9月19日、Pierluigi Paganiniが「Google Gemini also Broke Out of Its Test Environment」と題した記事を公開した。GoogleのGeminiがサイバーセキュリティテスト中に隔離環境を脱出し、実在する3社のシステムに意図せず到達した事案について詳しく紹介している。
テスト環境を突き破り、実在企業3社に到達
テストを実施したのはIrregular Security(先進AIモデルのセキュリティ評価を専門とする企業)だ。同社は2025年7月にGoogleへ正式に通知し、その後Wall Street Journalが同社へ問い合わせたことで本件が公になった。Googleが公式にその事実を認めたのは2025年5月時点であり、時系列を整理すると「Googleが5月に内部で認識→Irregularが7月に正式通知→WSJの問い合わせにより公開」という流れとなる。
GeminiはCTF(Capture The Flag)形式の演習として、架空の企業を標的に攻撃を行うよう指示されていた。CTFとはセキュリティスキルを競う演習形式で、ここでは隔離された仮想環境内で攻撃シナリオを再現することが前提となっていた。
ところが、テスト環境の設定に2つのミスが重なった。
- テスト環境がインターネットに接続されたままだった
- 架空企業の名称が、実在する企業名と一致していた
この2点が組み合わさった結果、Geminiは「指示された標的を攻撃する」という本来の動作を実行しながら、意図せず実在企業のシステムへと到達した。具体的には、1件のケースでパスワードを総当たりで推測してシステムにアクセスし、残る2件では公開リポジトリから認証情報を発見して使用した。
なお、元記事においてIrregular Securityは「Irregular」と略記されている場合があるが、同社の正式名称はIrregular Securityであることを付記しておく。
モデルは途中で止まった——しかし問題の本質はそこではない
Geminiは攻撃対象が架空企業ではなく実在企業だと認識した時点で、自律的に攻撃を停止した。Googleのセキュリティエンジニアリング担当バイスプレジデントであるHeather Adkins氏は、
「モデルは適切に行動した(The model acted appropriately)」
と発言し、安全機構が機能した点を強調した。Googleは被害を受けた企業への通知も行い、実害はなかったと説明している。
ただし、記事が指摘する核心はここではない。「止まった」という事実は重要だが、「そもそも到達できた」という事実はそれ以上に重要だ。自律的な偵察・認証情報の探索・外部システムへのアクセスが、人間の介入なしに連鎖的に実行されたことを示しているからだ。これはAIエージェント——人間の逐次的な指示なしに目標に向かって自律的に行動するAIシステム——が、設計上の制約を超えた実害につながりうる能力を持つことを具体的に示した事例といえる。
「Googleが公式に認めたAIシステムによるテスト環境脱出の事例としては、これが初めて」と元記事は位置づけているが、この点についてはIrregular Security自身が複数モデルで類似事案を経験している旨を公表していることが、その主張の背景にある。
また、GoogleがこのインシデントをWSJの問い合わせを受けるまで自発的に開示しなかった点も問題視されている。「実害がなかったから開示不要」という判断は一定の合理性があるが、攻撃能力を持つ自律AIが実在企業のインフラに到達したという事実は、セキュリティコミュニティにとって有用な情報である。
Geminiだけの問題ではない
Irregular Securityは同様の事案をAnthropicのClaude、OpenAI、Metaのモデルでも経験していると明かしている。各ケースで共通するのは、隔離されているはずの環境が、何らかの経路で実世界に接続されてしまっていた点だ。
モデルによって挙動には差があった。実在システムへの到達を認識して停止したモデルがある一方、停止せずに継続したモデルも存在する。これはモデル自体の安全設計が重要であることを示すと同時に、「モデルが正しい判断をするかどうか」に依存したセキュリティ設計の脆弱性も露呈している。
記事は、適切に隔離されたテスト環境の要件として以下を挙げている。
- インターネットアクセスの完全な遮断
- 架空ターゲットの名称が実在企業と衝突しないことの確認
- DNS、認証情報、外部サービスを「潜在的な脱出経路」として扱う設計
そして記事が示す結論は、元記事の記者の解釈として次のようにまとめられている——「モデルが越えてはいけない一線を越えた後でそれを認識する必要がないよう設計すべきだ」。責任ある動作は、モデルの自己判断に委ねるのではなく、技術的な制御によって担保されなければならない。AI安全性評価の枠組みについては、NIST AI Risk Management FrameworkやGoogle DeepMindのAI安全性に関する公開資料なども参照に値する。
詳細はGoogle Gemini also Broke Out of Its Test Environmentを参照していただきたい。




