6月25日、Maximilian Schreinerが「Google keeps losing top AI researchers to rivals」と題した記事を公開した。GoogleのトップAI研究者たちが競合他社へと相次いで流出・移籍検討している実態と、その構造的背景を詳しく分析した内容だ。
Gemini中核メンバーが次々とAnthropicへ
Bloombergの報道によれば、Jonas AdlerとAlexander Pritzelの2名がAnthropicへの移籍を計画している段階にある。現時点ではあくまで「計画中」であり、正式な移籍確定には至っていない点には注意が必要だ。両名ともGoogleの大規模言語モデル「Gemini」の重要な開発者で、AdlerはAIを活用したコーディング、PritzelはAIシステムのトレーニングをそれぞれ担当していた。
この2名の移籍計画が報じられる直前には、ノーベル賞受賞者のJohn JumperもAnthropicへの移籍を表明している(関連記事)。JumperはGoogleのタンパク質構造予測モデル「AlphaFold」の中心人物として世界的に知られており、2024年のノーベル化学賞受賞につながった業績を持つ人物だ。
さらに、Noam ShazeerはOpenAIへの移籍が報じられている(関連記事)。ShazeerはGoogleに長年在籍し、「Attention Is All You Need」の共著者として現代のLLMの基盤となるTransformerアーキテクチャの確立に貢献した研究者だ。一度Googleを離れてCharacter.AIを共同創業した後、2024年に復帰しGeminiの共同リードを務めていたが、今回OpenAIへと移籍した形となる。GeminiというGoogleの中核プロダクトを支えていたメンバーが、短期間で複数抜けていることになる。
流出の背景:IPO前の株式報酬が引き金か
この一連の離脱・離脱検討はAlphabetの株価を押し下げ、投資家の動揺を招いた。
流出の主因として指摘されているのが、AnthropicとOpenAIが両社ともIPO(新規株式公開)を控えており、魅力的なエクイティ(株式報酬)パッケージを提示できる点だ。上場前の株式は大きなアップサイドを期待できるため、優秀な研究者にとって強力なインセンティブになる。すでに上場済みの公開企業であるGoogleには、同じ条件を再現することが構造上難しい。
データも流出の深刻さを裏付けている。ベンチャーキャピタル・SignalFireの分析によれば、DeepMindのエンジニアがAnthropicへ転職する頻度は、その逆方向の11倍に達している。単なる相互流動ではなく、明確にGoogleから外へという方向性が見て取れる。
Hassabisの反論
Google DeepMindのCEO、Demis Hassabisはカンヌで開催されたイベントでこの懸念に反論し、「GoogleはどこのAIラボよりも層の厚い研究陣を擁している」と述べた。
ただし、JumperやShazeerといった知名度・実績ともに突出した人材の流出が続く中、この発言がどこまで投資家や研究コミュニティを納得させられるかは不透明だ。Hassabis自身もAlphaFoldを中心としたGoogleの研究成果の価値を強調する立場にあるだけに、相次ぐ人材流出との温度差は否めない。
エンジニア組織の視点で見ると
AI業界のトップ研究者争奪戦は今に始まった話ではないが、今回の流出・移籍検討が「Geminiの中核チーム」に集中している点は見逃せない。プロダクトの根幹を担っていた人材が短期間に複数抜けることは、技術的な継続性にも影響しうる。
IPO前の株式報酬という構造的な非対称性がある限り、GoogleがAnthropicやOpenAIと同じ条件で研究者を引き留めることは難しい。Googleが公開企業である以上、上場前企業が持つ「将来の大きなアップサイド」を株式で再現することには本質的な限界があるからだ。
この問題はGoogleだけに限った話ではない。Meta、Microsoft、Amazonといった大手テック企業すべてが、IPO前の高成長スタートアップとの人材争奪戦において同様の構造的不利を抱えている。しかし、GeminiがGoogleのAI戦略の中核プロダクトである以上、そのコアメンバーの流出は他社に比べても象徴的な意味合いが大きい。
今後、AdlerとPritzelの移籍計画が正式に確定するかどうか、またGoogleがこの構造的課題にどう対応するかが注目される。
詳細はGoogle keeps losing top AI researchers to rivalsを参照していただきたい。




