9月19日、PYMNTSが「AI Agents Are Getting Their Own Bank Accounts」と題した記事を公開した。この記事では、Ant InternationalがAIエージェント専用の銀行口座「Account for Agent」を発表し、エージェント決済インフラの整備が本格化しつつある動向について詳しく紹介されている。以下に、その内容を紹介する。
AIエージェントが自分の口座を持つ時代へ
Ant Internationalが、AIエージェント専用の銀行口座「Account for Agent」を発表した。同社のグローバル口座ブランドであるWorldFirstの内部に組み込まれる形で提供される。
この口座が技術的に面白いのは、「Know Your Agent(KYA)」スマートコントラクト上で動作する点だ。人間を識別する「Know Your Customer(KYC)」になぞらえた概念で、エージェントの権限範囲をスマートコントラクトで定義し、リアルタイム監視と介入機能を備える。ユーザーはタスク単位で権限を付与し、エージェントの行動をリアルタイムで確認・制御できる設計になっている。
同口座と合わせて、2つの関連プロダクトも発表された。
- AgentSafePay:100%の資金保証付き。プロンプトインジェクション(外部からの悪意ある命令注入)、意図の誤解釈など、エージェント固有の障害による損失をカバーする。Antは「業界唯一の資金返還保証」と主張しているが、保証の条件、上限、除外事項は公開されていない。
- Agentic Mobile Protocol(AMP):エージェント間決済を処理するプロトコル。**$0.000001という極小単位**での決済に対応する。第1フェーズではウォレットパートナー10社、アクワイアラー(加盟店契約会社)7社が参加し、1億5000万の加盟店と20億以上のコンシューマーアカウントを結ぶネットワークに接続する。
これらのプロダクト群は、Ant国際部門CEOのPeng Yang氏が上海で開催したマーチャントイベント「VOYAGE」にて、1,100名超の経営幹部に向けて発表した。
なぜ今、エージェント専用の決済インフラが必要なのか
既存の決済システムは「人間」または「法人」を認証する前提で設計されている。AIエージェントはそのどちらでもない。
世界経済フォーラム(WEF)は2025年7月、AIエージェントが人間と決済システムの間に介在する構造は、既存の管理手法が想定していないポジションだと指摘した。金融機関はエージェントの関与の有無、承認されていた行動範囲、そして実際の意思決定が人間にトレースできるかを確認する手段を必要としている。
既にAnt傘下の決済ブランドAntomを使うマーチャントのうち**89.5%がAntのFinAI製品を過去12ヶ月で導入しており、81.4%**の決済タスクにAIが関与しているとされる(これらの数字はAnt自社集計であり、第三者監査は受けていない)。
競合する決済レール
エージェント決済のインフラ競争は複数の陣営に分かれている。
Stripeは4月、Linkウォレットをアップグレードし、AIエージェントが決済認証情報を露出せずに支払いを実行できる機能を追加。ユーザーは各支払いリクエストに通知を受け承認できる。
Stripe・Coinbase・Cloudflareは非営利財団を設立し、人間の介在なしにソフトウェアが即時決済できるオープンソースプロトコル「x402」のガバナンスを担う。StripeとCrypto VCのParadigmがインキュベートするTempoも、マシン間決済のオープンスタンダードを3月に発表している。
Antはこれらとは異なるルートを取る。モバイルウォレットとアクワイアラーを経由するプロトコルで、自社のブロックチェーン決済基盤「WhaleRTP」は2025年に同社クロスボーダー取引量の**45%**を処理した。
カードネットワーク側では、VisaがTrusted Agent Protocol、MastercardがVerifiable Intentをそれぞれ展開中だ。注目すべき動きとして、Ant・Mastercard・Visaの3社がKYAの相互運用フレームワークの策定に向けた協力を発表(9月10日)。シンガポール金融管理局(MAS)が主宰する業界プラットフォームBuildFin.aiを通じて進められている。
MastercardのChief Digital OfficerであるPablo Fourez氏は次のように述べている。
「KYAフレームワークの相互運用性は、エージェントコマースをスケールさせるうえで不可欠だ。加盟店・プラットフォーム・ウォレット・イシュアーが、信頼されたエージェントを一貫した方法で識別し、アクションがユーザーの意図を反映していることを検証し、トランザクション全体の説明責任を維持できるようにするためのものだ。」
一方、市場規模についてはBloombergが3月に報じたとおり、エージェント決済の実際の取引量はまだ極めて小さい。ただし、エージェントがカード手数料を迂回するシナリオの研究レポートが出回っただけで、Visa・Mastercard・American Expressの株が一日で最大5%下落した事実が示すように、業界インパクトへの期待(あるいは警戒)は大きい。
詳細はAI Agents Are Getting Their Own Bank Accountsを参照していただきたい。




