10月24日、Efosa Udinmwenが「DHS orders federal agencies to eliminate DeepSeek from their systems」と題した記事を公開した。米国土安全保障省(DHS)が民間連邦機関に対してDeepSeekの即時排除を命じたという内容で、命令から60日以内に適用除外申請が必要、DeepSeekモデルを組み込んだサードパーティ製アプリも対象という広範な適用範囲が実務上の課題として浮上している。なお、元記事のURLには「as unwarranted fear of Chinese LLM looms large(中国LLMへの根拠なき恐怖が広がる中)」という記者の論評的フレーズが含まれており、当局の判断に懐疑的な視点も存在することはあらかじめ断っておく。
DHSがDeepSeek排除命令を発令
国土安全保障省(DHS)は、米国の民間連邦機関に対し、中国のAI企業DeepSeekのソフトウェアおよび関連サービスをすべての政府システムから即時削除するよう指示した。
この命令はDHS長官のMarkwayne Mullinが承認したもので、テクノロジーのサプライチェーンリスクを評価する連邦調達安全保障評議会(Federal Acquisition Security Council)の勧告を受けたものだ。法的根拠は2018年連邦調達サプライチェーン安全保障法(Federal Acquisition Supply Chain Security Act of 2018)である。
※編集部の考察:元記事ではMarkwayne Mullinが「DHS長官」として記載されているが、同氏はオクラホマ州選出の上院議員として広く知られている。DHS長官就任の経緯については元記事の記述に基づいており、読者は最新の公式情報も併せて確認されたい。
排除の対象となるのはDeepSeek製品そのものに限らず、DeepSeekのモデルを組み込んだサードパーティ製アプリケーションも含まれる。各省庁は、承認済み購入カタログ、サプライヤー在庫、連邦調達に使用されるオンライン調達プラットフォームからも、対象アプリケーションを取り下げなければならない。
なお、軍および情報機関は対象外だ。これらの機関は別の調達権限のもとで運営されているためである。また、個人所有のコンピュータや個人によるインストールについては、今回の指令の適用範囲外となっている。
なぜDeepSeekが危険とみなされるのか
当局が挙げた懸念は複数ある。
中国の法律の問題が核心にある。中国の法律は国家情報機関が企業に情報提供を求めることを認めており、DeepSeekを通じて処理されたデータが中国政府にアクセスされる可能性がある、と当局は指摘する。
加えて、DeepSeekのホスティングサービスに関してアカウント登録情報の収集、ユーザー監視、デバイスフィンガープリンティング(ブラウザやデバイスの特性を組み合わせてユーザーを識別する手法)に関するプライバシー上の懸念も挙げられた。
さらに実務上のリスクとして、会話型AIシステムは送信されたプロンプトを処理する性質上、職員が通常のやり取りの中で機密情報を意図せず漏洩するおそれがあると当局は警告している。そうした情報が、米国市民や連邦業務に関する情報収集活動に利用される可能性があるという。
技術的な側面でも、セキュリティ評価機関のNowSecureがDeepSeekのiOSアプリに深刻な脆弱性を発見しており、これも今回の判断材料となった。
ただし、発令された指令は「すべてのDeepSeek導入事例が実際に機密情報を送信した」と断定するものではない点は留意すべきだ。前述のとおり、元記事の記者自身も「根拠なき恐怖」という表現で当局の判断に距離を置いており、リスクの実態については専門家の間でも評価が分かれている。
60日以内に適用除外申請が必要
命令に従えない事情がある機関には例外申請の道が残されている。サイバーセキュリティ・インフラセキュリティ庁(CISA)を通じて書面による適用除外申請を提出し、60日以内にDHS担当官へ届け出なければならない。
申請には以下が必要だ。
- 対象製品の特定
- 政府業務または国家安全保障上の具体的な理由
- セキュリティ上の懸念に対処するための保護措置の提案
排除作業の完了までの間、各機関はネットワーク監視の強化、不審な情報転送の記録、対象システムに関わる異常な活動の調査を求められる。CISAは技術的な実装支援を行い、DHS長官は年に一度この指令を再検討する義務を負う。
本指令はFederal Registerのドケット番号DHS-2026-0628で公示されている。
サードパーティへの適用は実務上の課題も
今回の命令の中で実務的に難しい問題がある。DeepSeekのモデルを独立して運用しているサードパーティの開発者が関わるケースでは、どのソフトウェアが対象に該当するかを特定する作業が困難になるという点だ。オープンソースとして公開されているDeepSeekのモデルは多くの開発者が独自環境で動かしており、そうした実装を行政側が網羅的に把握・管理することへの懸念は残る。
背景:政府によるAI・中国系テック規制の文脈
今回の命令は、米政府が中国系テクノロジー企業に対してとってきた一連の措置の延長線上にある。代表的な先例として、TikTokをめぐる政府端末への利用禁止および立法措置が挙げられる。TikTokの場合は動画プラットフォームとしてのデータ収集が問題視されたが、今回は生成AIの「プロンプト処理」という新たな情報漏洩経路が焦点となっている点で性質が異なる。
また、DeepSeekに対する規制は米国だけの動きではない。イタリアのデータ保護当局(Garante)は2025年初頭にDeepSeekのサービスをブロックし、オーストラリアも政府端末への利用を禁止した。こうした動向は、OECD加盟国を中心にAIガバナンスの枠組み整備が急速に進んでいる流れと連動している。
一方で、DeepSeekは低コスト・高性能として注目を集めたモデルであり、その技術的評価と安全保障上の懸念をどう切り分けるかは、政策的にも技術的にも引き続き議論が続いている。
詳細はDHS orders federal agencies to eliminate DeepSeek from their systemsを参照していただきたい。




