10月18日、madrobot.blogが「Microsoft reportedly walks away from Britain's biggest AI supercomputer, weeks before Nscale's IPO」と題した記事を公開した。MicrosoftがIPO直前のNscaleとの英国AIデータセンター契約を破棄した件について、その経緯と業界への含意を詳しく報じている。
チップが一枚も動く前に、主要顧客が離脱
Microsoftが、英国ロンドン近郊のエセックス州ラウトン(Loughton)に建設予定だったNscaleのAIデータセンターから撤退した。The Telegraphが10月18日に報じた。Microsoftはコメントを出しておらず、撤退理由も公式には明かされていない。
問題はタイミングだ。NscaleはGPUクラスターの構築・貸し出しを手がけるロンドン拠点の企業で、先月ニューヨーク証券取引所(NYSE)への上場を申請し、約336億ドル(約5兆円)の評価額を目指すIPOを控えていた。なお、33.6億ドルは同IPOにおいて調達を目指す資金調達額であり、評価額(336億ドル)とは別の数字である。両数値はいずれもSEC提出のS-1に基づく。その最終盤での主要顧客の離脱となる。
そもそもラウトンとは何だったのか
ラウトンのデータセンターは、2025年9月のドナルド・トランプ大統領の英国国賓訪問時に発表された目玉プロジェクトだ。当初の計画では、50MWからスタートして最大90MWに拡張し、NvidiaのGB300チップを2万3,040基搭載。2027年第1四半期に稼働し、英国全土でMicrosoftのAzureクラウドサービスを支えるとされていた。
ところが計画は狂った。The Telegraphによれば、プロジェクトは繰り返し遅延し、英国の送電網当局はサイトへの電力供給が2030年代にずれ込むと見込んでいる。チップの納入予定より数年後だ。Microsoftが撤退した理由として、これだけで十分な説明になりうる。
Nscaleは「関係は良好」と強調するが
Nscaleはラウトンへのコミットメントを継続すると表明し、Microsoftとの関係は「強固で長期的なものだ」とThe Telegraphにコメントした。電力問題は他の契約に影響しないとも述べている。
実際、Nscaleの事業基盤はラウトン一箇所ではない。SEC(米証券取引委員会)への上場申請書(S-1)によれば、2025年9月から2026年4月にかけてMicrosoftと最大約438億ドル相当(2033年末まで)の契約を締結し、Anthropicとは8月に最大約446億ドル相当の合意に至っている。
なお、契約総額として示される1,034億ドルは、MicrosoftおよびAnthropicとの契約に加え、他顧客分を含めたS-1記載の全契約の合計額である。そのうち**約85%**がMicrosoftとAnthropicの2社によるものであり、顧客集中度の高さを示す数字として引用されている。
ただし、この高い顧客集中度は諸刃の剣でもある。同じS-1の中でNscale自身が「グリッド接続の遅延と容量制約」をリスク要因として列挙し、「一部の顧客契約には、遅延を理由とした解約権が含まれている」とも記載している。
Stargate UKからの離脱はこれで2社目
実はMicrosoftはNscaleの英国計画から離れた最初の大手ではない。S-1によれば、OpenAIが2026年4月にStargate UK(ラウトンと同時発表の広域プラットフォーム)およびスターゲート・ノルウェーから撤退している。その後MicrosoftがノルウェーでOpenAIの空き容量を引き取っており、NscaleのGPUコンピューティング需要自体は維持しているものの、英国エセックスのサイトは不要という判断になった。
大手2社が相次いで同一プラットフォームの特定サイトから離脱するという事態は、個別企業の事情というよりも、英国の電力インフラをめぐる構造的な問題を反映しているとみるべきだろう。
電力がチップと並ぶボトルネックに
この撤退は、AIインフラ投資全体の揺らぎとも連動している。CoreWeaveやOracleの社債利回りが今月過去最高水準に達するなど、新規データセンター建設を支える債務への投資家の懸念が高まっている。電力確保はチップ調達と並ぶ制約要因となっており、Microsoft、Google、Meta、Nvidiaは自社サイトの系統安定化を相次いで表明中だ。さらにMicrosoftは2027年から自社開発のMaia 300チップでAI推論を内製化する方針も打ち出しており、ラウトンのNvidia GB300の存在意義自体が揺らいでいた可能性がある。
英国政府が国賓訪問の目玉として掲げたプロジェクトの基幹顧客が、送電網整備の遅れを理由に去るという構図は、英国のAI政策と電力インフラのギャップを端的に示している。Nscaleは公開市場の投資家に対し、少数の巨大顧客に依存するビジネスモデルを売り込もうとしている段階で、その最大顧客による旗艦サイトの離脱という現実を突きつけられた。IPO後の投資家が最初に問い直すのは、残る契約群における同種の解約条項の有無と、電力調達の見通しであるはずだ。
詳細はMicrosoft reportedly walks away from Britain's biggest AI supercomputer, weeks before Nscale's IPOを参照していただきたい。




