9月26日、Brendan Burkeが「Project Suncatcher Prepares to Launch TPUs. Is Google Ahead in the Orbital AI Race?」と題した記事を公開した。この記事では、GoogleがTPUを搭載した衛星を宇宙へ打ち上げ、軌道上AIコンピューティングの実現可能性を検証するProject Suncatcherの詳細について詳しく紹介されている。以下に、その内容を紹介する。
GoogleのTPUが宇宙へ飛ぶ:「商用シリコンをそのまま軌道上で使う」という賭け
2026年10月1日、GoogleはVandenberg宇宙軍基地からSpaceXのFalcon 9に相乗りする形で、Project Suncatcherの最初の試験衛星「MVP」を打ち上げる予定だ。
搭載されるのは4基のTrillium TPU(Google Cloud TPU v6eと同等のスライス構成)で、太陽電池パネルが供給する約1キロワットの電力で動作する。冷蔵庫サイズのこの衛星は1年間の運用を想定しており、約15分間のウィンドウでGeminiのクエリ処理を行ったあと、冷却のためにシャットダウンするという動作サイクルを繰り返す。打ち上げ後、約6年以内に大気圏へ再突入して廃棄される計画だ。
この衛星がなぜ注目されるのか。それはGoogleが「宇宙専用の耐放射線チップ(rad-hardシリコン)」を使わず、地上向けの商用TPUをほぼそのまま軌道上に持ち込もうとしているからだ。従来の宇宙用チップ開発は放射線耐性を確保するための設計に10年単位の期間を要していた。商用シリコンが軌道上で動くと実証できれば、その制約を一気に崩せる。
放射線テストで「20倍のマージン」を確認
プロジェクトの中で最も具体的な成果が出ているのが、2025年2月からUC Davis・Crocker Nuclear Laboratoryで実施された放射線テストだ。
67 MeVのプロトンビームを照射した結果、Trillium TPUは15 krad(Si)の累積電離線量に耐えた。5年間の軌道ミッションに必要な要件が750 rad(Si)であるため、コンピュートダイ単体では約20倍のマージンを確保したことになる。
一方で課題も明確になった。高帯域幅メモリ(HBM)が最も放射線に敏感な部品であることが判明し、2 krad(Si)を超えたあたりで異常が確認された。それでもミッション要件の約3倍は許容できる水準だ。放射線による大半のビット化け(bit flip)はリスタートで回復可能だったが、ビームテスト中にサイレントデータ破壊(Silent Data Corruption)イベントが1件検出されたことも開示されている。
振動テストでは、打ち上げ時に部品が受ける50〜100 Gの加速度を与えても、ネジとチップがすべて損傷なく残ったことが確認された。
81基の衛星クラスターと「1.6 Tbpsの光インターコネクト」
Googleが技術論文で描くスケールアップ後のアーキテクチャは、高度650kmの夜明け・夕暮れ軌道(dawn-dusk軌道)に81基の衛星が半径1km以内のクラスターを形成するというものだ。衛星間の間隔は100〜200メートルで振動し、市販のDWDM光トランシーバーを使ったベンチ実証では双方向1.6 Tbps(片方向800 Gbps)の伝送を達成している。最終目標は衛星間リンク1本あたり約10 Tbpsだ。
dawn-dusk軌道を選ぶ理由は電力効率にある。この軌道では太陽電池パネルが地上中緯度に設置した場合の最大8倍の年間エネルギーを得られる。Googleは軌道上データセンターのコストが2030年代半ばに地上と同等に近づくと試算している。
ただし熱管理が最大の制約だ。ラジエーターは1平方メートルあたり300ワットを放熱できるが、アクセラレータ1基の発熱はその333倍に達する。チップ1個につき1.3平方メートルのラジエーター面積が必要という計算になり、それが15分というデューティサイクルを強いる根本的な理由でもある。
競合の現状:スタートアップはすでに軌道にいる
軌道上AIコンピューティングのレースでは、スタートアップがGoogleより先に実機を宇宙に送り込んでいる。
- Starcloud:2025年11月にNVIDIA H100を搭載したStarcloud-1を打ち上げ済み。2026年3月に評価額11億ドルで1億7,000万ドルのシリーズA調達。2027年にはStarcloud-2でフルGPUクラスターを計画。
- NVIDIA:GTC 2026でSpace-1 Vera Rubinモジュールを発表。H100比で最大25倍の宇宙向け推論性能を主張するが、提供時期は未開示。
- AMD:Versal AI Edge Gen 2 XQR(適応型SoC)を軌道展開向けに位置づけ。
- Axiom Space:2026年1月に低軌道へ2基のデータセンターノードを設置済み。
- SpaceX:最大100万基の衛星コンステレーション、1トンあたり100kWのコンピューティング提供を申請済み。さらにxAIを買収しており、打ち上げプロバイダーであると同時に直接の競合になり得る存在だ。
Googleの強みは、アクセラレータ(TPU)・モデル(Gemini)・クラウド需要・飛行実証済みの軌道へのパスをすべて自社で押さえている唯一のプレイヤーであること。弱点は打ち上げをSpaceXに依存していることだ。
経済的な壁:$200/kgへの道
Googleの論文自体が認めているように、地上データセンターとのコスト同等性を実現するには打ち上げコストを約200ドル/kgまで下げる必要がある。現在の再使用型Falcon 9は約3,600ドル/kgであり、その水準に到達するには年間約180回のStarship打ち上げを20%の学習曲線で実現する必要があるとFuturumは試算する。
現時点でのコスト比較は厳しい。Futurumの試算では、軌道上インフラのコストはコンピュート抜きで1ギガワットあたり約721億ドル、一方の地上オフグリッド展開は約162億ドルと4.5倍の差がある。
Googleのジェームズ・マニカ上級副社長(Research and Technology & Society担当)はその現実を率直に認めている。
「率直に言って、今後数年間で実用的に稼働するものができるとは思っていない」
同氏はこの取り組みをGoogleの自動運転研究15年の歩みになぞらえた。
今後のチェックポイント
- MVPのTPUが計画通り1年間のミッションを通じてGemini推論を維持できるか、特にHBMの劣化
- 2027年の2衛星打ち上げと光衛星間リンクの軌道上実証が確認されるか
- Starshipの商業打ち上げ頻度が2030年までに200ドル/kgという経路を示せるか
- NVIDIAのSpace-1 Vera Rubinが軌道に到達し、Trilliumの放射線マージンに匹敵できるか
詳細はProject Suncatcher Prepares to Launch TPUs. Is Google Ahead in the Orbital AI Race?を参照していただきたい。




