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Anthropic

Claudeが素粒子物理学の未解決計算「9ループ振幅」を達成 — 人間の研究者が1カ月以上かける計算を、ほぼ無監督で完走

9月26日、Anthropicが「Claude computes a nine-loop amplitude in N=4 super-Yang-Mills」と題した記事を公開した。理論物理学者出身のサイエンスライターがAIに投げかけた公開挑戦状に、ClaudeがN=4超Yang-Mills理論における9ループ散乱振幅の計算を達成することで応えた——その一部始終を記録した、研究報告を兼ねたゲスト寄稿だ。

9月26日、Anthropicが「Claude computes a nine-loop amplitude in N=4 super-Yang-Mills」と題した記事を公開した。理論物理学者出身のサイエンスライターがAIに投げかけた公開挑戦状に、ClaudeがN=4超Yang-Mills理論における9ループ散乱振幅の計算を達成することで応えた——その一部始終を記録した、研究報告を兼ねたゲスト寄稿だ。


物理学者が公開した「挑戦状」

記事の執筆者は、理論物理学者出身のサイエンスライター、Matt von Hippel氏。同氏は自身のブログ4gravitons.comで、AIに対してこんな挑戦を投げかけていた。

「AI企業が私のような人間を感心させたいなら、私の元専門分野に取り組む必要がある。学術研究者が使える計算リソースで、散乱振幅分野の未解決問題を解け。N=8超重力理論で7ループ、またはN=4超Yang-Mills理論で9ループを達成せよ」

この挑戦は約1カ月後に達成された。なお条件は「N=8超重力で7ループ」と「N=4 SYMで9ループ」の2択であり、今回Anthropicが選択・達成したのは後者のN=4 SYM 9ループだ。元記事ではN=8超重力側への言及は今回の成果報告には含まれていない。


そもそも「9ループ」とは何か

理解のために背景を補足する。

素粒子物理学では、粒子同士の反応確率を予測する「散乱振幅」という計算式が使われる。この計算式は非常に複雑なため、物理学者は通常「ループ数」で精度を打ち切る近似計算を行う。ループ数が増えるほど精度は上がるが、計算コストは指数的に増大する。

実用的な量子電磁力学の最高精度計算でも5ループが限界とされてきた。大半の計算は2〜3ループで打ち切られている。

N=4超Yang-Mills理論(以下「N=4 SYM」)は現実の粒子を直接説明する理論ではなく、新手法を検証するための「おもちゃモデル」だ。各粒子に4つの超対称パートナーを持つため非現実的だが、粒子の対称性が高く計算が比較的簡潔になるという性質がある。そこで振幅研究者(amplitudeologist)たちは、この理論を使って計算技法を磨いてきた。

問題は、9ループ計算は誰も成功していなかったことだ。


Claudeがどうやってやったのか

Anthropicの物理学者Liam FitzpatrickとSiddharth Mishra-Sharmaの2名が、「Claude Science」と呼ばれる仕組みを使って挑戦した。Claude ScienceはClaudeのLLMを構造化されたルールとプロンプトで動かす「ハーネス」であり、科学的用途向けに設計されたAnthropicの実験的なフレームワークだ(現時点で一般向けに公開された製品ではない)。

Claudeに与えた最初のプロンプトは驚くほどシンプルだった。

「問題は、N=4 SYM理論の6粒子(六角形)振幅を9ループで計算することだ」

その後の指示は実質的に「続けてください」だけ。実際に使われたメッセージの一例がこれだ。

「私はこれから眠るので、数時間は対応できない。指示するまで作業を続けてくれ。4〜6時間おきに進捗を報告してほしい」

Claudeは計算を2つの異なるアプローチで実行した。一つはブートストラップ法(PythonのSymPyを使用)、もう一つはフォームファクターと呼ばれる間接的手法だ。

かかったコストは、エンドユーザー換算でそれぞれ約1,000〜2,000ドル程度。ブートストラップ計算に使った計算リソースは96CPUを1週間稼働させた分で、費用は約100ドル相当。Von Hippel氏が10年前に同種の計算をしていた当時の感覚では多大なコストだが、今では合理的な予算内に収まるレベルだ。


ミスなしで一発完走

von Hippel氏が特に驚いたのは、外部の科学者による監修なしに計算が完遂されたという点だ。

「もし私が96CPUを1週間使ってこの計算をしたなら、ほぼ確実に2週間かかっただろう。最初の試みで何かしらミスを犯すのは避けられない。Claudeが内部でいくつのミスを犯したかは知らないが、ハーネスは外部の協力者なしに計算を最後まで走らせた」

元記事によれば、同時期にSong He氏のグループも同じ計算結果の大部分を独自に得ていたことが判明している。ただし、そのグループのアプローチはAnthropicのような「ほぼ人間不在の一発計算」ではなく、結果の発表と解析は人間の研究者が担当するスタイルだったとされている。なお、Song He氏の所属機関・使用したツールの詳細については元記事の記述に基づくため、詳細は原文を参照されたい。


von Hippel氏の所感

von Hippel氏は、当初この問題は計算量的な壁によって困難だと考えていたが、実際には人間の研究者にも届く射程内にあったという点を強調している。また3月時点のAIが「学生のような手厚い補助付きの小規模タスク」をこなすレベルだったのに対し、今回の結果はトップレベルの研究者が取り組む「フロンティア計算」であると評価した。

一方で、これがAIの汎用的な能力向上を示すのかどうかは「まだわからない」と率直に述べている。現実世界の振幅計算はN=4 SYMよりも複雑であり、同じ手法が通用するかは未知数だとしている。


詳細はClaude computes a nine-loop amplitude in N=4 super-Yang-Millsを参照していただきたい。