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AIが35年来の数学未解決予想を証明し、誰も予測しなかった第2項まで発見した

7月30日、First Principlesが「AI system 'Theo Conjecture' solves 35-year-old math conjecture, finds a term no one predicted」と題した記事を公開した。n = 10,000まで数値検証が重ねられてきたにもかかわらず、35年間誰も気づかなかった「第2項」をAIシステムが発見した——というのが本件の核心だ。

7月30日、First Principlesが「AI system 'Theo Conjecture' solves 35-year-old math conjecture, finds a term no one predicted」と題した記事を公開した。n = 10,000まで数値検証が重ねられてきたにもかかわらず、35年間誰も気づかなかった「第2項」をAIシステムが発見した——というのが本件の核心だ。


誰も予測できなかった項

証明の結論から先に述べる。Theo-Conjectureが導き出した定理は次の式だ。

R(Gₙ) = c₀ · n/log n + (c₀ − A) · n/log²n + O(n/log³n)

ここで c₀ = ζ(2) − 1 = π²/6 − 1 ≈ 0.6449A ≈ 0.3202 である。

前半の主要項 c₀ · n/log n はグラフ理論家のBill Statonが1980年代に予想していたものだ。後半の 第2項 (c₀ − A) · n/log²n は、今回初めて姿を現した。数値チェックはn = 10,000まで実施されていたが、誰もこの項の存在に気づいていなかった。

比率で表すと、結論はより直感的になる。

π(n) / R(Gₙ) → 1.550546...

「グラフの次数だけを使った高速な計算」が、素数の個数の 固定した割合を捉えていることを意味する。


問題の背景:Graffiti、Erdős、そして「壁に書かれた予想」

この問題の起点は1980年代にある。ヒューストン大学の数学者Siemion Fajtlowiczが構築したプログラム「Graffiti」は、グラフの数値的性質を格納し、性質間の不等式を候補として生成し、数学的に価値のある命題を自動でふるい落とす仕組みを持っていた。生成された予想はPaul Erdős、Fan Chung、László Lovász、Paul Seymourといった数学者たちの関心を集め、数百本の論文に影響を与えた。

Fajtlowiczはかつてこう述べている。

(和訳)「違いはあれど、ErdősとGraffitiには共通点があった。どちらのアイデアも具体例に深く根ざしていた。」
原文:"Whatever the differences, Erdős and Graffiti had one point in common: their ideas were deeply rooted in examples."

1987年、GraffitiはHavel-Hakimi手続きで計算できる値「残差(residue)」R(G) を独立数の下界として導入した。Havel-Hakimi手続きとは、頂点の次数リストを使って繰り返し操作を行い、最終的にゼロを数え上げることで残差を得る操作であり、計算コストは低い。翌1988年にFavaron、Mahéo、Saclé が R(G) ≤ α(G) を証明し、1991年に論文が出版された。

Graffitiはその後、2からnまでの整数を頂点とし、公約数が1より大きい場合に辺を引いた「公約数グラフ」Gₙ に注目した。この問題はGraffitiのオープン問題リスト「Written on the Wall」のConjecture 448として記録されている。

Erdős自身はこのグラフの残差が n/log n 以上の速度で増大することを示し、定数を ζ(2) − 1 と特定した。この値はリーマンゼータ関数のバーゼル問題として知られる ζ(2) = π²/6 ≈ 1.6449 から1を引いたものだ。バーゼル問題はオイラーが1734年に解いた古典的な無限級数の収束問題であり、 ζ(2) が公約数グラフの漸近挙動に自然に現れること自体が、この問題の数論的な深さを示している。そしてStatonは「残差が漸近的に (π²/6 − 1) · n/log n になる」と予想した。だが証明は出なかった。


Theo-Conjecture:失敗を記録し続けるAIシステム

グラフ理論家でFirst PrinciplesのRandy Davilaは、2016年からFajtlowiczのGraffitiを継承した現代版「TxGraffiti」を開発してきた。2025年、Davilaはこの問題を「Theo-Conjecture」に入力した。

Theo-Conjectureはチャットボットでもなく、式を吐き出すだけのツールでもない。LLMがエージェントとして、組み合わせ論的な予想生成エンジンを繰り返し呼び出し、厳密な反例テストを走らせ、数学的記憶(レジストリ)を更新し続けるループ型の発見システムだ。具体的には、①予想の生成、②数値的な反例探索、③反例が見つかれば棄却してレジストリに記録、④記録を踏まえて次の予想を生成——というサイクルを自律的に回し続ける。重要なのは、人間の数学者が承認するまで何も「証明済み」にならないという点である。AIが候補を提示し、人間が数学的に検証・承認する二段構えの構造が、信頼性の担保として機能している。

そして失敗した試みはすべて記録に残り、次の探索に活用される。

最初のアイデアは外れた。平方因子を持たない整数の個数(スクワアフリー数)で残差を説明しようとしたが、大きなnに対して誤差が739にも達し、完全に棄却された。

次に浮上したのがCaro-Wei和だ。これは各頂点について「1/(次数+1)」を合計した量であり、どの頂点が誰とつながっているかは問わず、次数の分布だけから計算できる。この量を使うと、自然に ζ(2) − 1 という定数が現れ、さらに誰も予測していなかった第2項も導出された。

上界を示す段階では、本質的な洞察が必要だった。残差は各頂点の次数の数のみに依存し、具体的な接続先には依存しない。そこで、同じ次数を持つ素数を「クリーク(完全部分グラフ)」にまとめて再配線し、合成数側で次数を調整するという操作が使われた。この再配線後のグラフでは、素数クリーク内から同時に1つしか頂点を選べないため、Statonの予想する上界が成立する。


人間とAIの役割分担

今回の成果で興味深いのは、証明の信頼性の担保構造だ。Theo-Conjectureが提案し、人間の数学者が承認するという二段構えになっている。この構造はGraffitiの時代から引き継がれた哲学でもある——Graffitiが予想を生成し、Erdősをはじめとする数学者たちが検証する、という協働の形が現代のLLMエージェントで再実装されたと見ることができる。

論文はResearchGateで公開されており、結果はErdős-Statonの予想を確認し、さらにその先の第2項を加えた形になっている。Theo-Conjectureのループ構造が「失敗の蓄積」を次の探索に活かすことで、人間の直観だけでは見落とされてきた項を浮かび上がらせた点は、AIを単なる計算補助ではなく数学的発見のパートナーとして位置づける事例として注目に値する。

なお記事中では、FajtlowiczとErdősが共同で取り組んだとされる未公開プレプリントの存在にも言及されているが、「この経緯はプライベートな通信に基づくものであり、LagariasとChungへの独立した確認が必要だ」と明示されている。


詳細はAI system 'Theo Conjecture' solves 35-year-old math conjecture, finds a term no one predictedを参照していただきたい。