10月8日、madrobot.blogが「OpenAI put 722 AI-written maths papers on GitHub, then pulled three of them a day later」と題した記事を公開した。OpenAIが内部AIモデルで生成した数学論文722本をGitHubに一斉公開したのは10月6日。その翌日には早くも3本が取り下げられた。助言を求められた数学者諮問グループは「承認として解釈するな」と声明を出し、人間による数学の擁護を訴える新興団体は「権力の誇示だ」と強く批判している。
722本の論文を一夜で公開、そして3本を翌日削除
10月6日(火)、OpenAIは社外では誰も使えない「内部フロンティアモデル」が生成した数学論文722本を公開GitHubリポジトリに一斉投稿した。翌10月7日には、そのうち3本を取り下げた。
取り下げの原因はシンプルだ。「Algebraicity of Weil classes on split abelian eightfolds」に符号エラーが見つかり、その欠陥がその論文に依存していた他の2本(「The rational Hodge conjecture for products of K3 surfaces」を含む)を連鎖的に無効にした。結果、公開からわずか1日でカウントは722本から719本に減った。
公開した論文のうち約42%(300本)には、Leanと呼ばれるプログラミング言語による形式証明が付いている。Leanは証明の各ステップをコンピュータが機械的に検証できる言語だ。残りの約58%は機械検証されておらず、READMEには「一部の未形式化の結果には問題がある可能性がある」と明記されている。
論文群は372の「ファミリー」に分類され、それぞれ主要な定理と補助的な議論から構成される。モデルは内部テスト中に約4,000問を解かせており、1つの結果につき平均でChatGPT Proの約3時間分の計算リソースを消費したという。
また、2本については通常の手続きとは別扱いで、リーマンゼータ関数のゼロ点フリー領域に関する論文は人間が読みやすいよう編集が加えられており、CMアーベル多様体に関するホッジ予想の証明も公開されている。いずれの論文も査読は経ていない。現時点では、これらが何を解いたかはOpenAI自身の主張に過ぎない。
「助言はお墨付きではない」——数学者たちの反応
OpenAIは今回の公開にあたり、プリンストン高等研究所(IAS)に設置されたAGMAI(Advisory Group on Mathematics and Artificial Intelligence=数学と人工知能に関する諮問グループ)の助言を受けたと説明した。AGMAIにはフィールズ賞受賞者のTim GowersやMartin Hairer、物理学者のEdward Wittenらが名を連ねる。
しかしAGMAIは同日、自らの声明でこう述べた。
AGMAIの諮問的役割は、これらの結果の影響に対する判断や、OpenAIがそれらを得たプロセスへの承認として解釈されるべきではない。
——Advisory Group on Mathematics and Artificial Intelligence
AGMAIはOpenAIとの対話を「建設的」と評しつつも、「この成果の妥当性を判断できるのは数学コミュニティ全体だけだ」と明言。「この公開は完了ではなく、始まりに過ぎない」と警告した。
さらに踏み込んだのが、「Association for Human Mathematics」だ。同団体は数学を人間の知的営みとして守ることを目的に設立された新興擁護団体であり、コミュニケーション作業部会は次のように批判した。
700本以上のファイルを一度に公開することは、学術的な貢献の実証ではなく、権力の誇示だ。
——Association for Human Mathematics
同団体は「数学者はこの作業を依頼していない」と主張し、OpenAIがAGMAIから受けた助言——元記事によれば「内部モデルで高度な問題をテストするな」という趣旨の勧告——を無視したと指摘した。そのうえで、数学者たちにOpenAIとの協力を停止するよう呼びかけている。OpenAIは両声明に対してコメントしていない。
背景:数学コミュニティへの「洪水」
今回の公開は、数学界がAI生成コンテンツへの対処に追われる中で起きた。論文投稿サーバーのarXivは先週、AI生成論文の月間投稿数が40,363本という記録的な水準に達したことを受け、運営側が全投稿者を対象に1か月あたりの投稿を2本に制限する措置を新たに導入したばかりだ。また、OpenAIのナビエ・ストークス方程式に関する主張をめぐっては、数学者たちが数週間にわたって論争を続けている。こうした文脈の中で、今回の722本一斉公開は数学コミュニティにとってさらなる「洪水」として受け止められた。
OpenAIは今後、AI生成の結果をテーマにしたワークショップや学会への資金提供を行うとしており、モデル自体の公開も「責任ある方法で進めている」と述べているが、日程もモデル名も明かしていない。
数百本の論文を精査する作業は、ただでさえ手が追いつかない数学コミュニティにとって相当な負担だ。公開初日に3本の撤回が発生した事実は、残り719本についても独立した検証が不可欠であることを示している。
詳細はOpenAI put 722 AI-written maths papers on GitHub, then pulled three of them a day laterを参照していただきたい。




