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創業時からAWSを使い続けていたスタートアップが、Google Cloudに移行した理由(1)

「いま使っているクラウドは、自社で明確な理由を持って選定したものか? それとも過去から引き継いだだけか?」——この問いに即答できない企業は意外と多いはずだ。インフラは「ずっと使い続けていたから、何となく」と習慣化してしまい、ビジネス環境が大きく変化しているのにも関わらず、惰性で使い続けてしまう。だがAIの普及・進化のスピードが指数関数的に速まる今日、そのクラウドサービスは本当に自社の事業にとって最高のパートナーなのだろうか。人材・HR領域で多数のサービスを内製するHajimariで、AWSからGoogle Cloudへの全社移行を旗振り役として推進した開発マネージャー・奥琉之介氏に、その一部始終を寄稿してもらった(第1回)。「なんとなくAWS」でデファクトに乗り続けた10年間2011年3月2日、AWS Japanは日本国内初のAWS拠点となる東京リージョンを開設した。以来、AWSはクラウドサービスのデファクトとして、業種業界や規模を問わず、さまざまな国内企業のIT基盤として採用されている。金融ではSBI証券やソニー銀行、流通・小売分野ではセブン&アイ・ホールディングス、製造業なら本田技...

「いま使っているクラウドは、自社で明確な理由を持って選定したものか? それとも過去から引き継いだだけか?」——この問いに即答できない企業は意外と多いはずだ。インフラは「ずっと使い続けていたから、何となく」と習慣化してしまい、ビジネス環境が大きく変化しているのにも関わらず、惰性で使い続けてしまう。

だがAIの普及・進化のスピードが指数関数的に速まる今日、そのクラウドサービスは本当に自社の事業にとって最高のパートナーなのだろうか。

人材・HR領域で多数のサービスを内製するHajimariで、AWSからGoogle Cloudへの全社移行を旗振り役として推進した開発マネージャー・奥琉之介氏に、その一部始終を寄稿してもらった(第1回)。

「なんとなくAWS」でデファクトに乗り続けた10年間

2011年3月2日、AWS Japanは日本国内初のAWS拠点となる東京リージョンを開設した。以来、AWSはクラウドサービスのデファクトとして、業種業界や規模を問わず、さまざまな国内企業のIT基盤として採用されている。金融ではSBI証券やソニー銀行、流通・小売分野ではセブン&アイ・ホールディングス、製造業なら本田技研工業など、多くの国内事業がAWSに支えられてきたと言っていい。

フリーランスと企業のマッチング支援を祖業とするHajimariの創業は2015年のこと。2015年当時、クラウドといえばAWS一択という時代で、Hajimariも当然IT基盤としてAWSを導入した。実質的に他の選択肢がなかったのも事実で、そのままAWSというデファクトに乗って走り続けてきた。

フリーランスと企業のマッチング支援業として、まずBtoC向けの案件掲載サイトや社内の営業管理システムをAWS上で展開。その後もサービスは拡大を続け、顧客管理システムや稼働・契約管理システムなど、事業の根幹に関わるシステムを内製し、直近ではAI・データアナリティクスを活用したサービス等を数々リリースした。

テック事業にも力を入れており、人材紹介事業者向けの営業支援システムや、法人向けの動画研修プラットフォームなどのSaaSを展開している。これらを約10年間、AWSの上で動かしてた。

この10年間、他のクラウドとAWSを真面目に比較検討した記録はない。

なぜならデファクトスタンダードに乗っている間は、技術選定のコストもかからず、技術記事はネット上に溢れており、採用市場にも経験者が豊富にいて困ることがないからだ。トラブルが起きても、だいたい誰かが同じ事象で詰まって解決策をブログに書いている。困らないから、問い直す機会がなかった。

移行の引き金となった4つの壁

そうしたなか2025年1月、クラウドに関して問い直すことになった。Googleから転職し、就任したばかりの新CTO・岡田幸紀が「クラウド基盤をゼロから選び直す」と判断したことがきっかけだった。

ただし元Googleの人が来たからGoogle Cloudを選んだわけではない。実は当時、私たちは「4つの課題」を抱えていた。

1. コストのブラックボックス化
金額が高すぎて困っていたというより、「誰も定期的に見ていない状態」という問題があった。インフラコストは放置すれば確実に膨らむ。このように、「コスト妥当性が検証すらされていない状態」を脱却したいと常々考えていた。

2. データ基盤の不在
当時、データは各プロダクトのVM内に分散しており、全社横断で分析できる基盤が存在せず、事業サイドで数字が必要になるたびに手作業が発生していた。Hajimariは「テックで勝つ」と掲げ、多数のエンジニアメンバーを抱えているにもかかわらず、自社のデータをまともに活用・分析できない状態となっていたことは事業にとって非常に大きな損失だった。これが最も切実な課題だった。

3. インフラ運用に奪われる開発速度
プロダクトが増えるにつれ、インフラの構築・運用にどんどん時間を取られるようになっていた。アプリケーション開発にリソースを戻すため、マネージドサービスに寄せたいという声は以前から上がっていたが、具体的に動いていなかった。

4. 限界を迎えた権限管理
AWSのOrganizations(複数のAWSアカウントを一元管理する機能)や、Identity Center(複数のAWSアカウントや外部サービスへのアクセス制御を一元管理する機能)といった機能を活用しないまま、創業当初のやり方で運用を続けていたため、1つのアカウント内に複数事業部のプロダクトが同居していた。開発者に権限を渡すたびにポリシーがツギハギで増殖し、もはや「誰がどこまで触れるのか」を把握するのが困難だった。

