10月19日、AIや機械学習を扱うテックブログmadrobot.blogが「Four Google AI agents beat Minecraft on their own, dying 605 times along the way」と題した記事を公開した。Google DeepMindのGemini 4 Argonエージェントチームが、Minecraft専用のゲームツールや事前戦略なしにMinecraftを自律クリアした実験のレポートだ。費用は標準価格換算で約1,620ドル、かかった時間は27時間強——この数字を念頭に置いたうえで、何が起きたかを追っていく。
605回死にながら、27時間でエンドラを倒した
Google DeepMindの研究者Maxence Faldor、Satinder Singh、Roberta RaileanuがarXiv上に発表した論文(2026年10月15日付)によると、4体のGemini 4 ArgonエージェントがMinecraftのランダム生成ワールドで素手からスタートし、27時間14分後にエンドラ(Ender Dragon)を撃破した。
なお、Gemini 4 ArgonはGoogleのGemini 4ファミリーに属するモデルで、長い推論・マルチステップタスクを得意とする上位グレードに位置づけられている。読者によっては初耳かもしれないが、本実験の文脈では「コードを書いて実行し、結果を読んでまた書く」というループを長時間自律的に回せる能力が鍵になっている。
その過程で、エージェントたちは2,783本のプログラムを自力で書き、229件のチャットメッセージを交わし、605回死亡した。
研究チームはこれを、「標準的なオープンソースのBotライブラリのみを使用し、事前調査済みワールドなし、人間製のゲームツールなし、戦略の事前提供なしで、AIエージェントがMinecraftをエンドツーエンドで自律完了した初の事例」(研究チームの知る限り)と位置づけている。
「汚いコードを書いて試す」ループで進む
各エージェントは、オープンソースのJavaScript製MinecraftボットライブラリMineflayerを通じてプレイヤーを操作した。ここで「専用ツールなし」という表現について補足しておく。Mineflayerはゲーム専用AIではなく、Minecraftのプロトコルを扱う汎用ボットライブラリだ。過去の先行研究が用いたMinecraft専用のスキルライブラリや事前訓練済みゲームエージェントとは異なり、あくまで「ボットにコマンドを送る手段」として使われているに過ぎない。タイトルでいう「専用ツールなし」とはこの意味であり、Mineflayerの使用と矛盾するわけではない。
画面を「見る」わけではなく、「ここに歩け、近くの鉄鉱石をすべて採掘しろ」といった短いプログラムを書き、実行し、結果を読み取って次のプログラムを書く、というループを繰り返す仕組みだ。
与えられた指示はたった1段落。「サバイバルモードのルール内で、どんな方法でもよいのでエンドラを倒せ。役割分担はプレイヤーたちで決めよ」というものだけだった。チートコマンドは無効、難易度はEasy、実行中に人間は一切触れていない。不正監視のためGeminiエージェントが1体追加で稼働していたが、不正は検出されなかった。
開始から10分で、あるエージェントがチャットで役割分担を提案。チームは自発的に役割を確立し、食料と寝床の確保、ダイヤモンド採掘、道具製作とネザー要塞・強化石の探索をそれぞれ担当した。2時間以内に鉄ツール・ダイヤモンド・ネザーポータルを確保し、13時間33分でエンドへ到達した。
最後の14時間が最大の難所だった
エンドラとの戦いに約14時間を費やした。ドラゴンを倒すには、高い黒曜石の柱の上に乗っている10個のエンドクリスタルを先に破壊する必要があるが、これがエンドラのHPを全回復し続けるためだ。
21時間ほど経過したとき、あるエージェントが重要な発見をする。「クリスタルの破壊にツルハシや木材は不要だ」と気づいたのだ。土ブロックを柱の横に積み上げてクリスタルに近づき、素手で殴って、そのまま掘り降りて戻れる。そのエージェントはチームに向けてこう送信した:
NO PICKAXE OR WOOD NEEDED FOR CRYSTALS!
(ツルハシも木材もクリスタルに不要!)
チームはその後4時間40分かけて10個全てを破壊し、ドラゴンを撃破した。役割分担も、チェストの活用も、倒れた仲間の救助も、エージェントへの指示には一言も書かれていなかった。
費用は約1,620ドル
勝利までに4エージェントが使用したトークン数は、入力トークン約13.5億(91%はキャッシュから)、出力トークン約1,600万、モデル呼び出し回数は約24,000回。Gemini 4 Argonのリスト価格(入力$2/百万トークン、出力$10/百万トークン)ベースでは約520ドル、標準価格では約1,040ドル。Observer(不正監視エージェント)と勝利後1日分も含めた全体では、イントロ価格で約810ドル、標準価格で約1,620ドルと推計される(これはリスト価格からの概算であり、Googleの実コストではない)。
なお、このイントロ価格(入力$2、出力$10)は2026年11月30日までで、その後は倍(入力$4、出力$20)に値上がりする。
先行研究との違い
Minecraftに取り組んだAIは過去にもある。OpenAIのVideo PreTraining(VPT)やDeepMindのDreamerV3は大量のゲームプレイデータで訓練してダイヤモンド到達を目指したもの、VoyagerはMinecraft専用のスキルライブラリに依存していた。コミュニティでも類似の試みがあり、37種類のMinecraft専用ツールを使ったClaude Opus 5の単体エージェントや、Peacefulモードの固定ルートを使ったプランナーによる撃破例が報告されているという。
DeepMindの主張の根拠は「何を与えなかったか」にある。ただし、制限も正直に記載されている。Mineflayerは岩盤の向こうのブロックや生物の位置も含めてエージェントに伝えており、ピクセルから学習するより格段に有利だ。難易度Easyのためモンスターも弱い。GeminiはトレーニングデータにすでにかなりのMinecraft情報を含んでいる。プログラムの22%はエラーで終了しており、今回は単一実行(初回の試み)に過ぎない。参考までに、HowLongToBeatによれば、人間がメインゲームを終わらせる中央値は約45時間だ。
研究チームが示したのは、目的特化型の専用システムを使わずとも、汎用コーディングエージェントが自律的にコードを書き、チームを組み、1日以上かけて複雑なタスクを完了できる、という事実だ。ただし、Easy難易度での1回の実行は実証であり、信頼性の証明ではない。
詳細はFour Google AI agents beat Minecraft on their own, dying 605 times along the wayを参照していただきたい。




