8月12日、CNBCが「Google's new AI boss inherits a race to catch OpenAI and Anthropic」と題した記事を公開した。モデル開発、アプリ、デベロッパーチームを一人のトップに集約するという大胆な組織再編——アナリストはこの構造そのものが、OpenAIやAnthropicに対するGoogleの差別化になり得ると見ている。就任したKoray Kavukcuogluは、フロンティアモデル競争での遅れという重荷を背負いながら、「研究よりも実行」への転換を求められている。
組織構造そのものが競争優位になるか
Forrester VPのBrian Hopkins氏は、Kavukcuogluが束ねる範囲の広さ——モデル研究、Geminiアプリ、デベロッパーチームの一体管理——に真っ先に着目する。「これはラボではなく、プロダクトグループとして組織する方法だ。OpenAIやAnthropicよりも、Googleがはるかに得意とすることだ」とCNBCに語った。
研究機関としての純粋性よりも、製品サイクルを回す組織としての機能性を優先する——この方針転換こそが今回の人事の核心だ。KavukcuogluはSVP(上級副社長)としてSundar Pichai CEOに直接報告し、Geminiモデル開発、フロンティアAI研究、Geminiアプリおよびデベロッパーチームを統括する。
DeepMindの新トップ、Kavukcuogluとは何者か
Koray Kavukcuogluは、DeepMindがGoogleに買収される前の2012年から在籍するベテランだ。直近ではDeepMindのCTO、そしてGoogle全体のチーフAIアーキテクトを務めており、過去1年間はDemis Hassabisから段階的に業務を引き継いでいた。モデル開発の指揮や主要なGeminiリリースの発表も担ってきたという。
Hassabisは共同創業者としてDeepMindの会長職に退く。DeepMindは2014年にGoogleが買収したAI研究機関で、AlphaGoやAlphaFoldといった成果で知られる。Hassabisはノーベル化学賞(2024年)を受賞するなど研究者としての評価が高い一方、今回の交代は「研究から実行へ」というGoogleの優先順位の変化を象徴するものとして受け止められている。
また、Kavukcuogluがロンドンからカリフォルニア州マウンテンビューのGoogle本社に拠点を移したことについて、Futurum GroupのNick Patience氏は「GoogleはひっそりとAIリーダーシップをロンドンから統合しつつある」と指摘している。Googleのスポークスパーソンはロンドンへのコミットメントは変わらないと述べた。
なぜ今、この人事が必要だったか
背景にあるのは、Googleのフロンティアモデル開発の停滞だ。
2025年11月にリリースしたGemini 3(Googleの第3世代大規模言語モデルシリーズ)はアナリストから「フロンティアを前進させた」と評価され、Alphabetの株価も上昇した。だが2026年に入ってからは、AnthropicのMythosモデル(Anthropicが2026年にリリースした次世代フロンティアモデル)、OpenAIのGPT-5.6(OpenAIのGPT-5系列の後継モデル)がいずれも高く評価される一方、Googleは2026年2月のGemini 3.1 Pro以降、フロンティア水準のリリースが滞っている状況にある。
※なお、Gemini 3・3.1 Pro・3.5 Pro、AnthropicのMythos、OpenAIのGPT-5.6はいずれも元記事が言及するモデル名であり、TechFeed編集部として独自に確認・補足できる公式情報は現時点で限られている点をお断りしておく。
7月にはGemini 3.5 Pro(コーディング能力の強化を重点とした次世代モデル)のリリース延期が報じられ、Alphabetの株価は下落した。コーディング能力の強化を目的とした社内チーム「Code Strike」を組織するなど、巻き返しを図っている状況だ。
Morningstarのシニアエクイティアナリスト、Malik Ahmed Khan氏はGoogleの遅れについて「コーディングという最初の明確なキラーユースケースを逃した」と指摘する。コーディング分野でAnthropicとOpenAIはGoogleに「大きく差をつけている」とも述べた。
一方でGoogleのスポークスパーソンはCNBCに対し、「インテリジェンスを解決してからすべてを解決する」というミッションから注意がそれていたという見方は不正確だと反論。エージェント、コーディング、ロボティクス、ワールドモデルなど複数の方向でAGI(汎用人工知能:人間と同等以上の知的能力を持つとされるAIの概念)への道筋を進んでいると説明した。
「研究よりも実行」へのシフト
アナリストの評価は概ね「方向性は正しい」というものだ。
Constellation ResearchのRay Wang氏は「Kavukcuogluの昇格は、Googleが深い研究よりも実行を優先していることを示している」と述べ、「より速いリリース、より多くの実験、プロダクトロードマップへの注力が期待できる」と分析する。
Morningstarのカーン氏は「DemisはLLMを超えたAGI構築に強い関心を持っていた」と前置きした上で、Kavukcuogluの下ではLLMの改善が明確な主軸になると見る。「この体制変更により、GoogleはLLM競争においてより有利なポジションに立てる」とも述べた。
Futurum GroupのPatience氏は当面の優先課題を明確に示している。「最初のステップはGemini 3.5 Proを出荷することだ。そして一発屋ではないことを証明するために、予測可能なリリースサイクルを維持しなければならない」。さらに「コーディングと事前学習の専門知識を持つ人材が流出しており、それを再構築する必要もある」と指摘した。
モデルは遅れても、マネタイズは好調
ただし現状を「危機」と見るのは早計という声もある。
CNBCの記事中で言及されているSebastian Mallaby氏は、Hassabisに関する著作の著者として紹介されており、「モデルは遅れているが、マネタイズは非常にうまくいっている」と述べ、AndroidやApple IntelligenceへのGoogle AIの展開を例に挙げた。著名な人材の離脱があっても「全体的な危機として描くのは間違い」とし、「Geminiチームは関係者全員を含めると数千人規模だ」と付け加えた。
※編集部の考察:Mallaby氏はCNBCの報道中で著者として紹介されているが、TechFeed編集部として書籍の詳細を独自に確認できていないため、元記事の記述の引用にとどめる。
Pichai CEOは先月の決算説明会で、Fortune 100企業の約90%がGemini Enterpriseを利用していると述べており、クラウド顧客へのAIサービス販売は堅調だ。
詳細はGoogle's new AI boss inherits a race to catch OpenAI and Anthropicを参照していただきたい。




