6月25日、Matt Birchが「AI coding is creating a new generation of makers」と題した記事を公開した。AIコーディングツールの普及が、かつてのGeoCities世代のように「自分で作る」文化を再び呼び起こしつつある——Birchはその現象を、自身の世代的な体験と重ね合わせながら論じている。
「自分専用のソフトを作る」という原点回帰
記事の起点となっているのは、Stratecheryを運営するBen Thompsonが書いた「My Vibe Coding Adventure」という記事だ。Thompsonは自分のために自宅の在庫管理アプリを作った体験を綴った。既存のアプリはシンプルすぎるか複雑すぎるか、あるいはAI機能を過信して精度が低いかのどれかだった。そこで「自分が欲しいものをちょうどよく作る」ためにAIコーディングを使った。
この話が示す核心は、ソフトウェア自作の本質的な魅力、すなわち「必要なものだけを、必要なだけ作れる」という点にある。
Birchはここにfeature bloat(フィーチャーブロート/機能の肥大化)問題を重ねる。パスワード管理ツール「1Password」が最近値上げを発表した際、同社は新機能の追加を価値向上の根拠として示した。しかし多くのユーザーの反応は「その機能、一度も使ってない」だった。ユーザー層が広がれば広がるほど、すべてのユースケースに対応しようとして機能は膨れ上がる。これはAIとは無関係に、商用ソフトウェア開発が常に抱えてきた構造的な問題だ。
GeoCities世代が見た「あの感覚」の復活
記事でBirchが特に力を入れているのが、AIコーディングを「新世代のMaker文化」として捉える視点だ。
Birchは自らをエルダー・ミレニアル世代として位置づけ(※編集部補足:一般的に1980年前後生まれを指す表現)、インターネット黎明期を体験している。当時はApp Storeも「There's an app for that」という発想もなかった。好きなバンドのファンサイトを作りたければ、GeoCitiesでHTMLを自分で書くしかなかった。MySpaceのプロフィールページをカスタマイズするために、CSSを覚えた人も多い。「開発者」でも「オタク」でもない何百万人もの人々が、自発的にコードを書いていた。
それがApp Store以降、変わった。すべてがクローズドになり、設定はサービス提供者が決め、ユーザーは消費するだけになった。
AIコーディングエージェントは、この流れを逆転させつつある。Thompsonが書いたように、「ハッカーやMakerたちに全く新しい道が開かれた」。友人や家族向けに小さなカスタムアプリを作るミニ起業家の世代が生まれようとしている。
「素人コードが量産されている」という懸念にどう向き合うか
Birchはこの現象の問題点も正直に認める。認証、セキュリティ、データハンドリングを理解しない新規開発者が、即座に全世界に公開できるコードを大量にデプロイしている。これは無視できないリスクだ。
ただし彼はそれを「技術の問題」だけに帰着させない。問題の一部は、コードのデプロイを「trivially easy(恐ろしく簡単)」にしてしまったプラットフォーム側にもあると指摘する。膨大な数の新規開発者が同時に市場に入ってきているという、規模の問題でもある。
それでもBirchのトーンは基本的に肯定的だ。
人々がリバースエンジニアリングをしたり、以前なら絶対に作らなかったような奇妙な小さなものを作っているのを見るのは、励みになる。TikTokをスクロールしている代わりに。
この一文に、記事全体の温度感が凝縮されている。
「作れる人」が得をする時代の再来
Birchはさらに、AIツールを最大限に活用できるのはハードウェアを所有しネットワークを自分でコントロールできる人間だという点も論じている。これはAIコーディングの文脈で語られる話であり、「家電のように使うだけ」になっていたコンピューターが、再び自分の手でいじり倒せるものとして機能し始めているという観察だ。Birchにとって、その感覚こそがGeoCities時代の手触りと重なる。
GeoCities時代にHTMLを書き始めた人々が後のWeb開発者になったように、今AIコーディングで初めてコードに触れている人々が次世代の作り手になる可能性を、Birchは静かに指摘している。そして記事の最後でBirchは、「私はただこのムーブメントがどこに向かうのかを見守りたい」と締めくくっている——その抑制されたトーンが、むしろこの現象への確かな期待を伝えている。
詳細はAI coding is creating a new generation of makersを参照していただきたい。




