6月28日、Exponential ViewのAzeem Akhtar氏が「🔮 Fifty years of Moore's Law wasn't fast enough for AI #580」と題した記事を公開した。AI時代の到来によって50年間続いてきたグローバルコンピュート成長のトレンドラインが2020年以降に劇的に上方乖離している実態を、氏自身が構築したモデルをもとに解説した内容だ。
50年間で2度しか破られなかったトレンドが、いま再び折れた
Akhtar氏はこの記事の公開に合わせて、「The State of the AI Economy」レポートも公開した。AIエコノミーの需要側を解剖した調査レポートとしては、氏の知る限り初めての試みだという。
そのレポートの中で、氏が特に注目するのが「グローバルコンピュートストックの50年成長トレンドが折れた」ことを示すチャートだ。「グローバルコンピュートストック」とは、Akhtar氏が過去5年間にわたって独自に構築・追跡してきたモデルで、世界中に存在するあらゆる計算機——メインフレーム、ミニコンピュータ、PC、ラップトップ、サーバー、スマートフォン、IoTデバイス——の処理能力をFLOP(浮動小数点演算)ベースで合算し、総量として推定したものだ。
このモデルが示す長期トレンドは非常に明確だった。2023年以前、グローバルコンピュートストックは年率約66%の複利成長を維持し続けてきた。ミニコンピュータからPC、PCからスマートフォンという大規模なプラットフォームシフトをまたいでも、この成長率は揺らがなかった。ところが2020年以降、実績値はこのトレンドラインから顕著に上方乖離しはじめている。
トレンドが折れた「2度の転換点」
50年単位の長期トレンドが折れるには、よほどの外力が必要だ。過去にそれが起きたのは2回ある。
1度目は1990年代半ば。 ビジネス界がソローのパラドックス(IT投資が生産性に反映されないという現象)を克服しはじめ、Windows 95とインターネットの普及がコンピューティングの消費者化を加速した時期だ。技術面では、1993年登場のIntel Pentiumが従来のx86チップを大幅に上回る浮動小数点演算能力をもたらした。この時期、コンピュートストックの成長率は年率66%のトレンドラインを一時的に上回った。
しかし2006年頃にはトレンドは長期平均に回帰する。 Dennardスケーリング(電圧・電流の比例縮小によってチップの電力密度を一定に保てるという法則)が破綻し、チップメーカーはマルチコアアーキテクチャへの移行を余儀なくされた。マルチコアはFLOP性能をなめらかにスケールさせることができない。PC市場の成熟、モバイルの台頭(処理能力より省電力を優先する設計)、クラウドによる効率化への傾斜——これらが重なり、コンピュート成長は長期平均へと戻っていった。
2度目が、2020年からのAIアクセラレータの台頭だ。
AI需要が「FLOPファクトリー」を激増させている
現代のAIはFLOP(浮動小数点演算)を中心的な投入資源として動く。そして世界中でFLOPを生産するファクトリー——GPUクラスタをはじめとするAIアクセラレータ——が急速にオンライン化されている。これが2020年以降のトレンドライン上方乖離の主因だ。
では、1990年代の加速が2006年頃に長期平均へ回帰したように、今回も同じ軌跡を描くのか。Akhtar氏の見立ては「現在のペースは数年、場合によっては10年以上維持される可能性がある」というものだ。1990年代の離脱が約10年で収束したのに対し、今回はAIへの需要構造そのものが成長を駆動しており、平均回帰するとしてもそれはまだ先の話だという。
補足:「人間のマネージャー」が減っているという話
記事の末尾では、先週号の内容への補足も触れられている。AI-nativeな企業ではマネージャーの数が少ないという知見に対し、より正確には「人間を管理するマネージャーが少ない」のだという修正が加えられた。AIエージェントチームを指揮する存在として、フロントラインの従業員一人ひとりがマネージャー的役割を担うようになる——という示唆だ。
追悼:Om Malik氏の逝去
記事の冒頭では、テック界に長く関わってきたジャーナリスト・投資家のOm Malik氏が6月25日に逝去したことが記されている。Akhtar氏はMalik氏について「テクノロジーとは人間の営みであり、純粋に工学的なものではないと、誰よりも早く理解していた」と追悼している。本記事の主題——コンピュートの爆発的成長が人間社会に何をもたらすか——を論じるうえで、Malik氏が長年示してきた「技術と人間の関係を問い続ける視点」は通底するものがある。
詳細は🔮 Fifty years of Moore's Law wasn't fast enough for AI #580を参照していただきたい。






