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Deep Dive

AIに仕事を奪われたハリウッド脚本家たちが、そのAIを訓練する側に回っている — 時給100ドルの「ギグ」が生む皮肉な構図

6月25日、The Hollywood Reporterが「Hollywood Workers Are Training AI Models as Job Prospects Grow Slim」と題した記事を公開した。この記事では、仕事が激減したハリウッドの脚本家・映像制作者たちがAIモデルの訓練データ作成(RLHF)に流れている実態について詳しく紹介されている。

6月25日、The Hollywood Reporterが「Hollywood Workers Are Training AI Models as Job Prospects Grow Slim」と題した記事を公開した。この記事では、仕事が激減したハリウッドの脚本家・映像制作者たちがAIモデルの訓練データ作成(RLHF)に流れている実態について詳しく紹介されている。


AI訓練の仕事で家賃を払うハリウッド労働者たち

2023年、生成AIの脚本・映像制作への無制限利用を懸念した脚本家・俳優たちが歴史的なストライキに踏み切った。WGA(全米脚本家組合)は148日間、SAG-AFTRAは118日間にわたって活動を停止し、生成AIの使用制限と出演者の肖像権保護が主要な争点となった。それから約2年、仕事が干上がった映像制作者の一部が、まさにそのAIを「訓練」する側に回り始めている。

編集者のゲイブ・セナ(UCLA映画学科卒)は、ドキュメンタリー編集やNPO向けの映像制作を主な生業としてきた。しかし2025年夏に仕事の空き期間ができたとき、AIに関わる仕事を試してみることにした。「みんなが恐れているもの、多くの人にとってブラックボックスのようなものだからこそ、背を向けるより飛び込んだ方がいいと思った」と彼は語る。

元HBO・Studio TF1 Americaの開発エグゼクティブ、スティーブン・ウールワースも同様だ。1年半に及ぶ就職活動が実を結ばなかった末、WGAメンバーの知人を通じてMercorからのメールが転送されてきた。「頭を砂に埋めたままでいるか、内側から何が起きているかを見るか。二択だった」と彼は言う。この仕事は「過去1年、屋根を維持してくれた」という。


RLHFとは何か、その実態

**RLHF(Reinforcement Learning from Human Feedback=人間のフィードバックによる強化学習)**は、AIモデルの出力品質を人間の評価によって改善する手法だ。プロセスは大きく3段階に分かれる。

  1. 人間がモデルの出力にスコアをつける(例:悲報に接したキャラクターがジョークを言うのは適切か)
  2. そのデータで「報酬モデル」を訓練する
  3. 報酬モデルを使って元のAIを再訓練し、人間の関与を外す

実際の作業は単調だ。ある脚本家経験者は「高校の標準テストのような環境で、人間の監督者が何ができて何ができないかを言い続ける中、ひとつひとつの出力が画面に流れていく」と表現した。最初は楽しかったが、やがて「苦行のような心理実験」に感じられたという。

「何回機械に『それは間違ってる』と言い続けても正気でいられるか?」(元RLHF作業者)

セナのケースでは、生成AIに与えられたプロンプトとその出力を照合する作業が含まれていたという。具体的な契約先はNDA(秘密保持契約)により非公開だ。


仕事を仲介するMercor、そして報酬の水準

このエコシステムの中心にいるのが**Mercorだ。2023年にThielフェロー(ピーター・タイエル氏の奨学金プログラムの参加者)である3人の中退者が創業。BenchmarkやGeneral Catalystなど複数のVCが支援し、2025年のシリーズCで3億5,000万ドルを調達、評価額は100億ドル**に達した。

報酬水準は従来のデータアノテーター(主に途上国の労働者が低賃金で担ってきた)とは異なる。医師や弁護士、ハリウッドのプロフェッショナルのような「専門家」には時給100ドル以上の案件もある。求人プラットフォームHandshakeでは「クリエイティブライター」が時給最大44ドル、修士号以上の「音楽専門家」は時給最大100ドルと記載されていた。

市場としての規模も急拡大している。Indeed提供のデータによれば、アーツ分野のAI関連求人の割合は2025年5月から2026年4月の間に約5%から約11%へと倍増した。AI求人全体(2.8%→5.5%)を上回るペースだ。


ギルドは身動きが取れない

WGAは難しい立場に置かれている。自分たちが反対してきたAIシステムをメンバーが訓練している——本来ならガイドラインや禁止措置を出しやすいはずだが、「メンバーがスキルを使って金を稼ぐことを止める権限はない」とする声が内部からも出ている。仕事が激減している今、明示的な禁止は現実的でない。一方で止めなければ、さらに仕事が減り、こうしたギグに依存するメンバーが増える——典型的な袋小路だ。

取材に応じたハリウッドの主要組合は「ノーコメント」か無回答だった。

同業者からの声は複雑だ。『ブレイキング・バッド』のヴィンス・ギリガンはメールで「幸運に恵まれてきた自分が、家族を養おうとする人々を批判するつもりはない。自分がその選択を迫られたことがないことを神に感謝している。自分のキャリアは1990年に始まり、2026年ではなかった」とコメントした。

一方、声優が所属する全米声優協会(NAVA)のティム・フリードランダーは長期的なリスクを警告する。NAVAの調査では回答者の約20%がAIによって実際に仕事を失ったと回答している。「4時間で1,200ドルというのは確かに魅力的だ。だがそれがその仕事で稼ぐ最後の4時間かもしれない」と彼は言う。


RLHFはどれほど有効か——エンジニア視点の疑問

RLHFがモデルをどこまで改善できるかは、エンジニアの間でも議論が続く。人間の関与は不可欠とされる一方、弱点もある。「sycophancy(おべっか問題)」——モデルが訓練中は人間の評価者に同調するように見えながら、実際の出力では自分の傾向に戻るという現象——があり、これはむしろモデルを弱体化させる可能性がある。

皮肉な話だが、RLHFの技術的限界が、エンタメ業界における人間の仕事を守る一因になるかもしれない。

詳細はHollywood Workers Are Training AI Models as Job Prospects Grow Slimを参照していただきたい。