powered by TechFeed
表示モード
Deep Dive

静止画には何も映らない——動画の中にしか存在しない「Ghost Font」がAIの視覚認識を19分間かわした仕組み

7月11日、MixFontが「Ghost Font: The Anti-AI Font Only Humans Can Read」と題した記事を公開した。動画として再生したときだけ人間の目にテキストが浮かび上がる「Ghost Font」の仕組みと、最新AIモデルへの実験結果を詳しく紹介したものだ。AIによる画像認識・テキスト抽出の精度が急速に向上する中、「AIに読まれたくない情報をどう守るか」は研究者やデザイナーにとって切実な問いになりつつある。Ghost FontはCAPTCHA破りや大規模スクレイピングへの対抗策として、「そもそも静止画に文字情報を持たせない」という発想で設計された実験的フォントだ。「動きの中にだけ存在する文字」という発想Ghost Fontの各文字はドットの集合体として構成されており、背景のノイズドットと見た目がまったく同じだ。静止した1フレームでは文字とノイズを区別できない。動画として再生すると、ドットの動きのパターンだけが文字の輪郭を形成する。これは人間の視覚が持つ動体知覚の特性を利用している。静止物と動体を瞬時に区別してパターンを補完する能力は人間の視覚系に...

7月11日、MixFontが「Ghost Font: The Anti-AI Font Only Humans Can Read」と題した記事を公開した。動画として再生したときだけ人間の目にテキストが浮かび上がる「Ghost Font」の仕組みと、最新AIモデルへの実験結果を詳しく紹介したものだ。

AIによる画像認識・テキスト抽出の精度が急速に向上する中、「AIに読まれたくない情報をどう守るか」は研究者やデザイナーにとって切実な問いになりつつある。Ghost FontはCAPTCHA破りや大規模スクレイピングへの対抗策として、「そもそも静止画に文字情報を持たせない」という発想で設計された実験的フォントだ。

「動きの中にだけ存在する文字」という発想

Ghost Fontの各文字はドットの集合体として構成されており、背景のノイズドットと見た目がまったく同じだ。静止した1フレームでは文字とノイズを区別できない。動画として再生すると、ドットの動きのパターンだけが文字の輪郭を形成する。

これは人間の視覚が持つ動体知覚の特性を利用している。静止物と動体を瞬時に区別してパターンを補完する能力は人間の視覚系に深く組み込まれており、ベータ運動(断続的な静止画像を脳が連続した動きとして知覚する現象)と同様の原理が働いている。

一方、現在の主要なマルチモーダルAIは動画を「フレームの連続」として処理する。OpenAIやAnthropicの公開仕様でも、動画入力は内部的に静止フレームのサンプリングに変換されることが確認されており、フレーム間の「動き」そのものは失われる。これがGhost FontのAI耐性の根拠だ。

ChatGPTは19分かけて、存在しない文章を出力した

記事の著者Ericが行った実験では、Ghost Fontで書かれた動画をChatGPT(元記事記載のモデル名: 5.5 Pro)に渡したところ、19分間の解析の末にハルシネーション(幻覚)として架空のメッセージを出力した。AIは読めなかっただけでなく、「読んだふり」をしてしまったのだ。

比較として行われたZXXフォントの実験も興味深い。ZXXは2013年にデザイナーのSang Munが発表したフォントで、文字にノイズや偽マークを重ねてOCRソフトウェアを欺く設計だった。NSAによる大規模監視(PRISM)への抵抗というコンセプトのもと「監視耐性あり(surveillance-proof)」と評されたフォントだが、現在では同じ画像をAIに渡すと1回のプロンプトで正確に読み取られる。LLMベースのビジョンモデルは、静止画のノイズ程度では止まらない。

Ghost Fontはこの教訓から「静止画に情報を持たせない」設計を採用した。スクリーンショットを撮っても、フレームを抽出しても、そもそも文字情報が存在しないのだから、読みようがない。

ローカル実行エージェントへの対策:デコイメッセージ

動きを隠すだけでは十分でないケースもある。ローカルでコードを実行できるAIエージェントがドットの座標データを数値として解析すれば、動きのパターンから文字を復元できる可能性がある。

Ghost Fontはこれに対してデコイメッセージを仕込む対策を講じている。生成されるすべての動画に偽のメッセージが埋め込まれており、解析を試みたエージェントがデコイを「正解」と誤認して処理を終えるよう設計されている。元記事ではClaude FableやGPT Sol 5.6 Ultraといったモデル(いずれも元記事記載のモデル名)に対しても、この組み合わせが有効に機能したと報告されている。

著者自身が認める限界

Ericはこの実験の限界についても率直だ。

「メッセージを本当に隠したいなら、暗号化や鍵を使うべきだ。特定のパスワードが必要なメッセージはAIには読めない。」

Ghost Fontは堅牢な暗号技術ではなく、「AIの視覚認識の限界を探る実験」と位置づけられている。人間にとっても読みにくいという正直な欠点も認めており、「AIとの差は縮まっている」とも述べている。

今後の可能性:CAPTCHAとAIベンチマーク

Ericが挙げる応用可能性は2つだ。1つ目はCAPTCHAへの応用。現在のCAPTCHAはAIに容易に突破されているが、動きを使ったGhost Fontの手法は自動化ボットへの耐性を高める可能性がある。2つ目はAIビジョン性能のベンチマークとしての活用だ。動画をフレーム分割せずにネイティブ処理できるマルチモーダルモデルが登場したとき、Ghost Fontが読まれる時点がAI視覚認識の一つの指標になりうる。

現時点ではブラウザ上のプロトタイプとして動作しており、入力テキストはサーバーに送信されずローカルで完結する。動画生成コードはオープンソースとして公開予定とのことで、元記事のページから試せる状態になっている。

詳細はGhost Font: The Anti-AI Font Only Humans Can Readを参照していただきたい。