10月9日、Euronewsが「What happened to OpenAI's $20bn? Revenue scare rattles AI trade」と題した記事を公開した。OpenAIの収益数字をめぐる「200億ドルの乖離」が独り歩きし、AI関連株を直撃してNasdaqが急落——しかしその乖離は、売上の消失ではなく収益の計算方法の違いから生じたものだった。数字の誤読が市場を動かした一部始終を紹介する。
「200億ドルのミステリー」の正体
木曜日、Financial Timesが報じた内容がきっかけだった。OpenAIの年換算収益(Annualised Revenue、ARR)が9月末時点で「約500億ドル(約44.6兆円)に近づいている」と、投資家に共有された数字をもとに報じたのだ。
問題は、これが1ヶ月前にOpenAIが示した数字より約200億ドル(約17.8兆円)少ないという点にある。市場はこれを「目標未達」と読んだ。
しかし実態は異なる。
記事によれば、このギャップはOpenAIが売上を取りこぼしたわけではなく、収益の計算方法の違いから生じた数字だ。もともと流通していた約700億ドル(約62.5兆円)という高い数字は、投資家がOpenAIの収益をライバルのAnthropicの計算方式に合わせて試算したものだった。
ここで重要なのが、ARRと「GMV的な計上方式」の違いだ。
- ARR(Annualised Revenue、年換算収益):直接の売上をもとに年率換算した数字。OpenAIが採用している方式に近い
- GMV的な計上方式:プラットフォームを経由した顧客の総支出額を収益として計上する方式。Eコマースでいう「流通総額」に相当し、実際に自社に帰属する収益より大きな数字になりやすい
Anthropicは、Amazon Web ServicesやGoogle Cloudなどのクラウドプラットフォームを通じた顧客の支出を収益として計上する(GMV的な方式)。一方、OpenAIはこうした間接販売を収益から除外している。計算方式が違えば、数字が変わるのは当然だ。
なお、同じ計算方式で比べると、OpenAIの約500億ドルはAnthropicが7月末に達したとされる約650億ドル(約58兆円)を下回ることになる。ただし両社の計算方法が異なる以上、この数字の直接比較には注意が必要だ。
市場への影響:AI関連株が軒並み下落
この報道を受け、OpenAIへの投資や事業依存が大きい企業の株価が大きく動いた。
- Oracle(OpenAIに大規模な計算リソースを供給):−5.5%
- CoreWeave(OpenAIと数十億ドル規模の契約を持つAIクラウド事業者):−約8%
- Microsoft(OpenAIの主要株主)、Amazon、Alphabet、Meta:いずれも−1%超
- Nvidia:−約3%、AMD:−約4%、Broadcom(OpenAIと独自チップを開発中):−4.35%
東京市場でも波及し、OpenAI株式の約13%を保有するSoftBank Groupは一時**−7.3%**まで下落した。
Nasdaq総合指数は1.25%下落して約27,193となり、主要米国半導体株を追うフィラデルフィア半導体指数は3.4%急落した。
一方、チップ需要は堅調
ただし、AI投資の勢いが衰えているわけではない。同じ週に出た別のデータがそれを示している。
韓国Samsungは第3四半期の営業利益が過去最高の107.4兆ウォン(約11.6兆円/約800億ドル規模)に達すると推計した。元記事はこれをNvidiaが直近四半期に記録した637億ドルと比較しており、確定すればテクノロジー企業として史上最大の四半期営業利益となると報じている。※ウォンとドルの換算レートは時点により変動するため、元記事の原文数字をあわせて参照されたい。
台湾のTSMC(世界最大の受託半導体製造企業)も、9月の売上高が前年同月比54.6%増と発表し、第3四半期の収益は過去最高のNT$1.49兆(約468億ドル)に達した。
市場がAIの収益性に慎重になる一方で、AI向けハードウェアの需要自体は依然として旺盛な状態が続いている。
今後の焦点
OpenAIは現在、1.4兆ドル(約125兆円)の企業評価額で少なくとも300億ドル(約26.7兆円)の追加資金調達を目指しているとされる(3月時点の評価額は8,520億ドル)。今回の収益数字の混乱は、その調達交渉にどう影響するかが注目される。
今後の情報更新として、オランダの半導体製造装置大手ASMLが10月14日、TSMCが10月15日に決算を予定しており、AI需要の実態がより明確になる見込みだ。また、Anthropicは早ければ11月にも、OpenAIは来年にも上場の可能性があり、両社の監査済み財務データが公開されれば、収益の実態を正確に比較できるようになる。
今回の騒動が改めて示したのは、AIスタートアップの「収益」という数字が、計算方法次第でまったく異なる意味を持つという事実だ。上場後に統一基準での開示が義務付けられれば、市場の誤読リスクは大幅に下がるだろう。
詳細はWhat happened to OpenAI's $20bn? Revenue scare rattles AI tradeを参照していただきたい。




