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OpenAIのAIが数学の未解決問題10件に「実質的な進展」をもたらした — 「大学院生の博士論文レベルの問題」を次々攻略、数学者の一人は自らの存在意義を「自問している」と語る

8月11日、Robert Hartが「The AI takeover of mathematics has begun」と題した記事を公開した。OpenAIのAIが数学の長年の未解決問題に相次いで実質的な進展をもたらしたことを受け、数学者たちが興奮と不安の入り混じった複雑な感情に直面している状況を詳しく報じている。

8月11日、Robert Hartが「The AI takeover of mathematics has begun」と題した記事を公開した。OpenAIのAIが数学の長年の未解決問題に相次いで実質的な進展をもたらしたことを受け、数学者たちが興奮と不安の入り混じった複雑な感情に直面している状況を詳しく報じている。


OpenAIが10個の未解決問題に挑んだ

OpenAIは、内部の未公開モデル「Astra」を使って、数学の長年の未解決問題10件を解いた、または実質的な進展をもたらしたと発表した。対象は純粋数学から応用数学まで幅広い。

  • 球の超高次元パッキング問題:データのエンコード・伝送効率に関係する問題
  • 誤り訂正符号(error-correcting codes)の限界:ノイズ混じりの信号から情報を復元する技術に関わる
  • ネットワーク構造の出現条件:複雑な連結ネットワークに構造パターンが現れる閾値
  • 非ソフィック群(non-sofic groups)の存在証明:有限構造で近似できない無限の代数的構造。存在するかどうかが数十年間未解決だった
  • 量子ゲーム理論および高次元グリッドの探索問題(耐量子暗号に関連)

「この10問のどれか1つを解けば、アカデミアの職が得られるレベルの問題だ」とロンドン数学科学研究所のYang-Hui He氏は語った。韓国で開催されたAIと数学の合同研究会議に参加した同氏によれば、過去半年で「相転移(phase transition)」と呼べるほどの変化が起きているという感覚が研究者の間に広まっているという。

OpenAIは、現在のAPIモデル「Sol」の価格換算でこれらの解を出すコストは約2,000ドルと述べている。もっとも、実際にかかったコストは試行錯誤を含めてはるかに高いとみられるが、詳細は公表していない。


最も物議を醸した問題:非ソフィック群と「上書きされた功績」

今回最も注目を集めたのは、非ソフィック群の存在証明だ。しかし、この成果をめぐってクレジット問題が浮上した。

ケンブリッジ大学の数学者Francesco Fournier-Facio氏は、OpenAIの発表がハンガリーのAlfréd Rényi数学研究所の研究者Gábor Kun氏と、Kun氏がAndreas Thom氏と共著した研究の貢献を過小評価していると指摘した。

OpenAIの当初の発表文は「少なくとも10年間、主要な結果に進展がなかった問題への解」と述べていた。しかし付属の論文にはKun氏の2016年・2019年の研究が基盤として明記されていた。Kun氏はこの表現を「rather sloppy(かなりずさん)」と評した。

発表後にOpenAIから届いたメールには「非ソフィック群の問題が何十年も未解決だったのは事実だが、我々の証明はあなたの研究に決定的に依存している」と書かれていたとKun氏は述べた。その後、OpenAIは発表文を「長年の未解決問題を解決、または実質的な進展をもたらした成果」へと修正したが、訂正注記や説明は掲載されていない。冒頭のタイトルで「解いた」という表現を留保付きにしているのも、この経緯を踏まえてのことだ。

OpenAIのスポークスパーソンLaurance Fauconnet氏はThe Vergeに対し、「それらの貢献が適切に認められるよう、先行研究をより正確に反映した表現に更新した」と述べた。


数学者たちが感じる構造的な不安

オックスフォード大学でフィールズ賞を受賞したJames Maynard教授は、AIの急速な進展を受けて「ソウルサーチング(自問自答)」をしてきたと語る。あくまで同氏個人の率直な心境の吐露であり、数学者全体が存在意義を喪失しつつあることを意味するわけではないが、フィールズ賞受賞者の発言としてその重みは無視できない。Maynard氏が懸念するのは、AIが今まさに解き始めている問題が、大学院生が博士論文で取り組むような問題と重なっていることだ。

セント・アンドリュース大学のColva Roney-Dougal教授は「大学が我々の定理にこれほど費用を払い続けるかどうか、もはや明確ではない」と語る。数学は研究費が少なくて済む分野で、ホワイトボードさえあれば研究できる。それゆえ、たとえ数千ドルのAPIコストでも、小規模・低予算の機関では払えない可能性がある。

また、OpenAIやAnthropicのような企業のモデルはプロプライエタリ(独自仕様)であり、アクセスは限定的だ。Roney-Dougal氏とMaynard氏はともに、オープンウェイトモデルがいずれそのギャップを埋めてほしいと述べた。

2026年6月には数学者らがライデン宣言(Leiden Declaration)を発表した。AIが数学研究に急速に浸透するなか、その利活用を研究コミュニティ主導で健全に方向づけることを目的とした宣言で、AIを数学に責任ある形で活用するための原則を示している。国際数学連合(IMU)が支持し、3,400人以上が署名した。宣言は「製品を誇大に宣伝する企業の主張を鵜呑みにしないよう」政策立案者や政府・メディアに呼びかけている。宣言の正式文書および背景についてはLeiden Declaration公式サイトを参照されたい。

Fournier-Facio氏の言葉が、研究者の懸念を端的に表している。

「AIが10年間人間が何も進展できなかった問題を独力で解いたと言えば、ずっとインパクトがある。過去10年の人間の研究を巧みに組み合わせたと言っても、セクシーじゃないからね」

彼が本当に恐れているのはその先だ。「人間の場合、最後の石を置いた人は、ピラミッドを作った全員の仕事を奪うわけではない」。しかしAIが最後の一手を担うとき、そうはならないかもしれない。


今、何が起きているのか

5月にはOpenAIが、数学者Paul Erdős(エルデシュ)が提唱し約1世紀解けなかった予想をAIが解いたと発表。7月にはハーバード大学の数学者Levent Alpöge氏が、AnthropicのモデルClaude Fable 5(元記事に記載されたモデル名)が「ヤコビアン予想(Jacobian conjecture)」を小さな反例で否定したとXに投稿した。ヤコビアン予想は代数幾何学の難問で、数十年にわたり証明が試みられてきたものだ。

数学という分野が今、「AIに最初に本格侵食された知的探求領域」になりつつある。そしてAIの成果がどこまで「解いた」と呼べるのか、先行研究への貢献をいかに正確に認定するかという問いは、技術的な問題であると同時に、研究コミュニティの規範そのものを問い直す問題でもある。その速度に、当事者である数学者自身が追いついていないのが現状だ。

詳細はThe AI takeover of mathematics has begunを参照していただきたい。