6月21日、The Decoderが「AI is inflating student grades, and the effect points to outsourced work, not better learning」と題した記事を公開した。UCバークレーの大規模データ分析によってAIが学生の成績を押し上げているが、それは学習効果の向上ではなく課題の丸投げによるものだという研究結果を紹介している。
50万件の成績データが示す「AIによる成績インフレ」
UCバークレーの研究者Igor Chirikovが公開した論文は、2018年から2025年までの8学期分、319コース・84学部にわたる成績データを分析したものだ。
ChatGPTが登場した2022年11月以降、何が起きたか。A評価の割合が13ポイント上昇し、2022年比で約30%増となった。平均GPAは0.12ポイント上昇し、成績分布も狭まった。A-やB+だった学生がストレートAへと引き上げられる現象が確認された。
各コースの「AI露出度」は、ChatGPT登場前の2022年秋のシラバスにおける課題構成——特にライティングとコーディングの比率——によって計測されている。AIが最も得意とする領域だ。
「宿題の点数」だけが上がり、試験は動かなかった
この研究の核心は、「成績が上がったのは本当に学習効果が上がったからか、それともAIが課題をやっているだけか」という問いへの答えだ。
Chirikovはこれを検証するため、最終成績に占める宿題の割合に注目した。もしAIが学習そのものを改善しているなら、宿題中心のコースでも試験中心のコースでも同様に成績が上がるはずだ。しかし、AIが監督なしの課題を代替しているだけなら、宿題の比重が高いコースにのみ効果が集中するはずだ。
データはまさに後者を示した。宿題の比重が中央値以上のコースでは、A評価が同じAI露出度の低宿題コースに比べて16ポイント追加で上昇した。宿題比重が低いコースでは、効果は小さく統計的に有意でもなかった。
さらに「プラセボテスト」として口頭発表の課題を分析したところ、AIが介入しにくいこの形式では成績に変化がなかった。この結果は、学習向上や学生の選別効果だけでは「説明が困難だ」とChirikovは論文内で述べている。
成績が「シグナル」として機能しなくなる
米国大学における成績インフレ自体は新しい問題ではない。ハーバード大学ではA評価の割合が**2005年の24%から2025年には60.2%**まで上昇している。これまでの原因としては、授業評価制度の甘さ、大学間の競争、機関の採点方針などが指摘されてきた。
だがAIはこれまでとは異なる形で作用する、とChirikovは論じる。従来の成績インフレは「採点段階」で起きていた。AIは学生が課題を作成する段階、つまり教員が目にする前の工程に介入する。
ライティングやコーディングの比重が高いコースの成績がAI生成物を反映するようになれば、企業や大学院の選考判断が歪む可能性がある。さらに、AIが在学中のスキル習得そのものを代替することで、卒業生がAIの得意分野でかえって弱くなるというフィードバックループも懸念されている。
OpenAIのSam Altmanも批判的思考力の低下を危惧
最近のインタビューでOpenAI CEOのSam Altmanは、ChatGPT登場から3年半が経過しても教育システムがほとんど変わっていないことを認めた。「1年ほど不正行為が横行し、その後システムが刷新される」と予想していたが、意味のある変化はどこにも見当たらないと述べ、このままでは批判的思考力が「著しく衰退するリスクがある」と警告した。また、書くことや手でコードを書くことが思考力の形成に果たす役割についても言及しており、それらを学ぶ機会が失われることへの懸念を示している。
対策としての「試験重視」には限界がある
論文は処方箋として、試験形式の見直しを提案している。ただし、すべてを監督付き試験に移行するのは現実的でないし、十分でもない。より実効性が高いのは、AIの利用を制限するか、あるいは意図的に組み込む形で課題を設計することだ。たとえば作業プロセスの記録や、理解を確認するためのフォローアップ質問などが例として挙げられている。
なお、ノルウェーでは最近、初等教育でのAIツールをほぼ禁止し、中等教育でも利用を制限する措置を取った。Jonas Gahr Støre首相は、AIの無批判な利用が学生に重要な学習ステップを飛ばすよう誘引していると述べている。
詳細はAI is inflating student grades, and the effect points to outsourced work, not better learningを参照していただきたい。




