直接規制当局のドメインのみに絞り込む。
REGULATOR_DOMAINS = [
"eba.europa.eu", "esma.europa.eu",
"federalreserve.gov", "sec.gov",
"fca.org.uk", "mas.gov.sg",
]
tools=[{
"type": "web_search_20250305",
"name": "web_search",
"max_uses": 12,
"allowed_domains": REGULATOR_DOMAINS,
}]
allowed_domainsとblocked_domainsは排他で、両方指定すると400エラーになる。
元記事では、新しいバージョンの検索ツールでは検索結果をコンテキストウィンドウに読み込む前にコードで事前フィルタリングする仕組みが入ったと説明されている。これにより、無関係なナビゲーションやボイラープレートで大量のトークンを消費する問題が緩和される。コード実行は自動でプロビジョニングされ、追加料金は発生しない。なお、記事中のコードサンプルに登場するツール種別バージョン(typeフィールドの値)については、元記事の記述(web_search_20250305)を正とし、本稿ではそれに従った。実装時は元記事の最新サンプルコードを直接確認されたい。
3. Web Fetch:指定URLのドキュメントをそのまま読む
Web Searchが「発見」なら、Web Fetchは「精読」だ。URLを渡すと、PDFを含む全文テキストを取得する。記事では医療システムのSaaS vendor評価への活用例が示されている——ベンダーのTrustページ、サブプロセッサーリスト、SOC 2スコープ、DPAを読んで、HIPAA準拠観点でのリスク評価レポートを自動生成する用途だ。
フェッチにはcitations: { enabled: true }の明示的な指定が必要(デフォルトはoff)。max_content_tokensでコンテキスト消費の上限も制御できる。
4. MCP Connector:外部サービスへの接続を標準化
MCP(Model Context Protocol)はAnthropicが提唱したオープン標準で、モデルと外部ツール・データソース間のインターフェースを統一する。JiraやServiceNow、Confluenceといった業務システムへの接続をMCPで束ねることで、サービスごとにカスタムクライアントを実装する必要がなくなる。
元記事によれば、MCP Connectorの導入により、接続先サービスの認証やセッション管理といった定型的な実装をプラットフォーム側が引き受ける。開発者はMCPサーバーのエンドポイントを指定するだけでよく、各サービスのAPI仕様に合わせたアダプタを個別に書く作業が不要になる。MCPの仕様や対応サーバーの一覧は公式サイトで確認できる。
5. Tool Search:大規模ツールセットからの自動絞り込み
ツールが数百規模に増えると、モデルが誤ったツールを選び始める問題が発生する。Tool Searchはセマンティック検索でリクエストに関連するツールを絞り込んでからモデルに渡す仕組みで、ツール数のスケールアップ時に精度を維持する。元記事では、ツールカタログが大規模になるほどこの仕組みの効果が大きくなると説明されている。ツールの登録数の上限や具体的なスケール規模については、元記事およびAzure AI Foundryのドキュメントで最新情報を確認されたい。
まとめ
今回の5機能は「新しいAI能力の追加」というより、「エンタープライズがエージェントを本番運用するために毎回自前実装していたインフラ部分のプラットフォーム化」として整理するのが正確だ。特にHosted on Azureでのデータ残留要件とエージェント機能の両立が可能になった点は、金融・医療・公共セクターの採用障壁を直接取り除く変化だ。
詳細はFrom single call to agents: five new Claude capabilities now available in Microsoft Foundryを参照していただきたい。




