7月11日、PYMNTSが「Trump AI Restrictions Spur Shift Toward Open-Source Models」と題した記事を公開した。トランプ政権によるAIアクセス規制が企業のオープンソースモデルへのシフトを加速させている実態を、市場データと当事者の証言をもとに伝えている。
規制が引き金を引いた「脱クローズドAI」の動き
AIモデルの選定は、これまで主に性能とコストで決まっていた。だが今、アクセスの継続性という新たなリスク要因が企業の意思決定に割り込んでいる。
トランプ政権は2025年6月初頭、Anthropicに対して米国外ユーザーへのフラッグシップモデル(本記事では元記事の表記に従い「Mythos 5」および「Fable 5」と記載している)へのアクセス遮断を命じた。Anthropicはユーザーの資格審査の複雑さに対処しきれず、モデルを全面的に非公開とした。その直後、OpenAIも最新モデル(同じく元記事の表記に従い「GPT-5.6」と記載)について、連邦政府が顧客を承認する仕組みに同意している。
こうした政策的背景には、2025年以降に強化されたAI関連の輸出管理強化の流れがある。バイデン政権末期に策定されたBIS(商務省産業安全保障局)によるAI拡散規制の枠組みを引き継ぎ、トランプ政権はとりわけ高性能モデルへの海外アクセスに対してより積極的な制限姿勢を取っている。この方針転換が、クローズドモデルに依存してきた企業に「政策リスク」という新たなコスト要因を突きつけた格好だ。
これらの規制は、クローズドモデルをプロダクトに組み込んでいたスタートアップに直撃した。Barndoor AIのCEO Oren Michelsは、「単一のプロプライエタリモデルだけに依存した企業は、アクセスが突然遮断されると信頼性が大きく損なわれる」と述べた(発言の引用経路は元記事の記載に従う)。AIミュージックスタートアップStem LabsのHaitham Mengadも、Fableモデルの撤退を「自社にとって決定的な出来事だった」と振り返り、オープンソース代替の検討を本格化させたと述べている。
オープンソースモデルの台頭:コスト削減+リスクヘッジ
オープンウェイト(open-weight)モデルとは、モデルの重みを公開し、組織が自社インフラ上でダウンロード・実行・ファインチューニングできる形式のモデルだ。開発元や政府がアクセスを制限しようとしても、一度公開されたモデルを回収することは事実上難しい。この特性が、今回の規制環境において企業にとっての「保険」として機能している。
注目されているのが、中国のZhipu AI(元記事では「Z.ai」と略記されており、以下同表記に従う)が公開したGLM-5.2だ(なお、本モデル名も元記事の表記に基づく)。複数の業界ベンチマークでAnthropicやOpenAIの主力モデルに迫る性能を持つとされるオープンモデルで、AIアナリストのAndrew Curranは「ダウンロードして企業サーバー上に展開できるため、コスト削減と商用フロンティアAIへの依存度低下を同時に実現できる」と評価する。
市場の変化はデータにも如実に表れている。複数のAIモデルにリクエストを振り分けるプラットフォームOpenRouter上では、Google・Anthropic・OpenAIの3社合計のトークンシェアが1月の55%から6月には33%へと急落した。タイトルで「OpenAI・Anthropic」と記したのは規制の直接の当事者として両社を前面に出したためだが、シェアの数値はGoogleを含む3社合計の値であることに留意していただきたい。同時期に中国のオープンソースモデルDeepSeekが同プラットフォームの利用シェア首位に立ち、その差は大きい。
「中国製AIへの警戒感」も変化しつつある
当初、セキュリティ上の懸念から中国製AIの採用を避ける企業は多かった。しかし記事では、オープンモデルをローカル環境で動かす場合はデータが外部に出ないため、その懸念が薄れてきているとする開発者の声を複数紹介している。クラウドAPIを介さず自社サーバーで完結するアーキテクチャは、データ主権の観点でも評価されている。
オープンソースも「安全地帯」とは限らない
ただし、楽観論には一つの留保がつく。ペンシルバニア大学のEthan Mollick教授は、フロンティアレベルのモデルが安全保障上のリスクとみなされるようになれば、米国以外の政府も高性能モデルの公開を制限しにかかる可能性があると指摘している。
「Mythosレベルのモデルが危険とみなされるなら、中国もそれをオープンにしたくないはずだ」
— Ethan Mollick(ペンシルバニア大学教授)
規制の矛先がオープンソースモデルにも向かうシナリオは、現時点では仮説の域を出ない。だが今回の一連の出来事が示したのは、「政策リスク」がAIスタックの設計判断に直接影響を与えるという現実であり、モデル選定において性能・コスト・アクセス継続性の三軸を同時に評価する時代が到来しつつあることを示唆している。
詳細はTrump AI Restrictions Spur Shift Toward Open-Source Modelsを参照していただきたい。




