11月7日、startuphub.aiが「Boom will fund jets by selling power to AI」と題した記事を公開した。超音速旅客機メーカーのBoom Supersonicが、航空機用に開発したガスタービンをAIデータセンター向けの発電装置として販売し、その収益で旅客機開発を自己資金化しようとしている。ジェットエンジン技術の転用という発想自体も異色だが、AI電力危機という追い風を逃さずビジネスモデルへと昇華させた点で、スタートアップ戦略としても注目に値する。
ガスタービンをAIデータセンターの電源に転用する
Boom Supersonicの創業者Blake SchollがY Combinatorのセッションで明かした内容が興味深い。同社は超音速旅客機「Overture」向けに4万ポンド推力の自社エンジンを開発しているが、そのエンジン(ガスタービン)を改造した42メガワット仕様の発電ユニットをAIデータセンター向けに販売する計画だ。24ユニットで1ギガワットのデータセンターをカバーできるとSchollは説明している。
なお、本記事タイトルでは便宜上「ガスタービン」で統一しているが、航空用ジェットエンジンもガスタービンの一種であり、同社が発電用途に転用しているのは航空機エンジンと共通の技術基盤を持つガスタービン発電機である。元記事原文では "jet engine" と "gas turbine" が混在しているが、文脈上は同一の技術を指している。
Schollによれば、AIの電力不足をTwitter(現X)で察知したのは2025年3月のことで、2025年末にはこのタービン事業で資金調達に成功した。この売電収益でOverture開発を「自己資金で賄える、しかも余裕がある」とSchollは主張している。早期投資家であるSam Altmanもこのタービンに関心を示しているという。
AIデータセンターの電力需要は世界的に逼迫しており、既存の電力インフラでは追いつかない状況が続いている。IEAの試算でも今後数年でデータセンター向け電力需要が急増すると指摘されており、ガスタービンを用いた分散型発電という発想は、その文脈から生まれた現実的な解の一つといえる。Boomはコロラドにこのタービン専用工場を建設中だ。
Rolls-Royceとの破局が「最高の決断」を生んだ
現在の自社エンジン開発に至った経緯も語られている。Schollは、エンジン開発をRolls-Royceに外注したことを「自分がした最も壊滅的な決断の一つ」と振り返った。
2022年初頭のRolls-Royce取締役会でCEOが解任され、Boomのエンジンの基盤となる次世代プラットフォームが——Boomへの事前通知なしに——廃止された。Boomは2022年8月にRolls-Royceから公式に切られ、2022年末に自社開発戦略を発表した。
ところがこの転換が、「boomless cruise(ソニックブームなしの超音速巡航)」の実現につながったとSchollは主張する。エンジンを自社最適化する過程で、チームが気づく6ヶ月前にその問題が解決されていたという。Boomの実証機XB-1は2025年初頭に超音速飛行を達成した。
外注から内製への転換は痛みを伴う判断だったが、結果としてガスタービン発電事業という副産物まで生み出した。自社エンジン技術を持っていなければ、今回のAIデータセンター向けビジネスそのものが成立しなかったともいえる。
旅客機としてのOverture——快適性へのこだわりと2029年就航への懐疑
旅客体験の面では、Schollがキャビン設計の方針として挙げているのは、単なるスペックの話にとどまらない。超音速旅客機ゆえに機体断面が細くなりがちな制約の中で、快適性をどう確保するかという設計哲学を示している。具体的には以下の三点だ。
- 中央席なし(全席窓側または通路側):狭い機内でも乗客全員がパーソナルスペースを確保できる設計
- 搭乗5分を目標とする迅速な乗降設計:超音速による時間短縮効果を地上でも徹底する思想
- 胴体に内蔵されたWi-Fiアンテナ:空気抵抗を増やす「こぶ」型外付けアンテナを避け、機体性能を損なわない実装
これらは単なる快適性向上策ではなく、「時間を売る」超音速旅客機のビジネス価値を地上から空まで一貫させるという、Overtureのブランド戦略にも直結している。
開発ツール面では、エンジンを中心に機体設計を行い、フルフライトシミュレーションを走らせる自社ソフトウェア「Make Boom」を構築した。これはBoom社内で使われる設計・シミュレーション統合ツールであり、外部向け製品ではない。このツールにより、新しいキャビン設計で失われた1,000マイル分の航続距離(4,000マイル機での話)を回復したという。設計アイデアから高性能タービン部品まで24時間で到達するという目標も、このツールを中核に据えた開発速度の象徴として語られている。
一方で課題も明確だ。Ars Technicaの報道によれば、United Airlines CEOはOvertureが2029年に就航する見通しに懐疑的だとしている。Boomはいまも2029年という目標を掲げており、United・American Airlinesなどが事前発注を入れている状況だが、航空機開発の遅延リスクは業界全体で構造的な問題でもある。
航空機開発の資金をAI向け売電で賄うというビジネスモデルは、ガスタービン設計のタイムラインとデータセンター調達のタイムラインを同時に満たせるかどうかが問われる。二つの全く異なる産業の要求を一つの技術基盤で満たそうとするBoomの賭けは、成功すれば資金調達モデルの教科書的事例になりうる。
詳細はBoom will fund jets by selling power to AIを参照していただきたい。




