10月20日、Shane Sniderが「Tenstorrent raises $1.5B to challenge Nvidia in AI servers and chip IP」と題した記事を公開した。AIチップメーカーTenstorrentが15億ドルの資金調達を完了し、評価額がわずか10ヶ月で2倍超の62億ドルに急騰した。Nvidiaが支配するAI学習市場に正面からぶつかるのではなく、推論(インファレンス)特化という戦略で独自のポジションを狙う。
評価額62億ドル——10ヶ月で2倍超に
TenstorrentはシリーズEラウンドで15億ドルを調達し、ポストマネー評価額62億ドルに達した。ラウンドはTrace CapitalとInnovation Xが主導し、Fidelity Management & Research Company、T. Rowe Price、SanDisk、ARK Invest、Morgan Stanleyなどが参加した。
参加企業のうちSanDiskはストレージ製品で知られる半導体メーカーだが、AIインフラとストレージの融合が進む中で本分野への関心を高めており、今回の参加はその文脈で位置づけられる。
注目すべきは評価額の急騰ぶりだ。2024年12月の前回ラウンド(調達額6億9300万ドル以上、プレマネー評価額20億ドル)と比較すると、わずか10ヶ月足らずで評価額が2倍超に膨らんだ計算になる。
HyperFrame Researchの半導体・ディープテック担当プラクティスリードであるStephen Sopko氏は、この評価額を次のように分析する。
「62億ドルというポストマネー評価額は野心的だが、今日のAIインフラ市場においては非常識な数字ではない。基礎工事が終わる前に、実績ある建築家にプレミアムを払っているようなものだ」
Sopko氏が言う「実績ある建築家」とは、CEOのJim Kellerのことだ。KellerはAMDのZenアーキテクチャやApple A4/A5チップ、TeslaのAutopilot用カスタムチップなど、業界を代表する複数のプロセッサ設計を手がけてきた人物として知られる。
勝負どころはインファレンス
TenstorrentはNvidiaが支配するAI学習市場に正面から挑むのではなく、インファレンス(学習済みモデルを推論実行するフェーズ)に特化した差別化戦略を軸に据えている。ただし同社がトレーニング用途を完全に否定しているわけではなく、インファレンス領域での優位性を主たる競争軸として打ち出している点に注意したい。
背景として、AI推論需要の急拡大がある。モデルのトレーニングは一度行えば済む一方、推論は製品やサービスが稼働し続ける限り恒常的に発生する。Nvidiaがトレーニング向けGPUで圧倒的なシェアを持つ中、推論特化というポジショニングは「Nvidia依存リスクを避けたい」企業にとって訴求力を持つ。実際、AIインフラコストの大半はモデルの本番運用(推論)フェーズで発生するとされており、この市場は今後さらに拡大するとみられている。
独自のTensix AIコアと**RISC-Vベース**のCPU技術を軸に、個別カードやワークステーションから「Galaxyサーバー」、大規模スーパークラスターまでを製品ラインナップとして揃える。RISC-Vはオープンな命令セットアーキテクチャ(ISA)であり、特定ベンダーへのロックインなく独自拡張が可能な点が特徴だ。ソフトウェアスタックもオープン設計で、ネットワーク接続には標準イーサネットを採用しており、ベンダーロックインを嫌う顧客層を狙う。
実際の商用導入事例として、記事では以下が紹介されている。
- Virtu Financial:取引・オペレーション支援AIエージェント向けにGalaxyサーバーをオンプレミス導入
- Equinix:「Distributed AI Hub」を通じてGalaxyシステムを提供
- Smallest.ai:リアルタイムテキスト読み上げモデル「Lightning V2」をGalaxy Blackholeサーバー上で稼働
- ai&(日本):ソブリンAIインフラとして120台超のGalaxyシステムを導入
パフォーマンス面では、動画生成モデル「LTX-2.3 Fast」のベンチマーク(Artificial Analysis)で、6秒・1080p動画の生成時間がおよそ9〜12秒と、他の掲載プロバイダーより短い結果が示されている。ただし同記事は「結果はプロンプトやテスト条件によって変動するため、AIワークロード全般の普遍的なランキングとして扱うべきではない」と注記している。
チップIPライセンスが第二の柱
Tenstorrentはシステム販売と並行して、自社チップ技術のライセンスビジネスも展開している。TT-Ascalon RISC-V CPUとTensix AIコアをSamsungやLGなどのチップ設計者にライセンス供与しているとされる。
ここで言うチップレットIPとは、チップを機能ブロック単位(チップレット)に分割し、それぞれを個別にライセンスや調達できる設計手法を指す。UCIe(Universal Chiplet Interconnect Express)など業界標準の整備も進んでおり、チップレット設計はSoCコスト削減や設計柔軟性の観点から注目が高まっている。
Galaxyサーバーの商用実績がアーキテクチャの信頼性を示す「デモ」となり、ライセンス事業の拡大を後押しする構図だ。一方でSopko氏は執行リスクを指摘する。
「オープンなソフトウェアスタックは両事業に有利に働くが、フルシステム、チップレットIP、開発者ツールの三正面で同時に高い水準を目指せば、執行リスクは上昇する」
量産スケールが次の関門
15億ドルの調達で資金的な余裕は生まれたが、Sopko氏は冷静に現状を評価する。
「数百台のサーバーを組み上げるのと、予測可能な形で数千台単位のランプアップをこなすのは、まったく別の話だ」
Tenstorrentは現在、Galaxy Blackholeシステムが量産・出荷段階にあると主張している。ただし、大口注文への対応力や複数顧客への継続的な納品実績は、まだ確認されていない。
企業の調達担当者がチェックすべき指標として、Sopko氏は以下を挙げている。
- 本番環境に近い条件での独立したベンチマーク
- 既存顧客からのリピートオーダー
- 対応モデルの幅広さ
- 透明性のある納品コミットメント
- 信頼できる複数年のロードマップ
- IPライセンス顧客が実際に自社設計チップを市場投入しているかどうか
調達した資金を実際のスケーラブルな量産体制と持続可能なビジネスに転換できるか。それがTenstorrentにとって次の試練となる。
詳細はTenstorrent raises $1.5B to challenge Nvidia in AI servers and chip IPを参照していただきたい。