これらの課題自体は、どこの会社でも見られるものだろう。しかしHajimariのように、自分たちでプロダクトを作り続ける企業にとって、クラウドは事業の土台であり、10年単位で付き合うパートナーというべき存在だ。

そのため「どのクラウドを使うかは、事業と一蓮托生である」という感覚をメンバーが共通して持っていた。この共通意識が、「わざわざ移行コストをかけてでも選び直す」という決断の根底にあった。

Google Cloud採用の決め手は「単価表に載らない条件」

では、その移行先がなぜGoogle Cloudだったのか。その理由は3つある。サポート体制、コスト、それにGoogle Cloudのデータ基盤である「BigQuery」だ。

最大の決め手は「サポート体制」だ。機能や単価の比較表を作ると、こうした「サポート体制」や「担当者との距離」は上位項目にはなりにくい。しかし、10年付き合う前提で考えると、ここが一番重要になる。AWSを利用していた10年間、HajimariとAWS側の担当者との繋がりは希薄だった。エンタープライズとの協業実績を主軸に置くメガベンダーからすれば、Hajimariのような規模の内製企業は、どうしても優先順位が下がりやすく、同じ金額を払っていても、引き出せる支援の量には差が出てしまう。

一方Google Cloudでは、担当者と直接やり取りできる密接な関係性を最初から見込むことができた。
Google のオフィスにエンジニアチーム全員で訪問し、1日かけて密度濃くGoogle Cloudを学ぶ「Jump Start Program」を、クラウドアーキテクチャとSREの各分野で開催していただいた。

HajimariメンバーでGoogleを訪問
渋谷ストリームのGoogleオフィスから
Hajimari CTO 岡田幸紀(こーきさん)

これは「元Google出身者がいるからできた」という特殊な話ではない。「自社の規模感やフェーズに合ったサポート体制があるベンダーを選ぶ」ということだ。Google Cloudはそれができるベンダーだった。 移行を考える前に、まずは今使っているベンダーに深く相談してみるのもいいだろう。

コンピュート層のコストが53%減、BigQueryで全社横断のデータ基盤も実現

次にコストについてだ。

前提として、移行プロジェクトにおいて「削減目標」は置かず、まずは「そのまま移す(Lift and Shift)」、その後に「最適化する(Improve and Move)」という順序で安全な移行とコスト削減を実現していった。その結果、最適化まで実施した主なプロダクトのコンピュート層のコストを平均で約53%程度削減できた。

最後にBigQueryについて。先述したように、 移行前は全社横断できる分析基盤が存在しなかったため、BigQueryを中心に、収集・加工・分析・活用まで一気通貫でできる分析基盤を設計した。これにより、全てがGoogle Cloud上で完結するため、少ない工数と費用でデータ基盤構築を実現できた。

「なんとなくAWS」を辞めたら、BigQuery×Vertex AIのシームレスなAI開発基盤を構築できた

調査会社Synergy Researchによれば、2026年第1四半期のGoogle Cloudの売上成長率は前年同期比63%だという。続く第2四半期にはAlphabetの決算で82%まで加速し、同社がCloud部門を分離開示し始めた2020年以降で最速を記録した。同じ期間、Azureは約40%、AWSは19〜28%台にとどまる。市場シェアの序列(AWS>Azure>Google Cloud)とは、まるで逆さまだ。

その背景には、AIの浸透・進化があると考えられる。クラウド支出に占めるAIワークロードの割合は、2023年の約8%から2026年には約19%へと拡大した。データ・モデル・基盤が「地続き」であることの価値が、かつてない重みを帯びている。

実際、Hajimariが移行を決断した時点では、ここまでAIが開発の中心になる時代が来るとは予想していなかった。しかし振り返ってみると、Google Cloudへの移行は、そのまま「強力なAI開発基盤の選択」になったと感じている BigQueryに集約されたデータ、Vertex AIへのシームレスな連携、Google AI StudioやGemini Enterpriseなど協力なAIエージェント活用基盤、AI Opsにいち早く対応するログ・観測基盤。これらが初めから「繋がった状態」を手にしていた。

移行を決めた当時はAIエージェントの活用や、AI駆動開発を強く意識したわけはなかったが、現在BigQueryとAIエージェントを組み合わせた「データの民主化」や、AI駆動開発を実現し、エンジニアだけでなく、営業やマーケなどBizサイドのメンバーにも広く浸透し、AI活用を支える重要な基盤になっている。

クラウドを「長く付き合う相手」として選び直したら、それがたまたまAI時代の強固な足場になっていたわけだ。

もし今、みなさんが「昔から使っているクラウドを、なんとなく引き継いで運用している」状態なら、一度フラットに選び直してみる価値は十分にある。「比較検討した上で今の場所を選ぶ」のと、「何も選ばないままそこに居続ける」のとでは、大きく違った事業価値を得られると体感している。

次回は「移行プロジェクトの舞台裏」について詳しく解説したい。

<著者プロフィール>
奥 琉之介 株式会社Hajimari GOAT Cloud 事業部 国内担当 開発マネージャー
大学卒業後、2023年4月にHajimariへ入社。TUKURUS事業部で準委任のラボ型開発に従事。2024年末から、新チームの立ち上げと共にGoogle Cloudの導入を全面的に担当。ITプロパートナーズなど、HR事業領域で展開している主要サービスならびに社内システムをAWSから全面移行するプロジェクトを推進する。
移行完了後は、SREプラクティス導入、データ基盤構築を専門とし、全社に跨るセキュリティ・ガバナンス推進や生成AIツール導入をリード。2026年、Google Cloud インテグレーション事業『GOAT Cloud』の開発マネージャーとして、クライアントプロジェクトから社内外のエンジニア育成まで幅広く推進している。