10月23日、Matt Saundersが「Anthropic Adds Opt-In Security Scanning for Critical Open-Source Projects」と題した記事を公開した。AnthropicがOSSメンテナー向けにClaudeを用いた脆弱性スキャンレポートを無償・オプトイン形式で提供するサービス「OSS Scanner」を開始したという内容だ。過去6か月で2万9,000件超の脆弱性候補を検出し、curlの重大脆弱性発見にも貢献したとされる。LLMによるセキュリティ自動化の実用段階への移行を示す取り組みとして注目を集めている。
Claudeが脆弱性を自動検出——OSSメンテナー向け無償スキャンサービス
Anthropicは10月8日、OSSプロジェクト向けのセキュリティスキャンサービス「OSS Scanner」を正式に開始した。登録したプロジェクトのメンテナーには、同社の最新モデルが生成した脆弱性レポートが定期的に送付される。このサービスは完全無償で、オプトイン(任意参加)方式をとっている。
最大の特徴は、レポートが人間によるレビューなしで直接メンテナーに届く点だ。Anthropicの内部チームである「Frontier Red Team」がこのサービスを開発した背景には、スケーラビリティの問題がある。過去6か月間でモデルは2万9,000件以上の脆弱性候補を検出したが、研究者が手動でレビューできたのは約6,000件にとどまった。メンテナーから早期アクセスの要望があったため、未検証のままでも約5,000件のレポートと候補パッチを提供してきた実績がある。
レポートの中身と実績
各レポートには、脆弱性の再現手順(self-contained reproducer)、疑わしい脆弱性の説明、バグを導入したコミットの特定(bisectionによる)、そして候補パッチが含まれる。エージェントがバグの二重確認、パッチ提案、根本原因の分析を自動で行ってからレポートがメールで送信される仕組みだ。
実際の採用実績も公開されている。wolfSSLのTodd Ouskaは「受け取った74件のレポートのうち、無効だったのは2件のみで、5件がCVEになった」と述べており、精度の高さを評価している。PostgreSQLのメンテナーNoah Mischも、一般提供前のリリースに間に合う形で問題を修正できたと評価しており、「そのまま使えるに近い修正が複数のレポートに添付されていた」とコメントしている。
公開情報として注目されるのがcurlの事例だ。curlのDaniel Stenbergは、HTTP/2アップロード処理のuse-after-free脆弱性(CVE-2026-92392)がOSS Scannerによって発見されたとブログで明記している。特定条件下ではリモートコード実行につながる可能性があり、curl 8.23.0で修正された。Stenbergは「悪用成功の難易度が高く、クラッシュが現実的な結果」としてcriticalではなくhighと評価しており、理論上のRCEパスは存在するものの実用上の脅威レベルはそれより低いと見ている。
精度の検証結果についても元記事は言及している。ペネトレーションテスターが48プロジェクトにまたがる97件の検出結果を評価したところ、85件がCVD(協調的脆弱性開示)基準を満たした。11件は実在するが既知の問題と重複、1件は無効だった。ただしこれはサンプルでの結果であり、サービス全体の精度を示すものではない点には留意が必要だ。OpenSSL CorporationのAnton Arapovは「未レビューのレポートでも、人間から受け取るものと同等かそれ以上の質だった」と述べる一方、深刻度の過剰評価やプロジェクトの脅威モデルへの誤解が一部で見られたとAnthropicも認めている。
参加方法と運用ルール
メンテナーはGitHubへのプルリクエストを通じてオプトイン登録する。プルリクエストにはプロジェクト設定ファイルと、ビルド・依存関係をセットアップするDockerfileを含める。スキャンはセットアップ後、インターネットアクセスなしで実行される。オプションとして「脅威モデルファイル」を用意すれば、スコープや深刻度の判断基準、優先する報告フォーマット、パッチへの期待事項を個別に指定できる。
優先度の高いプロジェクトの条件として、インフラやユーザーセキュリティにとって重要な既存プロジェクトであること、および検証済みの高深刻度レポートをすでに処理できる体制があることが挙げられている。登録申請はAnthropicが手動で審査し、申請者がコアメンテナーであること、および報告が権限のあるセキュリティ担当者に届くことを確認する。レポートの受信一時停止や退会も可能で、未検証の報告には自動的な90日開示期限は設定されない。
業界の反応と課題
先行事例としてGoogleのOSS-Fuzz(ファジングによるバグ自動発見)が言及されているが、OSS ScannerはLLMによるコード解析で差別化を図る。Google DeepMindのCodeMenderも類似のアプローチをとるが、CodeMenderはアップストリームへの提出前に人間レビューを残しており、この点でOSS Scannerとは設計思想が異なる。
LinkedInでは実務的な懸念も上がっている。アプリケーションセキュリティベンダーEndor LabsのCEO、Varun Badhwarは「アップストリームのパッチがあっても、3メジャーバージョン古い環境で動かしている企業には意味がない」と指摘し、脆弱なコードが実際に到達可能かどうかの確認と、既存アプリを壊さずにパッチを当てられるかの評価が企業には必要だと論じている。またDimitrios Thomasは、レポート件数だけでなく「検証精度、メンテナーの作業負荷、発見から修正デプロイまでの時間」を評価指標に含めるべきと提言しており、定量的な評価の難しさを指摘している。OSSエコシステム全体への波及効果を測るには、こうした多面的な指標の整備が今後の課題となりそうだ。
詳細はAnthropic Adds Opt-In Security Scanning for Critical Open-Source Projectsを参照していただきたい。




