7月10日、Maximilian Schreinerが「Bun ditches Zig for Rust with help from Claude Fable 5, writes over a million lines of code in 11 days」と題した記事を公開した。この記事では、JavaScriptランタイム「Bun」がAnthropicの未公開モデル「Claude Fable 5」を活用し、わずか11日間でZigからRustへの100万行超のコード書き換えを行った事例について詳しく紹介されている。
11日間・64並列・100万行超——AIコーディングの規模感が桁違いだった
Bunの開発者Jarred Sumnerは、Anthropicの未リリース・未正式発表モデル「Claude Fable 5」(元記事の表記に基づく。正式なモデル名や位置づけはAnthropicから公式には公表されていない)を使い、64のClaudeインスタンスを11日間並列稼働させることで、BunのコードベースをZigからRustへ大規模に書き換えた。生成されたコードは100万行超。人間のチームが同じ作業をすれば、約1年かかっていたとSumnerは述べている。
APIの利用料金は約16万5,000ドル(元記事公開時点のレートに基づく概算で約2,500万円)に上ったが、Sumnerがその費用を気にする必要はなかった。BunとそのチームはAnthropicに買収されていたからだ(元記事によれば買収は2025年12月とされている。参照: Anthropic brings Bun in-house)。
なぜZigを捨てたのか
移行の動機は明快だ。ZigはBunの初期実装言語として採用されていたが、メモリエラーとクラッシュが繰り返し発生し、根本的な修正が困難だった。Rustはコンパイラがこうしたバグをコンパイル時に検出する設計になっており、信頼性の観点から移行を決断したとSumnerは説明している。
ZigはC言語に近い低レベル制御を持ちながらも、Rustの借用チェッカー(borrow checker)のようなメモリ安全性を強制する仕組みを持たない。そのため、メモリ安全性はプログラマの裁量に委ねられる部分が大きく、大規模プロジェクトでは管理が難しくなりやすい。Rustはこの種の問題をコンパイル時に原則として排除できる点が強みだ。
なお、システムプログラミング言語のメモリ安全性をめぐる議論は業界全体で活発化しており、米国家安全保障局(NSA)が2022年にRustなどのメモリ安全言語への移行を推奨するガイダンスを公表したことも、Rustへの注目度を高める一因となっている。ZigからRustへの移行という今回の判断は、こうした業界トレンドとも軌を一にするものだ。
書き換えの成果——Bun v1.4.0(カナリアリリース)
書き換えの結果として公開されたBun v1.4.0は、現時点ではカナリアリリース(先行テスト版)として提供されている段階だ。安定版への昇格には今後の検証が必要であり、「Rustへの移行完了」という表現はこの段階では暫定的なものとして捉えるべきだろう。主な成果は以下のとおりだ。
- バグ128件を修正
- 実行速度が約2〜5%向上
速度向上幅は控えめに見えるが、Zigのコードベースに蓄積していた不安定要因を一掃しつつ、パフォーマンスも改善したことの意義は小さくない。
AIコーディングの現実コスト
この事例が示すのは、AIによる大規模コード生成が「できる」という話だけではない。16万5,000ドルという実費がかかっており、Anthropicに買収されていなければ現実的ではなかったプロジェクトでもある。
一方で、人月換算で1年分の作業を11日に圧縮したという数字は、AI支援開発の加速度を具体的に示している。単なるコード補完ではなく、数十の並列エージェントが協調して大規模リファクタリングをこなす段階に入ったことを、この事例は実証している。コストと組織的な前提条件の両面で、現時点では誰でも再現できる手法ではないが、AIエージェントが本格的なコードベース移行に投入された先行事例として業界的な参照価値は高い。
詳細はBun ditches Zig for Rust with help from Claude Fable 5, writes over a million lines of code in 11 daysを参照していただきたい。




