6月24日、The Decoderが「OpenAI's deployment chief on Codex growth, falling AI prices, and the ROI question」と題した記事を公開した。この記事では、OpenAIの展開子会社「DeployCo」でdeployment chiefを務めるArnaud Fournierが、Codexの急成長・AI価格下落・企業AI導入のROI問題について語ったインタビューを詳しく紹介している。
DeployCo(デプロイコ)とは何か
OpenAIが2025年5月に公表した子会社DeployCoは、大企業の内部にAIを深く組み込むことを専門とする組織だ。19のプライベートエクイティ・ファームと大手SIer・コンサルティング会社が出資に参加している。
Fournierは2年前にOpenAIの「Forward Deployed Engineering(FDE)」チームを共同創設した人物で、現在はDeployCo内でdeployment chiefの役割を担っている。FDEとはエンジニアを顧客企業に常駐させ、現場の課題を解決しながらその知見をOpenAIの研究・製品開発にフィードバックする仕組みだ。パリ・ロンドン・ミュンヘンに拠点を持ち、ドイツ企業との共同プロジェクトも進行している。
子会社設立後の最初の買収先はイギリスのコンサルティング会社Tomoroで、約150名のFDEと展開スペシャリストがDeployCo傘下に加わる。
Codexの成長数値が示すもの
インタビューの中で最も具体的な数字が出たのがCodexの利用状況だ。
- 世界週間アクティブユーザー数:400万人超
- 直近3ヶ月の伸び:5倍(月次成長率70%超)
- ドイツの週間アクティブユーザー数:2026年1月比で7倍超
- ドイツはEurope週間アクティブユーザー数で1位、世界トップ5入り、有料サブスクリプションおよびデベロッパー数で世界トップ3
Fournierはこれを欧州市場での規制懸念が実態よりも過大評価されていることの証拠として示した。「現場で毎日見ていることを言えば、規制はもはやほとんどブレーキになっていない」と述べ、フランス・ドイツ・イギリスがOpenAIの売上上位10市場に入ることを明かした。廃棄物分類システムメーカーのStadler(従業員650人超)では、従業員の85%以上が毎日ChatGPTを業務利用しているというケーススタディも紹介された。
「価格は100倍下がった」——ただし最上位モデルは値上がり
エージェント型AIの普及でAPIコストが企業の懸念事項として浮上する中、Fournierは「過去18ヶ月でインテリジェンスのコストは100倍下がった。100%ではなく100倍だ」と主張した。チップの効率化、推論処理の最適化、モデル自体の計算効率改善が積み重なった結果だという。
ただし、The Decoderが指摘したようにGPT-5.5は入力長によって前世代比で49〜92%値上がりしている。これに対してFournierはテスト時コンピューティング(test-time compute)の概念を持ち出した。「複雑な物理問題には数十時間分のコンピューティングが必要になる場合もあるが、単純なタスクは不要だ。同一水準のインテリジェンスに対するコストは劇的に下がっている」という論法だ。加えて、チームの仕事の一部は「すべてのタスクにGPT-5.5の高強度コンピューティングは不要だ」と顧客に説明することだとも述べた。
フィードバックループの実態——BBVA事例
DeployCo(FDE)のアプローチが通常のコンサルと何が違うかを示す具体例として、スペインの大手銀行BBVAの事例が紹介された。
BBVAは当初、信用文書の作成自動化を求めていた。しかしFournierのチームは問題の立て方を変えることを提案した。「年1回のタスクを速くするのではなく、信用リスクを継続的に評価する機能を構築する」という切り口だ。これにより、ウクライナ侵攻や台湾海峡の緊張といった地政学的イベントが発生した際に、銀行はリアルタイムで信用ポートフォリオのエクスポージャーを把握できるようになった。
このBBVA向けソリューションはGPT-5.0から5.5への移行で大幅に改善したという。その裏にあるのがフィードバックループの構造だ。FDEが現場で「文書理解の精度が低い」と気づけば、その情報がOpenAIの研究チームに渡り、データ収集とモデル改善につながる。また、マルチエージェント処理の必要性から生まれたのがOSSリポジトリSwarmで、これが後にAgents SDKへと発展した。
なお、顧客データをモデルのトレーニングに使うかについては「明示的な要求がある場合を除き、顧客データでのトレーニングは行わない。そのケースは研究パートナーシップとして扱われ、両者で厳格な規制審査を経る」と述べた。
ROIに「確かな計算式はない」
企業AI投資の費用対効果について問われたFournierは、「まだ初期段階だ。現在本番稼働しているものの多くは6〜12ヶ月前に始まったばかりで、効果の全体像はタイムラグを伴って計測されるものだ」と認めた。
ROIの測定軸として、従業員生産性と事業下流への影響の2軸を挙げ、農機メーカーのJohn Deereとの連携事例(AIにより農家が農薬使用量を削減)を例示した。財務ROIに加え環境効果もあるという。
ただし「企業がAIプロジェクトの価値を算出するための具体的な計算式」を問われると、Fournierは明確な回答を避けた。最終的なアドバイスとして、「まずCodexを月額$20のPlus/個人向けプランで使い始めてみてください。そうすれば効果はすぐにわかる」と述べた。これは高額な法人契約よりも先に個人レベルで試すことを勧める文脈での発言であり、企業向けCodexライセンスの価格を示すものではない点に注意が必要だ。
三つの未回答
※以下は、The Decoderの記者がインタビュー全体を通じてFournierが正面から答えなかったと指摘した論点をまとめたものだ。
- 課金モデルの持続性 — エージェント型ワークフローのコンピューティング消費量が爆増する中、シート単価モデルが経済的に成立するかどうか
- 開発者エコシステムとの競合 — OpenAI自身がアプリケーション層に進出することで、自社プラットフォームで構築するデベロッパーと競合するという批判への正面回答
- 実証可能なROI — 具体的かつ再現可能なROI算出手法の提示
The Decoderはこの三点が「AI産業全体の経済性を左右する問いと一致している」と指摘している。なおOpenAIとAnthropicがAPI価格引き下げを検討しているという報道があるほか、OpenAI CEOのSam Altmanも「コストは企業にとって大きな問題になっている」と発言している。
詳細はOpenAI's deployment chief on Codex growth, falling AI prices, and the ROI questionを参照していただきたい。




