powered by TechFeed
表示モード
Deep Dive

コードを書かなくなったエンジニアは、コードを書けなくなる — AI時代に失われつつある「深く考える仕事」

6月28日、adiamond.meが「Software Engineering in the Age of AI」と題した記事を公開した。米海軍はかつて、すぐには必要でない空母の建造予算を議会に要求した。理由はただひとつ——「今作らなければ、10年後に作り方を忘れる」。この逸話をソフトウェア業界に重ね、AIが当たり前になった時代にエンジニアリングという職業が創造的な仕事から「ボットの管理業務」へと変質しつつある現実を、筆者は率直に問い直している。

6月28日、adiamond.meが「Software Engineering in the Age of AI」と題した記事を公開した。米海軍はかつて、すぐには必要でない空母の建造予算を議会に要求した。理由はただひとつ——「今作らなければ、10年後に作り方を忘れる」。この逸話をソフトウェア業界に重ね、AIが当たり前になった時代にエンジニアリングという職業が創造的な仕事から「ボットの管理業務」へと変質しつつある現実を、筆者は率直に問い直している。


「空母を作り続けなければ、作り方を忘れる」

記事の中で最も鋭い指摘は、冒頭で触れた米海軍の逸話だ。熟練した造船エンジニアや職人が持つ技術は、実際に設計・建造するプロセスを経ることでしか次世代に伝わらない。議会はこれを理解し、予算を承認した。

筆者はこれをソフトウェア業界に重ねる。多くの企業がジュニア開発者を解雇している。AIの方が安いからだ——ただし、ベテランのシニア開発者がいる限りは

だが、ジュニアを育てなければ、次世代のシニアは生まれない。複雑で大規模な問題——AIの「コンテキストウィンドウ」に収まりきらないような、何百万行ものコードベース、各国の法規制、相互に絡み合うシステムの全体像——を把握できる人材が、将来誰もいなくなったとき、誰がボットの出力を検証するのか。

AIはコードの局所的な正しさは判断できる。しかし法的要件の違反・セキュリティの連鎖的リスク・チームが後から追加する予定の機能との競合——こうした「文脈」を持てるのは、長年の経験を積んだシニアだけだ。


AIはコードを書く。では、エンジニアは何をするのか?

筆者はソフトウェアエンジニアとして長年働きながら、小説も執筆するという経歴の持ち主だ。その二刀流の視点から、AI導入前後でエンジニアの仕事がいかに変わったかを率直に語っている。

AI導入前のワークフローは、要件の定義・技術調査・実装・テスト・コードレビューというプロセスで、エンジニア自身が頭をフル回転させて設計・実装していた。現在はこうなっている:

  1. AIにプロンプトを渡して実装させる
  2. 出力されたコードをレビューし、必要に応じて修正を指示する
  3. コードをマージするか、他者にレビューを依頼する

筆者はこの変化を「創造から編集へのシフト」と表現する。コードを書くという行為は、かつてエンジニアが深く没入できる創造的な作業だった。今はAIが生成したコードを査読する作業——いわば「高校生や大学生の書いたレポートを100本採点する週」のような仕事になった、と。


フロー状態の喪失

心理学者ミハイ・チクセントミハイが1990年の著書『Flow: The Psychology of Optimal Experience』(邦訳:フロー体験』)で定義した「フロー状態」——時間を忘れて完全に没入できる最適経験——は、ソフトウェアエンジニアリングがかつて持っていた大きな魅力のひとつだった。

筆者によれば、コーディングとはまさにこのフロー状態に入りやすい作業だ。多くのエンジニアが就業時間外にも自宅でコードを書くのは、会議や割り込みがなく、集中できる環境でこそフローに入れるからだ。

しかしAI時代において、エンジニアの仕事は「反応すること」になった。プルリクエストに応える、Slackに返信する、それと同じ感覚でボットのコード提案を処理する。「私の仕事はリアクションであり、創造ではない」と筆者は言い切る。

そして、より深刻な問題も指摘する:

「何ヶ月もAI生成コードをレビューし続けた結果、自分のスキルが目に見えて落ちた。新しい問題が出てきても、数時間かけてコードを掘り下げる気になれない。Claudeが5分でバグを見つけて修正案を出してくれるのに、なぜ自分がやらなければいけないのか、と思ってしまう」


知識の流通が止まる問題

さらに見逃せない指摘がある。Stack Overflowに誰も回答を書かなくなった、という事実だ。

エンジニアたちは今、疑問をStack Overflowに投稿する代わりにClaudeやChatGPTに聞く。長年にわたって蓄積されてきた公開知識の層が薄くなり、AIがそこから学ぶための素材も減っていく。「ボットは私たちのコード、論文、回答をすべて食べた。今度はそれを私たちに売り返している」と筆者は書く。


プラスチックと海洋汚染のアナロジー

記事の末尾で筆者は、AIが量産するコンテンツをプラスチック製品に喩える。20世紀中盤、プラスチック製造が台頭したとき、木工職人や金属職人は仕事を失った。大衆にとっては「十分に良い」安価なプラスチック製品で十分だった。そして今、それが太平洋ゴミベルト(フランスの3倍の面積)を作り出している。

AIが日々大量生産するデジタルコンテンツは、その「デジタル版プラスチックごみ」だ——という締めくくりは、技術論を超えた問いかけとして読める。


詳細はSoftware Engineering in the Age of AIを参照していただきたい。