6月29日、Euronewsが「The AI boom could trigger the next crash, central banks warn」と題した記事を公開した。「中央銀行の中央銀行」とも呼ばれるBIS(国際決済銀行)が年次経済報告書で公式に警告したのは、AIブームが次の金融危機を引き起こしかねないという構造的リスクだ。問題の核心は技術の価値ではなく、チップメーカーとスタートアップの間で資金が循環し、実態より健全に見える財務諸表を生み出す「循環融資」の広がりにある。
過去のバブルとの類似
BISの報告書は、今日のAIブームを歴史的な文脈に位置づけている。1830年代の運河ブーム、1840年代の英国の鉄道ブーム、1920年代の電化ブーム、そしてドットコムバブルと並べたうえで、「いずれも本物の技術的ブレークスルーに始まり、商業的リターンを超えた資本が流入し、最終的に投資の反転と景気後退で終わった」と分析している。
BIS総裁(※編集部注:元記事に記載の総裁名については、現職の確認が取れなかったため本文では氏名を省略する)は、このメッセージは「緊急性」を持つものであり、調整が痛みを伴う前に政策立案者が行動する必要があると述べた。
「循環融資」が生む不透明な構造
警告の核心となるのが「循環融資(circular financing)」の広がりだ。チップメーカーやクラウド大手がAIスタートアップに出資し、そのスタートアップが自社のチップや計算リソースを購入する契約を結ぶ——資金が投資家の元に「売上」として還流するこの構造は、実態より健全に見える財務諸表を生み出す。
いわゆる「ハイパースケーラー」と呼ばれる大手テック企業5社(Amazon、Microsoft、Google、Meta、Apple等のAIインフラを大規模に構築する企業群)は、2025〜2026年の2年間でAI関連投資に1兆ドル超を投じる見通しとなっている。このペースは各社の利益やフリーキャッシュフローを上回っており、多額の借り入れで賭けを続けている構図だ。
BISは、この競争が「最終的に少数の支配的プレイヤーしか生き残れない」という信念によって駆動されており、リターンが依然として極めて不確実なプロジェクトに資金が流れ込む構造になっていると指摘している。
さらに、資金の多くが銀行よりも規制が緩いヘッジファンドやプライベートクレジット(非銀行系の融資)を通じて流れており、BISのZhang Tao氏(※編集部注:元記事記載の肩書きは原文確認中のため省略)は「AI市場の下落が、従来の銀行危機よりも急速かつ深刻な形で表面化する可能性がある」と指摘している。
データセンターの「隠れたコスト」
金融面の危うさに加え、テック企業の会計処理そのものにも疑問が呈されている。ウォール・ストリート・ジャーナルが指摘するのは減価償却期間の延長だ。データセンター内の高価な設備の耐用年数を長めに設定することで、各年度に計上する減価償却費を圧縮し、利益を実態より良く見せられる。しかし、AIサーバーの心臓部である専用チップの実際の陳腐化速度はそれよりはるかに速い可能性が高く、報告利益と経済的実態の間にギャップが生じている。
物理的なスケールも壮大だ。コロンビア大学の経済学者スティン・ファン・ニューウェルバーグ氏は、今後6年間のデータセンター建設コストが最大8兆ドルに達すると試算している。
コスト負担は企業の財務諸表にとどまらない。AIサーバー向け高付加価値チップの優先供給により、メモリや一般向けストレージが逼迫。ウォール・ストリート・ジャーナルの報道によれば、Appleは先週MacBookやiPadなどの値上げを発表し、「メモリとストレージの需要が異例の急増をしており、これほど急激な部品価格上昇は見たことがない」と説明した。この発表を受けてAppleの株価は約6%下落し、1年以上ぶりの下げ幅を記録している。Microsoft、任天堂、ソニーも同様の値上げに踏み切っている。
電力消費も深刻だ。ゴールドマン・サックスの試算では、データセンターが2030年までに米国の電力需要増加分の約半分を占めるようになり、2026〜2027年にかけて家庭向け電力料金が年約6%上昇すると予測している。
BIS自身も、この建設ラッシュによる電力需要がすでに価格やインフラコストに圧力をかけており、インフレへの波及リスクがあると指摘している。ただし、AIが約束する生産性向上が実現すれば逆にデフレ圧力になりうるとの見方も付け加えている。
何が問題の本質か
BISの警告を一言でまとめるなら、「技術の価値は本物かもしれないが、それに集まった資金の規模と構造が問題だ」ということだ。不透明な資金循環、緩い規制の非銀行チャネル、実態を隠す会計慣行、そして電力・部品コストを通じた実体経済への波及——これらが複合することで、AIバブルが崩壊した際の衝撃が増幅されるリスクをBISは指摘している。
詳細はThe AI boom could trigger the next crash, central banks warnを参照していただきたい。




