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Deep Dive

AIエージェントの「脱線」を止めるため、2000年代のセマンティックウェブ技術が静かに復活している

7月30日、Latent Spaceが「Ontologies Are So Back: Why AI Agents Are Reviving the Semantic Web」と題した記事を公開した。AIエージェントの確率的な挙動を制御する手段として、かつてのセマンティックウェブを支えたオントロジーが再評価されている——その動向を詳しく紹介している。LLM全盛の今、なぜ20年前の技術概念が最前線に戻ってきているのか。その答えは「確率と論理の組み合わせ」という、意外なほどシンプルな問いにある。

7月30日、Latent Spaceが「Ontologies Are So Back: Why AI Agents Are Reviving the Semantic Web」と題した記事を公開した。AIエージェントの確率的な挙動を制御する手段として、かつてのセマンティックウェブを支えたオントロジーが再評価されている——その動向を詳しく紹介している。LLM全盛の今、なぜ20年前の技術概念が最前線に戻ってきているのか。その答えは「確率と論理の組み合わせ」という、意外なほどシンプルな問いにある。


LLMは「確率的」すぎる——そこにオントロジーが刺さる

AIエージェントが実用段階に入るにつれ、エンジニアが直面する課題が明確になってきた。LLM(大規模言語モデル)は確率的な推論を行うため、エージェントループの中で予期しない挙動や「脱線」が起きやすい。

この問題に対する処方箋として注目されているのがオントロジーだ。AI Engineer World's Fair(AIEWF)で行われた講演が多くの視聴を集めているFrank Coyleは、オントロジーをLLMエージェントの制御機構として活用するアーキテクチャを提唱している。元記事では同氏の肩書きについて詳細な言及はないが、GenerativeAIおよびLLMを主題とした講演者として紹介されている。

Coyleはオントロジーを「データをグラフとして表現したもの」と定義した上で、アリストテレスにまで遡る概念であり、AI史を通じて使われてきたと説明している。コンピュータサイエンスの文脈では「クラス、プロパティ、および知識ドメインにおける関係性のデータ構造記述」を指す。

Coyleの主張の核心はシンプルだ。LLMが確率的推論を担い、オントロジーが「論理的なガードレール」として機能する。この組み合わせを彼は「ニューロシンボリックAI」と呼ぶ。ニューラルネットワーク(LLM)とシンボリックAI(ルールベースシステム、知識グラフ)を接続するアプローチであり、ニューロシンボリックAIはディープラーニング以前から研究されてきた考え方でもある。

「仰々しく聞こえるが、要はニューラルネットワークをシンボリックAIに繋いだもの。ルールベースシステムも、我々が構築しているナレッジグラフも、その範疇に入る」 — Frank Coyle

彼が示した具体的なアーキテクチャでは、**OWL(Web Ontology Language)** を使ってLLMのツール実行後に推論を検証するClaudeエージェントループのデモを紹介。「言語は曖昧になりうるが、OWLの公理はマシンが強制するルールだ」というスライドが印象的だ。OWLはW3Cが勧告する標準仕様であり、クラスや個体の関係を論理的に記述し、矛盾検出や推論に使える。

エージェントループの問題として彼が強調したのが、「無限ループを有界なルールセットで囲む」という発想だ。ループはそもそもコンピュータサイエンスで普遍的な概念だが、LLMが絡むと脱線リスクが跳ね上がる。オントロジーベースのリーズナーをループに組み込むことで、LLMを軌道上に保てる。


Webオントロジーの「再利用」が実は効率的

Coyleがエンジニアに向けて特に強調したのが、既存のWebオントロジーをそのまま活用せよという点だ。

Schema.orgFOAFDublin Coreといったオントロジーは、セマンティックウェブ時代(2000年代〜)の産物だが、LLMの学習データに既に含まれている。つまり、ゼロから設計しなくてもプロンプトで呼び出せるRDFS(Resource Description Framework Schema)やOWLといった補完技術も同様だ。

「こういったものはすでに、私たちが日常的にやっていることの多くの土台として存在している。だから、既にあるものを活用しなさい」 — Frank Coyle


Neo4jが示す「薄いエージェント」のアーキテクチャ

グラフデータベースで知られるNeo4jのCEO、Emil Eifremも同イベントで関連するビジョンを発表した。Eifremは3種類のオントロジーを組み合わせてエージェントを大規模運用する「スマートな共有基盤」を提唱している:

  1. ビジネスオントロジー — 組織の主要概念(顧客、製品、プロセスなど)を記述し、エージェントが「何について話しているか」を共通認識で扱えるようにする
  2. テクニカルオントロジー — エンタープライズエコシステム内の全データソースのメタデータを体系化し、エージェントが正しいデータを正しい文脈で参照できるようにする
  3. 実行トレース — エージェントのランタイムシグナルを記録・構造化し、デバッグや監査、挙動の改善ループを可能にする

この3層構造の意義は、各エージェントがデータソースへの接続方法を個別に知る必要がなくなる点にある。オントロジーが共通のセマンティック層として機能するため、個々のエージェントは薄く、シンプルに保てる。

このアーキテクチャが目指すのは、「データソースを手動で配線した重いエージェント」から「オントロジーベースの共有セマンティック層の上で動く薄いエージェント」への移行だ。


メンテナンス問題——セマンティックウェブが失敗した理由は今も残る

オントロジーには根本的な課題がある。メンテナンスコストと鮮度維持だ。1990〜2000年代に描かれたセマンティックウェブのビジョンが普及しなかった主因でもある。

Xではこんな声も上がった:

「オントロジーについて語れるのは40歳以上だけ」 — @lux

この皮肉はある意味正確で、セマンティックウェブを実際に触ったエンジニアは今や中堅以上の世代に限られる。

メンテナンス問題への一つの回答として、Xユーザーの@stretchcloud(Prasenjit Sarkar)は次のように論じている:

「エージェント自身が自分の動作の一部としてオントロジーを管理し、エッジケースに遭遇するたびに定義を更新するようになれば、メンテナンス問題の性質が変わる」 — @stretchcloud

ただしSarkar自身も「それでも難しい問題であることに変わりはない」と付け加えている。


「バイブコーディング」の反動としての規律回帰

記事の背景として興味深いのは、この動きが2025年の「バイブコーディング」トレンドへの揺り戻しとして読めることだ。バイブコーディングとは、LLMに自然言語で指示するだけでコードを生成させ、細部の理解なしにソフトウェアを作り上げる開発スタイルを指す——「雰囲気でコーディングする」というニュアンスが語源だ。LLMで誰でもソフトウェアを作れるという熱狂の後、保守・品質管理の問題が顕在化している。AiewFでも「完全自動化されたソフトウェアファクトリー」に踏み込む発言者は少数にとどまり、ガードレールと人間のループ介在が重要な学びとして共有されたという。

2026年に向け、ソフトウェアエンジニアリングの規律への回帰の一環として、Webオントロジーが復活しつつある。

詳細はOntologies Are So Back: Why AI Agents Are Reviving the Semantic Webを参照していただきたい。