10月16日、Crunchbaseが「Asia's Startup Funding At Near Record High In Q3, Driven By AI」と題した記事を公開した。2026年Q3におけるアジアのスタートアップ資金調達がAI主導で過去最高水準に迫る規模に達したことについて詳しく紹介されている。
Q3のアジア調達総額は385億ドル、AI関連が過半数を占める
Crunchbaseのデータによると、2026年Q3においてアジア全体のスタートアップ資金調達額(シードからグロースステージまで)は385億ドルに達した。これは過去最高を記録したQ2(DeepSeekへの74億ドル単独調達が押し上げた)を下回るものの、過去2番目の高水準である。
このうち、約55%にあたる推定210億ドルがAI関連企業向けの投資だった。グローバルでも同様の傾向が見られており、AI偏重の資金配分はアジアに限った話ではない。
件数(ディール数)は前期からほぼ横ばいだった。資本が特定の有力スタートアップに集中している構造は続いているが、その集中度がさらに深まっているわけではない。
最大の案件:Moonshot AIが35億ドルを調達
Q3を象徴する大型ラウンドは2件あった。
最大案件は北京のファウンデーショナルモデル企業Moonshot AIの35億ドル調達(7月、Series F)。評価額は報道ベースで350億ドルとされる。Moonshot AIは「Kimi」ブランドで知られる中国のLLMスタートアップで、OpenAIやAnthropicに相当するポジションとして注目されている。
2番目に大きいのは、**Kling AIだ。Kling AIは中国の短動画プラットフォームKuaishou(快手)のAIスピンアウトである。Kuaishouは月間アクティブユーザーが7億人を超えるTikTok競合の中国短動画大手で、日本でも「快手」の名で知られる。そのKuaishouから独立したKling AIは生成動画スタートアップとして7月に約30億ドル**を調達し、BaiduとTencentが出資に参加した。Kling AIはSoraの競合として動画生成モデルで存在感を示している。
国別:中国が圧倒的首位、インド・シンガポールは失速
国別の内訳を見ると、中国への集中が際立つ。
| 国・地域 | Q3調達額 | 全体比 |
|---|---|---|
| 中国 | 約270億ドル | 約70% |
| インド | 約29億ドル | 約8% |
| シンガポール | 約25億ドル | 約6% |
インドへの投資は前四半期比で約40%減、シンガポールも同様に約35%減と大幅な落ち込みを見せた。イスラエルも微減となった。Crunchbaseは「この格差が今後も続くか注視する」としている。
ステージ別の動向
レイトステージ(Series C以降)が全体の大半を占め、Q3だけで約200億ドルが集まった。前年同期比ではほぼ2倍の水準だ。Moonshot AIの35億ドルに加え、深圳のロボティクス企業D-Roboticsが9月に4億ドル(Series C)、香港のeコマースフィンテックQupitalがIPOを視野に3億ドル(Series C)を調達している。
アーリーステージ(Series A・B)は前期比28%減の136億ドル。ただし前年同期比では65%増であり、絶対水準は依然高い。
シードは過去数年で最高水準となる49億ドルを記録。前期比22%増、前年同期比2倍超と、AI領域への初期投資の熱量が数字に表れている。
構造的な変化か、一時的な集中か
今回のデータで際立つのは、「件数は横ばいなのに金額は急増している」という点だ。これは多数のスタートアップに薄く広く投資するのではなく、勝ち馬と見なされた少数の企業に巨額が集中していることを示す。
特に中国AIスタートアップへの資本集中は顕著だ。その背景として、DeepSeekショック以降の中国AI産業への再評価が資金の流れを変えている可能性がある。DeepSeekとは、2025年初頭に低コストかつ高性能なLLMを公開し、OpenAIやGoogleの独走に疑問符を突きつけた中国のAI企業だ。その登場は「中国AIは欧米に劣る」という市場の前提を覆し、グローバルの投資家心理に大きな影響を与えた。Moonshot AIをはじめとする中国AIスタートアップへの巨額資金流入は、こうした文脈で読み解く必要がある。
データの集計基準日は2026年10月5日。シードラウンドは報告遅れが発生しやすく、今後数字が上振れる可能性もある。
詳細はAsia's Startup Funding At Near Record High In Q3, Driven By AIを参照していただきたい。




