10月21日、The Decoderが「China protests the US Deepseek ban while blocking ChatGPT, Claude, and Gemini at home」と題した記事を公開した。米国のDeepSeek禁止措置に中国が正式抗議する一方、自国では外国製AIサービスを全面遮断しているという外交的矛盾を詳細に分析した内容で、AI覇権争いの本質的な非対称性を浮き彫りにしている。
米政府がDeepSeekを全面禁止
米国土安全保障省(DHS)は先ごろ、連邦民間機関に対してDeepSeekの製品をITシステムから削除するよう命令を出した。この禁止措置はDeepSeekのオープンソースモデルを使った他ベンダーのソフトウェアにも及び、今後の調達も禁じている。
ワシントンの懸念は、北京がDeepSeekを通じて機密データにアクセスできるという点だ。根拠として挙げられるのは、中国の2017年国家情報法である。同法は企業と市民に対し、国家情報機関の活動を支援する義務を課しており、外国企業が中国製ソフトウェアを導入した際のデータ保護に根本的な疑義を生じさせている。また、中国のAIモデルは特定のトピックを回避し、西側のモデルと比べて国家プロパガンダをより無批判に繰り返す傾向があるとも指摘されている。さらに連邦捜査局(FBI)や米AI企業は、中国企業が米国の主要モデルを組織的に複製していると繰り返し主張している(北京はこれを否定している)。
DHSの命令は政府機関に限定されているが、民間市場への波及効果も大きく、DeepSeek導入を検討していた米企業が相次いで計画を見直す動きも出ている。安全保障上のリスク評価が正式に定まる前から、事実上の市場排除が進行している状況だ。
「自国で遮断しながら抗議」という矛盾
中国外務省はこの禁止措置を「国家安全保障の概念の乱用」と批判し、商務省は禁止解除を求めるとともに「断固たる対抗措置」を取ると表明した。
ただし、この抗議には明確な矛盾がある。
中国自身は外国AIをはるかに厳格に締め出している。ChatGPT・Claude・Geminiはいずれも中国では利用できない。2023年以降、サイバースペース管理局(CAC=Cyberspace Administration of China)はAIサービスの審査を義務化し、政治的なガイドラインへの準拠を求めている。これは政府機関だけでなく市場全体に適用されるルールだ。さらに、国家機関や国有企業は外国のハードウェア・ソフトウェアを段階的に国産品へ置き換える方針が示されており、政府高官のiPhone利用を制限するとの報道もある。
重要なのは、米国のDeepSeek禁止が「政府機関限定」であるのに対し、中国の外国AI遮断は民間市場を含む社会全体に適用されている点だ。規制の対象範囲において、両者の非対称性は明白である。
NYTの報道によれば、北京は先週、米国のアプローチに類似したAI技術に関する独自の輸出規制・ライセンス管理の制度案を提示したという。自国市場を閉じながら、相手国の規制には国際規範を持ち出して反論するという構図は、この制度案の動きとも矛盾しない。
「政治的茶番」では済まない理由
中国の抗議が信頼性に欠けるのは事実だが、The Decoderは単純に切り捨てることを避けている。この抗議には複数の政治的な意図があると分析している。
- 国内企業へのシグナル:国家が自国企業を守るという姿勢を示す
- 他国への働きかけ:「米国はAI産業を独占しようとしている」という言説を広める
- 報復の地ならし:後の対抗措置を「反応」として正当化するための布石を打つ
記事が指摘する本質的な構図は、両陣営ともに国家安全保障を名目として自国市場と技術を守っているという点だ。米国もまた、厳格な半導体輸出規制を通じて安保政策と経済政策を一体化させている。この意味では、中国の抗議を「偽善」と一蹴するだけでは、米中双方が展開するテクノナショナリズムの実態を見誤ることになる。
米中どちらが「開かれた競争」を望んでいるかという問いへの答えは、この非対称な規制の実態が物語っている。そしてその問い自体、すでに両国にとって修辞的なものになりつつあるのかもしれない。
詳細はChina protests the US Deepseek ban while blocking ChatGPT, Claude, and Gemini at homeを参照していただきたい。




