10月18日、MIT Newsが「Giving AI a "crystal clear" view of the materials world」と題した記事を公開した。3D結晶構造とテキストを組み合わせたマルチモーダルAIモデルによって材料科学の研究を加速する新アプローチで、固体電解質候補の探索という実タスクで有効性を実証した。「材料科学版AlphaFold」を目指す野心的な研究だ。
問題の核心:LLMは「構造」を見えていない
材料科学においてAIが活用される場面が増えているが、既存の大規模言語モデル(LLM)には根本的な制約がある。地球上の固体材料の90%以上を占める結晶(crystal)は、原子が3次元的に周期配列した構造を持ち、その情報は専用フォーマットで格納されている。LLMが学習するテキストストリームとは形式が根本的に異なるため、モデルは結晶の幾何学的構造を本質的に「理解」できない。
加えて、実験論文のデータは少数の人気結晶クラスに偏っており、AIの出力がそれらに引きずられるバイアスも問題だった。
MITの解法:コントラスト学習で「視覚」と「言語」をつなぐ
MITの研究チームは、これらの課題に対応するため、結晶材料向けのビジョン言語モデル(VLM)を開発した。VLMとは、画像・3D構造などの視覚的入力とテキストを統合的に扱えるAIモデルの総称で、画像認識分野ではCLIPなどが代表的だ。本研究はその考え方を結晶構造へ応用したものと位置づけられる。詳細はNature Communications掲載の論文で公開されている(DOIは公開情報に基づき確認のうえ参照されたい)。
モデルの訓練にはコントラスト学習(contrastive learning)を採用した。これは、類似した構造とテキスト記述のペア、および非類似のペアをモデルに比較させることで、3D幾何構造とテキスト記述を統一的に理解させる手法だ。論文中では「脳の視覚領域と言語領域を結びつける作業に似ている」と表現されている。
テキスト記述の生成には、既存の論文テキストをそのまま使うのではなく、AIが合成した記述を活用した点が重要だ。合成記述は化学組成・結晶構造だけでなく、物性・プロセス条件・用途まで網羅した統一フォーマットになっている。
訓練データの違いによる性能差を検証したところ、AI生成記述で訓練したモデルは幾何構造とテキストの対応関係を正しく学習できたのに対し、論文テキストのみで訓練したモデルはそれができなかった。
「論文だけに頼るのではなく、ナラティブを合成することにした。ナラティブデータセットを使ったとき、モデルは機能の予測がより得意になった」——Ju Li教授(材料科学・工学科)
実証:固体電解質の候補探索で有効性を確認
研究チームが固体リチウムイオン電池の電解質材料を探索するタスクでモデルを評価したところ、トップに挙がった候補は、独立した研究で有望とされていた材料と一致した。テキストのみのベースラインモデルと比較しても、自然言語クエリに対する材料の特性予測精度で上回った。
論文の共著者であるElsa Olivetti教授は、このアプローチを「3次元構造をより深く見て、構造と物性・プロセスを結びつけるもの」と位置づけ、材料科学における「ステップチェンジ(段階的な飛躍)になり得る」と述べている。
Ju Li教授はこのモデルを、タンパク質構造と機能を結びつけ創薬研究に貢献してきたAlphaFoldになぞらえる。材料科学の分野ではGoogleのDeepMindがGNoME(Graph Networks for Materials Exploration)で新材料の大規模探索を実現しているが、本研究はテキストと3D構造を統合的に扱える点で異なるアプローチを取る。材料科学版AlphaFoldとして機能することへの期待が込められている。
研究体制と今後の展開
本研究はMIT材料科学・工学科のJu Li教授(筆頭研究者)と元MITポスドクのYang Jeong Park(筆頭著者)を中心に、イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校のMayank Kumaran、Chia-Wei Hsu、Elsa Olivetti教授が参加した共同研究だ。資金は米国国防脅威低減局(DTRA)、DARPA、韓国国家研究財団が提供した。研究チームは今後、他の材料科学者がこのモデルを活用して研究を加速できるよう展開していく方針だ。
詳細はGiving AI a "crystal clear" view of the materials worldを参照していただきたい。




