8月31日、SiliconAngleが「Workday reimagines workflows with enterprise AI agents」と題した記事を公開した。AIエージェントに「承認フローを省略してでもゴールを達成せよ」と指示したとき、何が起きるか——Workdayが示したデモはその問いに対する、エンタープライズならではの回答だった。
ERPの「画面をクリックし続ける」体験をどう変えるか
人事・財務領域のERPとして広く使われているWorkdayが、Google Cloudと組んでAIエージェントの企業導入を本格化させている。
WorkdayのCTO、Gabe Monroy氏はその核心を次のように説明する。
「確率的なAIシステムの"魔法"を、WorkdayのようなERPシステムが持つ決定論的な保証とどう組み合わせるか。人・カネ・ルールの保証を保ちつつ、AIの確率的な推論を活かす——その両方が連動することが重要だ」
ERPシステムは「画面遷移が多く、操作が煩雑」というのはよく知られた批判だ。Monroy氏もこれを認めたうえで、「次世代ERPはそこから脱却し、ユーザーのいる場所に自然に溶け込むものになる」と述べている。
GmailからWorkdayの業務フローを完結させるデモ
記事で紹介されたライブデモの一つでは、従業員がGmail上でGemini Enterpriseを使い、四半期ごとのパフォーマンスレビューを開始するシナリオが示された。
具体的には、GmailからWorkdayの直近フィードバックを自動取得し、レビューワークフローを起動、マネージャーとのスケジュール調整まで、Workdayのポータルを開かずに完結する。
「多くのユーザーはGoogle WorkspaceとGeminiのエコシステムに慣れ親しんでいる。Workdayにログインするようにユーザーへ求めるのではなく、Google Cloudを通じてエージェント機能を届ける」(Monroy氏)
この設計は、複数のエンタープライズアプリを行き来させるのではなく、AIを既存のワークフローに埋め込む方向性を示している。
「無法エージェント」vs「ガードレール付きエージェント」
記事の中で最も技術的に興味深いのが、2つのAIエージェントの挙動を対比させたデモだ。
1つ目のエージェントは、ワーカーのオンボーディングリクエストを処理する際、必要な承認フローやポリシーチェックを省略して完了させた。Monroy氏はこれを「lawless(無法な)」エージェントと表現し、「エージェント自体の欠陥ではなく、ガバナンスの文脈なしにゴールだけを追求した結果だ」と説明する。
2つ目のエージェントは同じタスクに対し、報酬上限・バックグラウンドチェック要件・承認ワークフローを順守したうえで処理を進めた。
「最初の例では、無法であることに気づきにくい。エージェントのせいではなく、ただ真空の中でゴールを追いかけているだけだ。2つ目はWorkdayのプラットフォーム上で動いており、システム・オブ・レコード(信頼できる記録源)が持つガードレールが供給されている」(Monroy氏)
このデモが示すのは、AIの推論だけに頼るのではなく、ERPが持つ決定論的なルールをランタイムとして組み込む設計思想だ。コンテキスト管理・権限制御・ツール選択・ガバナンスを自前で実装しようとすれば、各社が独自解決策を作り続けることになる。Monroy氏は「解決済みの答えはない。現在進行形の技術的ベストプラクティスだ」と述べている。
MCPからフルUI制御まで:どこで何を制御するか
Monroy氏は、エンタープライズAIエージェントの展開戦略についても言及している。タスクの複雑度に応じて、制御すべきレイヤーが異なるという考え方だ。
- シンプルなインタラクション:Model Context Protocol(MCP)のレベルで制御すれば十分
- 高度なワークフロー:オーケストレーションされた推論チェーンの制御が必要
- 最もリッチな体験:WorkdayのSana UIのようにエンドツーエンドのUIを自社で制御する必要がある
「どこでMCPサーフェスだけを制御すればよいか、どこで推論チェーンを制御する必要があるか、どこでUIのすべてのピクセルを制御する必要があるか——これが私の考えるガイダンスだ」(Monroy氏)
ここで言及されているMCP(Model Context Protocol)は、AIモデルが外部ツールやデータソースと標準化された方法でやり取りするためのオープンプロトコルだ。Anthropicが主導して策定し、現在は多くのLLMベンダーやエンタープライズSaaSが対応を進めている。エンタープライズ文脈でMCPが注目される理由は、各社がバラバラに独自のAPI連携を実装するのではなく、共通のインターフェースでエージェントとシステムをつなぐことで、ガバナンスや権限制御を一元化しやすくなる点にある。WorkdayがMCPを「シンプルなインタラクション」の制御層として位置づけているのも、この標準化の恩恵を活かす意図があるとみられる。
Sana UIは2026年に発表されたWorkdayの新しいインターフェースで、AIによる業務自動化を前提に設計されている。MCPで足りるシンプルなタスクとは異なり、人事評価や採用プロセスのような複雑な業務では、ユーザー体験全体をWorkdayが制御することでポリシーの一貫性を担保する狙いがある。
エンタープライズAIエージェントの議論は「使えるか使えないか」から「どこまでガバナンスを保ちながら動かすか」に移行しつつある。Workdayのアプローチは、既存のERPが持つルールエンジンをAIのガードレールとして再活用する点で、自前でエージェント基盤を構築しようとする組織にとっても参照点になる。
詳細はWorkday reimagines workflows with enterprise AI agentsを参照していただきたい。




