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ラット脳の神経パターンをAIに転写——動画生成を最大5倍高速化するバイオコンピューティングがAWSで限定プレビュー開始

9月22日、Wiredが「AI Models Built From Rat Brains Just Got Closer to Reality」と題した記事を公開した。ラットの脳細胞から得た神経パターンをソフトウェアに転写し、動画生成AIの推論速度を最大5倍高速化するというバイオコンピューティングスタートアップ「The Biological Computing Company(TBC)」が、AWSを通じた商用展開へ向けた限定プレビューを開始した。SF的な響きを持つこの技術が、現実のクラウドインフラに乗り始めている。

9月22日、Wiredが「AI Models Built From Rat Brains Just Got Closer to Reality」と題した記事を公開した。ラットの脳細胞から得た神経パターンをソフトウェアに転写し、動画生成AIの推論速度を最大5倍高速化するというバイオコンピューティングスタートアップ「The Biological Computing Company(TBC)」が、AWSを通じた商用展開へ向けた限定プレビューを開始した。SF的な響きを持つこの技術が、現実のクラウドインフラに乗り始めている。


ラット脳由来のAIモデルがAWSで動き始めた

動画生成AIの推論速度を最大5倍に高め、コストも大幅削減——それを実現しているのが、ラットの脳細胞から得た神経パターンをソフトウェアに転写する技術だ。

バイオコンピューティングスタートアップ「The Biological Computing Company(TBC)」は今週、AWSの一部エンタープライズ顧客向けに自社のAIモデルを限定プレビューとして提供開始した。AmazonとTBCは、近く全AWSエンタープライズ顧客へのロールアウトを予定していると述べており、現時点では商用展開に向けた段階的な取り組みの途上にある。

TBCは4年前、メリーランド州ボルチモアで神経科学者・神経外科医の2名——CEO Alexander KsendzovskとCOO Jon Pomeraniec——によって設立された。今年3月、Primary Venture Partnersが主導する初の大型資金調達で2,500万ドルを調達。その直後にさらに2,500万ドルを追加調達し、累計調達額は5,000万ドル超に達している。この追加調達は本記事が初報となる。現在、サンフランシスコに拠点を置き、従業員は約35名。


「ラット脳」をどうAIに変換するのか

TBCのアプローチは以下のように機能する。

  1. 画像などの情報をラット脳細胞(一部は人間の幹細胞も使用)に電気刺激として入力する
  2. スイスのバイオテク企業「**3Brain」製のマルチ電極シリコンアレイ**を使って神経の反応パターンを記録する
  3. その神経活動を解析し、計算パターンとしてソフトウェアに落とし込む
  4. そのパターンを既存のAI動画生成モデルの改善に活用する

マルチ電極シリコンアレイとは、多数の微細電極をシリコン基板上に格子状に配置したデバイスで、培養した神経細胞の電気的活動を高密度・高精度に同時記録するために用いられる。神経科学研究では広く利用されており、TBCはこの記録データを計算資源として活用している。3Brainは同デバイスの主要メーカーのひとつで、欧州の研究機関・製薬企業への導入実績を持つ。

「生物学的な素材に画像などの情報をコードする方法を見つけた。生物学がその情報をどう処理するかを観察し、そのプロセスを模倣するツールを構築する」とKsendzovsky氏は述べている。

動画生成に最初に注力したのは、マルチ電極アレイの物理的な配置構造が画像のグリッドマッピングに適していたためだという。テキストや言語よりも視覚情報の方がアレイに自然にマッピングできると判断した。

また、Googleの元AI主任研究者であるJeff Deanが、まず動画生成モデルのファインチューニングから着手することを提案したとも記事は伝えている。記事中でのDeanの肩書きや関与の詳細な形態(投資家・アドバイザーなど)は明記されていないが、業界標準のベンチマークが整備されている動画モデルで成果を示せれば技術の有効性を早期に証明できる、という判断が背景にあったとされる。


競合との比較と、スケールへの疑問

TBCは自社AIモデルが比較対象の動画生成モデルと比べ、動画生成速度で最大5倍高速で、推論コストを大幅に削減できると主張している。比較対象は「フロンティアクラス」の動画生成モデルとされているが、具体的なモデル名は非公表であり、独立した第三者による検証は現時点では行われていない。

なお、AWSが扱うバイオコンピューティング企業はTBCだけではない。オーストラリアのCortical Labsも同プラットフォームで提供されており、ラボ培養ニューロンとシリコンチップを組み合わせた製品「WAAS(wetware as a service)」を展開している。

一方、AWSのスタートアップ担当グローバルテクノロジーディレクター、Deap Ubhi氏はTBCへの期待を示しながらも、スケーラビリティへの疑問を率直に口にしている。

「極限まで負荷をかけたとき、それでも改善が見られるかを問わなければならない。10分、1時間の長尺動画を生成したい顧客がいた場合、時間が経つにつれて精度がどれほど落ちるのか」

動画が長くなるほど一貫性の維持が難しくなる。これはTBCが本格展開に向けて直面する最大の技術的課題だ。


バイオコンピューティングが「フリンジ」を脱しつつある

研究者たちは長年、コンピュータソフトウェアが人間の脳内の神経回路のように動作する世界を描いてきた。バイオコンピューティングとは、生物学的な素材や原理を計算処理に応用する分野の総称であり、シリコンベースの半導体とは異なる計算基盤として注目されてきた。ただし、固有の困難もある。実際の生物学ラボを運営し、脳細胞や幹細胞を生かし続け、慎重に監視しながら、それをデジタル情報に変換する必要があるからだ。

AIモデルの効率化競争が激化する中、TBCのようなアプローチが現実のクラウドインフラに乗り始めたことは、バイオコンピューティングという分野にとってひとつの転換点を示している。限定プレビューという現段階からどこまでスケールできるかが、今後の評価を左右するだろう。

詳細はAI Models Built From Rat Brains Just Got Closer to Realityを参照していただきたい。