6月27日、NL Timesが「One-third of workers expect AI to make their jobs mentally harder」と題した記事を公開した。オランダのTNO(応用科学研究機構)が約6万人の従業員と6,000社の雇用主を対象に実施した調査で、AIの普及が労働者の精神的負荷を高めるリスクが浮き彫りになったことを紹介している。
「簡単な仕事が消えて、難しい仕事だけが残る」
調査の核心にあるのは、シンプルなメカニズムだ。AIが定型作業を自動化すると、残るのはより複雑なタスクのみになる。従業員・雇用主ともに約3分の1が、AIによって仕事が精神的により負荷の高いものになると予想している。
TNO研究員のWouter van der Torre氏はこう説明する。「簡単なタスクがすべて自動化され、難しいものだけが残れば、仕事はより集約的になり、精神的な負担も増す」。
いわゆる「定型業務偏向型技術変化(routine biased technological change)」に近い現象で、中程度の難易度の仕事が機械に置き換えられ、両端の仕事だけが残る構造だ。ただしこの調査が指摘するのは、複雑な作業への集中という片側のシフトである。
「AIで仕事が変わる」と思っている労働者は意外と少ない
調査結果で目を引くのは、多くの労働者がAIの影響を限定的に見ていることだ。60%以上の従業員が「今後5年間、仕事はほぼ変わらない」と回答しており、この見方は雇用主の半数強にも共有されている。
変化を予想する労働者の中でも、その受け止め方は割れている。
- 約40%が「仕事の楽しさが減る」と予想
- 40%強が「仕事が楽になる」と予想
- 約38%の雇用主が「AIによって生産性が向上する」と予想
van der Torre氏は「専門家はAIによる変化に注目しがちだが、この調査では多くの労働者が異なる見方をしていることがわかる。将来、すべてが変わるわけではない、という視点も重要だ」と述べている。
バーンアウトへの懸念と「監視」の問題
オランダでは職場のメンタルヘルス問題がすでに長期的な課題となっており、燃え尽き症候群(バーンアウト)の訴えは依然として増加傾向にある。今回の調査はその文脈でも読む必要がある。
注目すべき点として、約40%の従業員が「AIによって職場での監視・管理が強化される」と予想していることが挙げられる。調査では、公共インフラの保守作業員がアプリを通じて作業完了を追跡されるケースが例として挙げられている。van der Torre氏は「そうしたシステムは管理の向上につながる一方、監視の強化にもなりうる」と指摘する。
バーンアウトの要因として、仕事上の自律性(autonomy)が重要な役割を果たすことも調査は示している。AIによる監視強化がこの自律性を損なえば、精神的健康への影響は避けられない。特に、定型業務が自動化されて残業務の難易度が上がる一方で、自律性まで低下するという「二重の負荷」が生じるリスクをこの調査は警告している。バーンアウトは個人の問題にとどまらず、組織全体の生産性や離職率にも直結する課題であるだけに、AIの導入設計においてこの観点を軽視すべきではない。
生産性向上は「時間の使い方」次第
今回の調査と並行してTNOが実施した別の研究(6月10日公開)も、重要な知見を加えている。AIは業務プロセスの高速化・簡略化によって効率性は高めるが、それが自動的に生産性向上につながるわけではない、というものだ。生産性の改善は、自動化で生まれた時間をいかに再活用するかにかかっている。
研究者たちは企業に対し、以下を検討するよう促している。
- 従業員が十分な自律性を保てるよう職場設計を見直す
- チャットボット導入によって人間同士の接触が失われていないか確認する
- 自動化で節約された時間の使途を明確にする
- AIシステムの開発・導入段階から従業員を巻き込む
雇用主側はテクノロジーが労働者に与える影響の重要性は認識しているものの、その具体的な影響を十分に把握していないケースが多く、それが職場設計の変化や労働条件への対応を困難にしていると研究者は指摘している。
詳細はOne-third of workers expect AI to make their jobs mentally harderを参照していただきたい。




