9月8日、Manual do Usuárioが「LibreOffice breaks download records after declaring it has no AI features」と題した記事を公開した。「AIなし」を公式に宣言したLibreOfficeの最新版が、リリース1週間で史上最多のダウンロード記録を打ち立てたという内容だ。
Microsoft 365がCopilotを全面統合し、Google WorkspaceがGeminiを標準搭載した現在、オフィスソフトへのAI組み込みはほぼ業界標準となっている。そんな流れに真っ向から背を向けた判断が、記録的な数字を叩き出したことは、単なる「反AI」のトレンドとして片付けられない。「AIなし」という選択肢への需要が実在することを、数字が証明した形だ。
「AIなし」宣言がダウンロード記録を塗り替えた
2026年8月26日にリリースされたLibreOffice 26.8は、リリースから1週間でインストーラーのダウンロード数が100万件超を記録した。LibreOfficeの全バージョン中、史上最多の数字だ。なお、Linuxディストリビューションのパッケージリポジトリ経由のアップデートはこの集計に含まれていない。
LibreOfficeは2010年にOpenOffice.orgからフォークして誕生したオープンソースのオフィスソフトウェアで、The Document Foundation(TDF)が開発・管理している。Microsoft Officeの無償代替として長年使われてきた実績を持つ。なお、バージョン番号「26.8」はメジャーバージョン番号ではなくリリース年(2026年)+月(8月)を示す新しい命名規則によるもので、LibreOffice 7.x系からこの年月ベースの方式に移行している。
今回の記録的なダウンロードの主な要因として元記事が挙げるのが、26.8のリリースアナウンスに明記された生成AI機能の非搭載宣言だ。プライバシーへの懸念を理由に、生成AIをデフォルトでは搭載しないという方針を公式に打ち出したことが、強い追い風になったと見られている。
TDFの立場:AIを否定しているのではない
ダウンロード記録の翌日、TDFは**「Yes, no AI is now a feature」**と題したブログ記事を公開した。Italo Vignoli氏が署名したこの文書は、TDFのスタンスを明確に示している。
TDFはAI技術そのものを全否定しているわけではない。ただし、デフォルト搭載する条件として以下の原則をすべて満たすことを求めている:
- ユーザーが実行を制御できること
- ユーザーの許可なく、いかなるコンテンツも端末外に送信しないこと
- いかなるテレメトリも収集しないこと
- 特定ベンダーへの依存がないこと
- ファイルフォーマットに妥協しないこと
- 完全にオプションであること
現時点でこれらをすべて満たすAI実装は存在しないとTDFは判断しており、AIをLibreOfficeと組み合わせたいユーザーにはコミュニティ製の拡張機能(LibreOffice Extensionsから入手可能)を推奨するとしている。
批判の矛先はビジネスモデルにある
TDFの声明はMicrosoft 365やGoogle Workspaceといった競合への批判も含んでいる。「AIアシスタントは価格値上げの理由付けになり、すべてのドキュメントを自社インフラ内に囲い込む根拠を強化する」——サブスクリプション収益を主軸とする企業を念頭に置いた表現だ。
TDF自身も「このスタンスは技術そのものとはほとんど関係ない」と述べており、問題意識の核心がビジネスモデルにあることを隠していない。AI搭載の是非よりも、「誰のためにAIを搭載するのか」という問いへの答えが、LibreOfficeとその競合とを分けている。
「反AIマニフェスト」を期待すると肩透かしかもしれない
この一件が示す最大の意味は、「あらゆるソフトウェアにAIが組み込まれる時代に、AI非搭載の選択肢が差別化要因になり得るか」という問いへの実証的な答えだ。少なくともLibreOffice 26.8の数字を見る限り、需要は確かに存在する。
一方で元記事の筆者は、TDFの詳細な説明が「反AIマニフェスト」を期待した読者には拍子抜けになるかもしれないとも指摘している。TDFのスタンスはAI全般の否定ではなく、現時点での実装とビジナスモデルへの慎重な態度だ。それでも、意図的に「AIなし」を設計判断として選んだソフトウェアがダウンロード記録を更新したという事実は、業界全体が一度立ち止まって考えるに足る出来事である。
詳細はLibreOffice breaks download records after declaring it has no AI featuresを参照していただきたい。




