10月8日、PCMagが「Utah Experiments With Having AI Prescribe Meds for Acne」と題した記事を公開した。米ユタ州でAIがニキビ治療薬を処方する全米初のパイロットプログラムが認可されたことを詳しく伝えている。
AIが処方箋を書く——「医師不足」の医療格差を埋める実験
ユタ州で、AIが実際に処方箋を発行する試みが始まった。承認を受けたのはNolla Healthで、同社の「Nolla Derm」アプリを通じて、ニキビ治療薬の処方をAIが行う。料金は月額4.99ドル。患者はスマートフォンで顔をスキャンするだけで、10〜15分以内に治療計画と処方箋が届く仕組みだ。
ユタ州で皮膚科の予約待ち日数は全米中央値の約2倍にあたる61日、11の郡には皮膚科医が1人も存在せず、1回の診察費用は最大300ドルに上る。Nolla Healthはこの医療格差を背景に開発を進め、ユタ州人工知能政策局(OAIP:Office of Artificial Intelligence Policy)との数ヶ月にわたる協議を経て認可を取得した。
AIの技術的な詳細——使用している画像診断モデルの種類・学習データ・診断精度といった情報——は元記事では開示されていないが、患者が提出した顔のスキャン画像をもとに症状を評価し、治療計画を生成する構成となっている。
3段階で人間の監督を段階的に縮小
このパイロットの設計が技術的に興味深い。人間の関与を段階的に減らしながら安全性を検証する、3フェーズ構成になっている。なお、フェーズ1・2においては医師による監督が明示的に残されており、「医師不在」の診療が実現するのはフェーズ3以降の話となる点に注意が必要だ。
- フェーズ1(100人): AIが生成した処方箋すべてを、2名の認定医師が独立してレビュー・承認
- フェーズ2(500人): 医師のレビューは事後確認に移行し、頻度は「少なくとも週1回」
- フェーズ3: 医師が確認するのは月次の処方箋の10%サンプルと、副作用・悪化ケースのみ
妊娠中の患者や重度のニキビ、パイロット対象外の症状を持つ患者は、AIではなく認定医師または対面診療に誘導される。フェーズが進むにつれて人間の関与を絞り込む設計は、AIシステムの段階的な信頼構築モデルとして、医療規制の観点からも注目される構造だ。
ユタ州の「規制サンドボックス」戦略
Nolla Healthの認可は単独の事例ではない。OAIPは現在、5つの組織との協定を結び、臨床AIツールのデータ収集を進めている。
- Expect Fitness: 産後回復・尿失禁・骨盤底機能向上を対象としたAI理学療法
- August AI: 定期処方箋の自動更新
- University of Utah Health / Intermountain Health: 医療AIパイロットの基盤整備
また、今年4月にはユタ州で精神科薬をAIが処方するパイロットもすでに開始されている。こうした取り組みはいずれも、OAIPが運営する規制サンドボックスの枠組みの下で実施されており、同州は医療AIの実証実験の場として全米でも先端的な位置づけとなっている。規制サンドボックスとは、新技術を限定的な条件下で試験的に運用しながら規制のあり方を探る制度設計で、FDAや各州レベルで医療AI分野への適用が模索されている。
次の拡大計画
Nolla HealthのチーフメディカルアドバイザーであるZaid Fadul医師は、試験が順調に進めば、対象疾患を酒さ(rosacea:顔面の慢性炎症性皮膚疾患)、インフルエンザ、合併症のない尿路感染症などへ拡大することに関心を示している。同社はさらに、医療用ウェアラブル、心拍モニタリング、血液検査分析、女性ホルモン・月経周期追跡、更年期治療への展開も検討中だ。
「AIが医師の代わりになれるか」という問いに対し、ユタ州は「段階的に試してみよう」という現実的な答えを出しつつある。その結果は、今後の医療AI規制のあり方に直接影響を与えることになるだろう。
詳細はUtah Experiments With Having AI Prescribe Meds for Acneを参照していただきたい。




