6月22日、CSO Onlineが「Why Southeast Asia CISOs Need Zero Trust as Their AI Control Plane」と題した記事を公開した。東南アジアのCISOを主な対象として書かれた記事だが、AIエージェント管理・データ越境規制・サプライチェーンセキュリティという課題は日本企業のセキュリティ担当者にも直結するテーマだ。分散した労働力と広範なパートナーネットワーク、そして各国で加速する個人情報・データ保護規制への対応という文脈は、日本のエンタープライズ環境とも重なる部分が大きい。
AIエージェントは「ユーザー」ではなく「アイデンティティ」として扱え
2026年6月16〜17日にウィーンで開催されたZenith Live 2026で、Zscalerが提示した核心はシンプルだ。AIエージェントはすでに組織の中で動く「デジタルワーカー」であり、従来のユーザーやワークロードと同じ脅威モデルで扱うことはできない。
記事が特に強調するのは、AIエージェントをアイデンティティとして明示的に定義し直すという発想の転換だ。エージェントが何にアクセスできるか、どんな操作が許可されているか、どう監視するか——これらを、特権を持つ人間のアカウントや重要アプリケーションと同じ水準で分類・管理することを求めている。
Zscalerが提示するアーキテクチャの中で、最も実務的に刺さるのがAI Broker(エージェントレジストリ付き)だ。AIエージェントがデータ、アプリケーション、他のエージェントと通信する経路を一元的にガバナンスし、プロンプトとレスポンスをリアルタイムでインスペクション(検査)しながら、最小権限アクセスを強制する。複数の法域にまたがる厳格なデータ取り扱い規制が求められる業種では、このレイヤーは不可欠になる。
エンドポイントのAIツール野放し問題
もう一つ現実的な問題として挙げられているのが、エンドポイント上のリスキーなAIツールの拡散だ。ブラウザ拡張機能やプラグインを含むローカルAIツールが、分散した従業員や外部請負業者のエコシステム全体に広がっている。
ZscalerのEndpoint AI Securityは、こうした管理外のAIツールを可視化する。東南アジアのように、分散した労働力と広範な請負業者ネットワークが一般的な市場では、エンドポイントの管理が手薄になりやすく、このリスクは特に深刻だ。
さらにAI Access GraphとAI Protectにより、SaaS・パブリッククラウド・オンプレミスにわたるAIアセット、モデル利用状況、データフローをマッピングできる。250以上のGenAIアプリに対してレッドチーミング(擬似攻撃テスト)、プロンプトハードニング、ガードレールが提供されている。
データ主権とクロスボーダー接続の設計
東南アジア固有の文脈として記事が重視するのが、データ越境とサプライチェーンの問題だ。
ZscalerのZero Trust B2B Exchangeは、サイト間VPNやMPLSリンクをポリシーベースのアプリケーションアクセスに置き換える。パートナー、アウトソーサー、地域子会社が同一ネットワーク上に存在しない設計で、データやワークフローが市場間を移動する際も境界を保つ。
また、ログと運用のデータローカライゼーション(データの地理的保管要件)を厳密に設計し、外部からの「キルスイッチ」を持たないリージョナルデータセンター構成を採用している。これはEUのGDPRや各国のデータ規制要件を強く意識した設計で、現在東南アジアでも同様の規制強化が進んでいる。
実際の導入事例として、AkzoNobel(オランダ系塗料大手)とSiemens Healthineers(医療機器)のケースが紹介されている。インターネットから発見不可能な「ダークブランチ」構成、ゼロトラストベースのB2B接続、そしてAI利用を禁止するのではなく積極的にガイドするという方針が共通している。
東南アジアCISOへの3つの即時優先事項
記事は、今すぐ動くべきアクションを3点に整理している。
1. 脅威モデルをエージェント中心に再定義する
AIエージェントを「アイデンティティ」として脅威モデルとコントロールフレームワークに明示的に組み込む。特権アカウントと同様に、エージェントのクリティカリティと「爆発半径(侵害時の影響範囲)」で分類する。
2. 脆弱性の追跡より横移動の排除を先行させる
すべてのパッチを当てることは不可能という前提で動く。ブランチ、工場、マルチクラウドワークロードにわたる「発見可能性」と横移動を先に潰す。ゼロトラストセグメンテーションにより、侵害されたエージェントやエンドポイントはポリシーで明示的に許可された範囲しか見えない・触れない設計にする。
3. AIガードレールを規制当局向けのエビデンスとして運用する
AI Broker、GenAIアプリへのガードレール、アクセスグラフによるデータリネージ(データの来歴追跡)、エンドポイントのAIツール可視化を実装する。越境・パートナー経由・規制対象データセットにわたるAIアクセスのガバナンスを、ログ・ポリシー・リネージとして証明できる状態を整える。
ゼロトラストを「セキュリティのサイドプロジェクト」ではなくAIの運用モデルそのものとして位置づける——記事の主張はそこに収束する。新たに展開するAIエージェントは、コンプライアンス上の立場とアタックサーフェス(攻撃対象領域)の両方に加わることを前提に設計すべきだ。
詳細はWhy Southeast Asia CISOs Need Zero Trust as Their AI Control Planeを参照していただきたい。




