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Deep Dive

AIが「自然界に存在しないウイルス」を設計できる時代に — 研究者の善意だけが歯止めの、生物兵器リスク

8月11日、Scientific Americanが「Scientists are using AI to design new viruses. What could go wrong?」と題した記事を公開した。AIを使って自然界に存在しない新種のウイルスを設計する研究が、規制の整備を追い越して進んでいる現状を詳細に報じている。

8月11日、Scientific Americanが「Scientists are using AI to design new viruses. What could go wrong?」と題した記事を公開した。AIを使って自然界に存在しない新種のウイルスを設計する研究が、規制の整備を追い越して進んでいる現状を詳細に報じている。


AIが「存在しなかったウイルス」を作り出した

研究者たちはAIを用いて、科学的に全く新しいウイルスを実際に生成することに成功した。これは、AIと生命科学の交差点において一線を踏み越えた出来事だ——かつてはウイルスの「設計」は自然の変異か人間の手による遺伝子操作に限られていたが、今やAIが未知の配列を生成できる段階に達したという意味で。

ただし、作られたのはいわゆる「スーパーウイルス」ではない。生成されたのはバクテリオファージ(細菌に感染するウイルス)であり、既存のものと90%以上類似している。危険性は大腸菌(Escherichia coli)に限定されており、植物や動物に感染するウイルスのデータでは学習していないAIモデルによって設計された。

この研究は学術誌『Science』に掲載されたが、実際には2025年9月の時点でbioRxivにプレプリントとして先行公開されていた。使用されたモデルはオープンソースであり、すでに他のタスク向けにファインチューニングされた事例も存在する。


問題の本質:安全対策はすべて「自発的」だった

今回の研究における安全上の配慮は評価に値するが、いずれも法的に義務付けられたものではなく、研究者の自主的な判断によるものだった。

Sentinel Bio(バイオテク分野のセーフガードを研究する非営利団体)のプログラムディレクターであるToby Websterはこう述べる。

「フロンティアは非常に速く動いている。現状は多くの善意の上に成り立っている。要件ではなく、公式なガイダンスもない。」

つまり現時点では、危険な研究を止めるのは法律でも制度でもなく、研究者個人の倫理観だけだ。

Fordham Law SchoolのDoni Bloomfield准教授(バイオセキュリティ専門)は、追加学習によって将来のAIモデルが進化が未到達の全く新しい遺伝子配列を提案できるようになる可能性を指摘する。さらに、AIエージェントが非専門家に生物設計の詳細を指導し、新型生物兵器の製造を可能にするシナリオも排除できないと言う。これは「専門家だけがアクセスできる知識」という従来の安全上の前提が崩れることを意味する。


規制が追いつかない理由

King's College LondonのFilippa Lentzos上級研究員は、実験室の安全性、生物学的研究、遺伝子改変、危険な病原体の取り扱いに関する規制はすでに存在すると説明する。課題は「既存のガバナンスと、デジタルで生物を設計する新たな上流の能力をつなぐこと」だと言う。既存の規制は物理的な実験室を前提に設計されており、AIによるデジタル空間での設計行為を想定していない点に根本的な齟齬がある。

RANDのAllison Berkeは、根本的な知識不足が新規制の整備を難しくしていると指摘する。問題の核心は「AIの能力範囲がどこまで及ぶか」が専門家にも見えていないことだ。

「AIモデルが1918年のパンデミックインフルエンザを再現するためには、インフルエンザウイルスの特定の学習データが必要なのか、それともウイルスゲノムの汎用データセットから外挿できるのか?」

後者であれば、危険なデータへのアクセス制限だけでは防御が成立しなくなる。能力の進化速度についても不透明だ。

「ウイルス設計能力の萌芽が見えたとき、完全な設計能力が6ヶ月後に来るのか、1年後なのか、見当がつかない」(Berke)

この不確実性が規制の設計を困難にしており、米国の立法府は「衝撃的なデモンストレーション」が起きるまで動かないのではないかとの見方もある。


リスクと可能性のトレードオフ

AIによるウイルス設計が有望な面を持つことも事実だ。新種のバクテリオファージは抗生物質耐性菌の標的化に使える可能性があり、新しいウイルスの「外殻(シェル)」は遺伝子治療のデリバリーベクターとして活用できる可能性がある。

リスクと便益のバランスを取る手段として、BloomfieldらはAI学習データへの段階的アクセス制限を提案している。ウイルスの感染力、毒性、免疫回避、治療耐性を高める方法をAIに教えるデータへのアクセスを制限するというもので、エボラウイルスなどの病原体を高セキュリティ研究所に限定する現行のバイオセーフティレベル(BSL)制度に類似した考え方だ。

また、DNA・RNA配列のスクリーニング強化も提案されている。多くの供給業者は危険な配列の注文を自主的にチェックしているが、Microsoftは昨年、AIが生成した毒性タンパク質配列がこの安全措置をすり抜けたことを発見し、ソフトウェアパッチを急いで公開した経緯がある。


「有益な研究への過剰規制」という対立軸

研究がガバナンスを追い越している状況は近い将来も続く可能性が高い。International Biosecurity and Biosafety Initiative for ScienceのTessa Alexanianによれば、科学者も政策立案者も議論の緊迫度は増しているが、一方で「有益な研究にブレーキをかける過剰規制」への懸念も根強い。バクテリオファージ療法や遺伝子治療など、患者に恩恵をもたらす研究が萎縮することへの警戒感は、単なる産業界のロビー活動ではなく、研究コミュニティ内部からも上がっている声だ。

それでも、規制の不在がもたらすリスクの深刻さは変わらない。Websterの言葉は、現状を端的に示している。

「多くの人が責任ある形でこれらの強力なモデルを作り、公開しようとしていることは素晴らしい。しかし、それは義務ではなく、適切に対応するための公式なガイダンスもないことが多い」

詳細はScientists are using AI to design new viruses. What could go wrong?を参照していただきたい。