10月7日、The Next Webが「Sierra announces Personal Agent Protocol, an open standard for personal AI agents」と題した記事を公開した。AIエージェントがユーザーに代わってECサイトで注文したり、ローンを申し込んだりする時代が現実味を帯びてきた今、「そのエージェントは誰のものか」「どこまでの操作を許可するか」という認証と権限管理の基盤が整備されていないという課題がある。SierraとMetaはその空白を埋めるべく、Shopify・Stripe・Walmartら大手と共同でオープン標準「Personal Agent Protocol(PAP)」の策定を発表した。
AIエージェントが「ユーザーの代わりに行動する」時代の認証基盤
Personal Agent Protocol(PAP)は、SierraのBret TaylorとClay Bavorが発表したオープン標準だ。参加パートナーはMeta、Genesys、Instinct、Rocket、Shopify、Stripe、Walmartで、v0.1仕様書は今月中に公開予定とされている。
標準化が必要な理由は明確だ。現状、各社がバラバラに実装しているエージェント認証の仕組みは相互運用性が低く、エージェントが複数のサービスをまたいで動作する際に認証情報の引き渡しや権限範囲の管理が破綻しかねない。PAPはこの問題を業界横断的に解決するための共通仕様として設計されている。
技術の核心:OAuthベースのセッション管理
認証の仕組みはOAuth上に構築される。OAuthはサードパーティアプリケーションがユーザーのパスワードを直接扱わずに、限定的なアクセス権限を委譲するための業界標準プロトコルであり、PAPはこの上にエージェント固有のセッション管理を重ねる設計になっている。具体的なフローはこうだ。
- エージェントはまずゲストとしてセッションを開始し、在庫確認や返品ポリシーの照会などを行う
- ユーザーがサインインした時点で、エージェントに読み取り専用(read-only)か書き込みアクセス(write access)かを選択する
- セッションはチャネルをまたいで継続されるため、サインイン前の問い合わせとサインイン後の注文変更が同一訪問として扱われる
企業側の実装方法も柔軟に設計されている。自社ウェブサイト経由、**MCPやOpenAPIを用いたAPI経由**、または自社エージェント経由のいずれかを選択できる。なお、MCPはAnthropicが提唱するModel Context Protocolの略称で、AIモデルと外部ツール・データソースを標準化された形で接続するためのプロトコルだ。TechFeed読者でも馴染みのない方は公式ドキュメントを参照されたい。
競合標準との分断:StripeとShopifyは両陣営に参加
ここで見逃せない構図がある。実は同種の標準化競争はすでに始まっており、VisaはMicrosoft・Stripe・Shopify・Worldpayと共に「Trusted Agent Protocol」を推進している(2024年6月、VisaはChatGPTとの連携を発表し、約1億7500万のマーチャントへの対応を実現している)。Trusted Agent ProtocolはVisaが主導するエージェント向け決済認証の標準化イニシアチブで、Visa公式の発表でその概要が確認できる。
つまりStripeとShopifyはPAPとTrusted Agent Protocolの双方に参加している状態だ。標準化において企業が複数の陣営に加わるのはよくある戦略だが、どちらが業界標準として定着するかはまだわからない。
MetaのMuseエージェントが具体的なユースケースを示す
PAPの実用例として、RocketのプレスリリースはMetaのMuseエージェントを挙げている。Museは約4週間前にローンチされたエージェントで、住宅探しからローン手配までをまたがって動作するとされる。支払いはStripeのLink経由で保存済みカードを使う。
決済はまだ「将来の拡張」扱い
重要な留意点がある。決済機能はv0.1には含まれておらず、将来の拡張として位置づけられている。プッシュ通知やより詳細な権限管理も同様に今後の課題だ。
背景にあるのは規制上の問題だ。EUの**PSD2(決済サービス指令2)**に基づく強顧客認証(SCA)は、「人が特定の受取人・金額を確認してトランザクションを承認する」という前提で設計されており、AIエージェントが代理で承認する場合の適用除外規定が存在しない。この規制上の空白がクリアになるまでは、決済の標準化は慎重に進めざるを得ない状況だ。
欧州展開についても課題は残る。現時点で欧州に拠点を持つパートナーはStripe(サンフランシスコとダブリンのデュアル本社)のみであり、欧州の小売業者・銀行・決済企業はまだ加わっていない。
標準より実装が先行している現状
記事の末尾でThe Next Webが指摘する通り、「エージェントは、それが動くための取り決めよりも速く登場している」状況だ。同日、Harkは食料品の購入・配車・請求書支払いができるエージェントをリリースしたが、対応ハードウェアの出荷は1年後を予定している。標準化作業がリアルな実装の速度に追いつけるかが、このエコシステムの鍵を握る。
詳細はSierra announces Personal Agent Protocol, an open standard for personal AI agentsを参照していただきたい。




